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愛され男爵夫人の下克上 〜クラウディア、寂しさあまって神に挑む〜  作者: 奏似
2章 せんかの光明

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9/11

2-2

瘴波。

あの、鹿を魔物に変えた現象を指す言葉だ。

これが吹くと魔物が発生する、というのはこの世界では常識らしい。

…………。

初耳なんだけどわたし。

と言いたいところなんだけど、言葉が出ない。

負傷した義弟の前だから空気を読んだとかそういう話ではなくて、物理的にムリというか。

街道と言っても舗装された平坦な道ではなく、木々を伐採して均しただけの悪路だ。

そこを馬車が全速力で疾走すればどうなるかといえば、なんというかもう、撹拌。

わたしはマルカに全力でしがみつき、マルカはわたしとパルラディの身体が浮かないように全力で押さえつけている。

馬車の外からは散発的に戦闘音が鳴り響いて魔物の存在を知らしめてくる緊迫した状況。

いや、よく瘴波の説明とかする余裕あったよねマルカ。

大きな街や古い村には神の御加護があるので瘴波が吹くことはないが、開拓村ではそれが期待出来ないので油断めされぬように、と説明が続く。

相槌を打とうとしたところで馬車が跳ねて頭がガクガクと揺さぶられる。手間が省けたと思おう。そうしよう。

と。

「わぷ」

一際強い衝撃が襲いかかり、馬車が明らかに跳ね、傾き、そして進む馬の足が止まる。

「どうしました?」

「車軸が折れました、進めません!」

マルカの問いかけに御者が答える。

「姫様、申し訳ありませんがここからは歩きます」

「そ、それはいいんだけど」

歩くも何も、身動きが取れない。

わたしもマルカも、パルラディに覆いかぶさられている格好なのだ。咄嗟に庇ってくれたのだろう。

衝撃が収まったのだからもう大丈夫なのだけど、パルラディがどいてくれる様子もない。

「…パル?」

返事がない。

「気を失っているようです。ご容赦を」

脈を取っていたのか、パルラディの首筋に手を当てていたマルカが力任せに押し退けると、彼はそのまま傾いた馬車の内壁にもたれるように転がされた。

左腕が利かない状況でわたしとマルカを庇ったのであれば、受け身など考える余裕はなかったのだろう。

脈があるのならよかったけど、……わたし、役立ずだね……。

「御者の方、手を貸してください。パルラディ様を降ろさないと姫様が出られません」

「直ちに!」

「左肩を負傷しています、気を付けて」

御者を務めていた兵士は、馬車の扉を開こうとするが、建付けが狂ったと気付くや

「失礼、壊します」

力ずくで扉を引き剥がし、パルラディの右脇に頭をくぐらせて彼を車外に運び出した。

マルカは運び出すその脇をすり抜けて剥がされた扉に毛布を被せると、こちらへ、と御者に促した。

「姫様、お待たせいたしました。参りましょう」

差し出された手を取り車外に出ると、そこはもう森ではなく、開拓村の入口を抜けた辺りのようだった。

簡素な家が点在してはいるが、女子供の姿はなく、斧や鋤などの農具で武装した男衆が入口を塞いでいた。

パルラディは戸板に寝かされている。気絶しているのだから当然だが、このままにしておく訳にはいかない。

けれど。

彼の傍に寄ろうとしたわたしの預けていた手が思わぬ方向に引かれる。

「姫様、村の中央に向かいます。ここも安全とは言えませんので」

「待ってマルカ、パルを置いてはいけない」

「じきに本体が追いつきます故、パルラディ様は彼らに任せます」

「そんな、パルはわたしを庇って倒れているのに!?」

「姫様!」

預けた手が強く握られる。

「お立場を弁えてください。貴方様がここに留まれば、皆は村よりも姫様を優先せねばなりません」

「でも!」

「姫様に何が出来るのです!?彼の傷を癒せますか?彼を背負って運べますか?」

「それは…」

「足手まといにならぬよう速やかに避難することが最善です。お分かりいただけぬようでしたら、縛ってでもお連れいたします」

「…分かりました」

分かってる。分かってる、けど。

泣いても叫んでもパルの助けになることはない。叩きつけた正論で抵抗する気力が削がれたのを確認したマルカは、もはや問答無用と再びわたしの手を引いて足を進めさせた。

道の先には広場があり、人が集まっているのが見える。戦えない人達が避難しているのだろう。

あそこに辿り着けば、兵士や村の男衆らの守るものが分散せず防衛に専念できる。

理屈は分かってる。ただ、自分の無力さが悔しくて情けないと思うだけだ。

「……けて」

ひとつの家の脇を抜けようとした時、かすかにそれは耳を打った。

「…え?」

「おかあさんをたすけて、おひめさま!」

裾をぎゅっと掴んで縋り付いてきたのは、幼い少女だった。

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