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トラッシュボックス

作者: 古びた望遠鏡

「その日は全部無理そうかな。」

この言葉がスマホの画面に出てきたときに初めて"フられる"という言葉が空想の世界から現実の世界の出来事となった。メッセージを送るのに2時間以上かかりながらも勇気を振り絞って誘った結果は残酷である。

今まで気を引くためにあの子の帰り道を狙って話しかけに行ったり、わざわざ道を遠回りして長く一緒にいたことも今となっては水の泡だ。

こんなとき人間はどうすれば気が晴れるのか俺にはわからない。ただ家の中にいてはいけないという直感から家を出て散歩をすることにした。

家を出てすぐの道は帰宅途中の中高生で溢れている。集団になって騒ぐ者、男女で仲睦まじく帰る者、一人でたんたんと帰る者とこれだけでも多くのカテゴリーがあった。

そんな中高生を横目に歩いていると、ツタが生い茂る小さめの一軒家があった。普段気にして歩いてなかったため特段気にならなかったが、こうして見るとインパクトがある。それも両隣の家が比較的新しいので尚更目立っている。

そしてその目立っている住宅の目の前には小型のゴミ箱が置かれていた。一見どこにでもあるゴミ箱ではあったが、ゴミ箱の蓋にこんな貼り紙があった。

「みんなのトラッシュボックスです。ご自由にどうぞ。」

この文章から読み取るにゴミ箱として使っていいということなのだろうが、正直言って意味がわからない。別に何かを売ったりしている店でもなければ、分別方法が記載されているわけてばなく、ゴミ箱の表面に大きくリサイクルマークが貼られている。ただのゴミ収集が趣味の変態なのかまた別の目的があるのかわからないが、家の外観と相まって不気味だった。

とはいえこんな気分なのでいつも気にするようなことでも気にならなくなっていたため、俺はカバンからボールペンとA4ノートを取り出してあの子の名前を大きく1ページいっぱいに書いて、それを破ってトラッシュボックスの中に入れた。

普段の俺だったなら通り過ぎていたであろうところを今日は抑えられない感情ゆえにバカなことをしてしまった。ただ、気落ちしている時こそ普段と違う行動をとることで気分は晴れるもので、俺はほんの少しではあるがスッキリした。そうして俺は夕陽を背に来た道を帰った。

翌日、2限の授業を受けるべく学校へ向かった。その授業にはあの子がいるはずである。昨日の件も相まってやや重く感じた扉を押して部屋に入る。

ギリギリで着いたためかほとんどの学生が着席していたが、あの子の姿は見当たらない。俺はほんの少しだけ安心した。気分が少し晴れたとはいえまた直接見ると思い出してしまうことで再びナーバスになってしまうのが怖いからだ。

そしてチャイムが鳴り、担当教師は出欠を取り始めた。そして30人ほどの出欠を取り終えた後に俺は奇妙な状況に困惑していた。いつも18番目に呼ばれるあの子の名前が呼ばれなかったのと全く聞いたことのない名前が呼ばれていることである。俺は辺りをキョロキョロ見回して窓際に知らない顔がいることに気づいた。その知らない顔は隣の子と談笑しており、横顔しか見えなかったがどこか懐かしくもあり、新鮮な感覚を与えるものだった。表現として正しいかわからないが、元のベースからいくつかのパーツを付け替えてアレンジを加えたプラモデルのようであった。

そして驚くことにあの子の名前が呼ばれていないことに俺以外の他のやつらは違和感を感じていない。ただ、俺も不思議と欠けている感じはしなかった。ジグソーパズルのピースの大きさや形はそのままで色合いだけが少し変わったような心持ちである。

俺はその奇妙なことをほんの少しの違和感として処理して授業用ノートを開いた。ところで窓際のあの子の名前って何であっただろう。気になるので後で話しかけてみよう。

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