試練と目的
昼食後に再び玉座の間にやってきた。マナーが良くわからないので白蛇の真似で乗り切ろう。三回扉をノックして返事を待つ。
「魔王様!田所です。今良いですか?」
「いいぞ、入ってこい」
「はい、失礼します」
ゆっくりと扉を開ける。重厚な石のような素材の扉は見た目ほどではないが、やはり重い。
「どうした?暇なら指示があるまで書庫や訓練所を使っても良いぞ」
「はい、そう聞いています。ただ、今後のことで相談したいんですがお時間ありますか?」
「ああ、構わない。だが、その前に。お前の言葉づかいが気に食わん」
白蛇の言葉づかいで良くて俺が駄目とはどういう基準だ。まさか新参への洗礼か?
「お前はもっと気楽に話せんのか?昨日も言ったが態度が固すぎる。ここで働く以上は身内なのだからもっと楽にしろ」
「でも、魔王様は上司ですよ。白蛇みたいな風にはできません」
「うーん、それが人間の価値観か?それとも向こうの世界のものか?・・・ああ、そうだ。それがあった。お前は勇者だったな」
魔王が何かに気付いたようだ。なんとなく嫌な予感がする。
「伝承では勇者は特別な人間なんだろ?なら田所、お前は今から私と対等に会話しろ」
何言ってんだこの上司は。人の価値観って自分で言っておいてタメで話せとは。
「魔王様と対等に話すのは無理ですよ。他の部下の方も納得しないんじゃないですか?」
「いや、魔物は強者であれば大抵のことは許される。お前は普通の人間より強いんだろう。問題ない。それにこれは上司の命令だ。今後は敬語をやめろ」
上司として命令をしておいて、対等に会話しろとは。ひどいダブスタだ。どうでもいいところで、初めて魔王らしいところを見せてきやがった。いや、これは暴君か?だが、そこまで言われたらこちらも分が悪い。
それに何らかの狙いがあってのことなのかもしれない。人間でも対等に接することをアピールしたいのかもしれないし、元勇者という存在に思うことがある魔物の対策ということも考えられる。仮に後者であるなら魔王なりの気遣いかもしれない。
「わかりまっ、わかった。魔王、これで良いんだな」
「ああ、それでいい。で、相談っていうのはなんだ?」
ようやく本題に入れる。魔王には白蛇に教えてもらった人間との間の悪循環、それを改善するために俺がやるべきことを尋ねた。
「うむ、確かに人間であるお前が間に立ってくれれば好転するかもしれん。だが、今のお前には荷が重い。人間との関係改善は最重要事項だ。魔王城の中心人物でもないと務まらん。お前には信頼も戦闘能力も足りていない」
俺の仕事は潜入捜査と外交だと思っていたのだが、強さも求められるらしい。個人的にはどう考えても不要だが、魔物の価値観を思い出す。強さが重視されるということなので、弱者は信頼に値しないのだろう。
「まあ、ここに来て二日目だからな。信頼がないのは理解できる。だが戦闘能力はどうすればいいんだ?まさか魔王に勝て、とは言わないよな」
「私に勝つか。それならそれでも良いぞ。だが、いくら勇者でも1人では無理だな。私ではなく四人衆の内、一人でも倒して見せろ」
「ええと、その四人衆ってのは?」
いきなり知らない登場人物が四人も増えてしまった。しかも前世の経験のせいで呼び方に若干の違和感がある。今からでも四天王とかにならないだろうか。
「私の部下の中で最も高い実力と信頼を持った四人のことだ。奴らの内一人でも倒せれば、勇者として合格点だろう。何よりお前は私と対等に会話しているんだ。そのくらいはできないと困る」
「お前、強引に対等に話させておいてだな」
ここまでの流れは魔王の想定内だったようだ。四人衆とやらは強そうだが、俺が弱いと安心して頼めない仕事があるのは確かだろう。それと、他にも魔王に要求されていることがあったな。
「それは良いとして、さっき言ってた信頼っていうのは?」
「うむ、そうだな。では今日も質問をさせてもらおう。お前はこの世界の人間ではないのだろう。なぜ危険な仕事を請け負ってまで人間との仲を取り持ちたいんだ?」
なぜだろうか。思えば昨日はじっくり考える余裕がなかった気がする。命の恩人の白蛇のためなのか。俺と同じ境遇で、年下の倉宮が戦うのが嫌なのか。どれも間違ってはいない。だが・・・。
「最初は白蛇を手伝いたいだけだった。だが、今は俺と同じように裏切られ、帰る場所がないような人を増やしたくない。とにかく戦争をさせたくないんだ。もちろん人間だけでなく魔物にもあんな苦しみは味わってほしくないから、かな」
「そうか、それがお前の戦う理由で良いのだな?」
「ああ、嘘じゃない。これが俺の本心だ」
「・・・うむ、わかった。私はお前のことを信頼しよう。あとは四人衆を一人で良いから倒して見せろ」
魔王がさらっと重要なことを言った気がする。さっきまで圧迫面接の空気間で言ってたくせにこんな短いやり取りで信頼するのか。
「魔王様の信頼は随分安売りしてるんだな」
「安心しろ、相手はしっかり選んでいるさ」
「つまり魔王、お前初めから試してただけか」
「仕方ないだろう。万が一にも元仲間への復讐のついでだ、とか言われたらさすがに許容できないからな」
つまりは最低保証のためだけに、面接官ごっこに付き合わされたようだ。まあ前世の重役のいびりに比べればマシなものだろう。
「それで肝心の四人衆は今会えるのか?」
「ああ、今城内に二人居る。だが、今すぐ戦っても勝ち目はない。一か月間程度はしっかり鍛錬するといい」
「白蛇の話だと、勇者たちがここに着くまで早くて二か月。俺が四人衆を一か月後に倒したとして停戦交渉は間に合うのか?」
「わからん。勇者一行とアルティミシアの情報が少なすぎる。だが間に合わせたいのなら急ぐんだな」
一営業職の俺には外交に掛かる時間なんて想像もつかない。だが魔王がわからないと、いうなら文字通り受け止めて良いのだろう。念のため、魔王と勇者たちの戦いを止めるには、ほとんど時間がないと考えるべきだ。
「わかった、魔王。俺はすぐに訓練場に行ってくる」
「そうだな、しばらくは徹底的に鍛えろ。魔法について知りたいことがあれば書庫にいる者に聞くと良い。暇を持て余しているから喜んで教えてくれるだろう。剣の訓練に必要であれば相手は自分で見つけるんだな」
魔王が餞別とばかりにアドバイスをくれる。上司とはいえ、美人である魔王から応援されるのは悪くない。行き場のなくなった俺を雇い入れてくれた恩もある。期待に応えられるように強くならなければ。
「魔王、ありがとう!俺、強くなって戦いを止めるよ」
「ああ、精々頑張るんだな」
魔王から許しも出た。そして何より、自分のやりたいこともはっきりした。前世でも最期まで見つからなかった、やるべきことが見つかったんだ。やってやる。




