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かっぽかっぽかっぽ。

「楽しいなぁ、クラウディア」

「あの、お義母様」

「なんだい?」

「家族水入らず、って仰っていましたよね?」

「あぁ、勿論。誰にも邪魔などさせるものか」

「確かに脅威はないと思いますけれど」

領都を背に街道を北へ。

今は草原地帯を抜けて、森を切り拓いた道を悠々と進んでいるところだ。

……沢山の兵士さん達に囲まれて。

「同じ釜の飯を食べたから兵士は家族、とか?」

「あはははは、クーは面白いことを言うな」

「……笑われた」

解せぬ。

マルカの予想は見事に的中し、遠乗りの予定は開拓村の視察にまるっとすり替わっていた。

兵士の皆さんは一晩で遠征の準備を済ませ、今は私とお義母様を中心に散開して警戒しつつ進んでいる。

そのすぐ後ろには豪奢な馬車が追従しており、中にはマルカが乗車している。

えっと、普通に考えたら私もそっちじゃないの?とは思うものの、お義母様は私を膝の上に乗せて上機嫌だし、木石を除いて道を拓いたとはいえ見るからに凸凹の悪路だ。ひ弱なわたしが馬車の揺れに耐えられないのは目に見えている。

……輿入れの時も散々だったしね……

ひきかえ、お義母様の膝の上はこんな悪路でも変わらず驚異の快適さを誇ってはいるのだけれど。

とはいえ、座りっぱなしというのはそれだけでも辛いものである。

「あの、お義母様…」

「おお、疲れたか?では少し休むとしよう」

サッと手をひと振りし、伝令兵に警戒しつつ休息と伝えると、私を抱えたままひらりと下馬。

久しぶりに地に足を着ける。

んーーーーー!!気持ちいい。

…………あ。

無意識に身体を伸ばしてしまって、貴族令嬢の振る舞いじゃないヤバい、と思ったらお義母様も横で軽くストレッチ。

……何をしてても絵になるなこの人……

「ん?どうかしたか?」

「いえいえいえいえ」

「そうか?では私は少し周りを見回ってくる。……パル、エリオ」

再び馬上に戻りつつお義母様が呼び寄せたのは2人の息子。

次男のパルラディと三男のエレウテリオだ。

「パルはクラウディアの傍につけ」

「承知しました」

「エリオは村への先触れだ」

「えー」

「エリオ?」

「はーい、しょーちしましたー」

頬を膨らませながらも指示に従い馬を走らせていったエレウテリオはわたしの1つ上の14歳。家族水入らずと聞いたのに蓋を開けてみれば行軍訓練なのだから話が違うとへそを曲げるのも分からないではない。

「全くあいつは…」

呆れ顔のパルラディも、同情の色が隠せていない。仲のいい兄弟だ。

「ではパル、任せたぞ」

「はっ」

とはいえ、流石に弟とは違い、公私の区別はしっかりつけて、母子ではなく軍の序列に則った振舞いが出来ているのは大人である。

そりゃあ思わず笑みも溢れようというものだ。

「……何か?」

「いいえ、なんでも」

逃げるように道の端へ。

道を外れればすぐに暗い森の中だ。

よーく目をこらせば点々と兵士の姿が見えるが、前世ですら森なんて画面の向こうの世界だったのだ。

異世界。

いや、わたしが今いる世界丸ごと異世界なんだけど、目の前の景色は本当に馴染みのない縁遠いもので、なんというか…怖い。

「奥方様」

びくっ!

慌てて振り返るとマルカだった。

「驚かせてしまい申し訳ございません。お茶の用意をなさいますか?」

「あー、えっと、うーん…………パル、目的地まではあとどのくらい?」

「もう目と鼻の先というところでしょう。エリオもすぐ戻ると思います」

道中、もちろん何度か休憩は挟んでいるのだ。お茶も飲んだし軽食も摂っている。

お義母様には要人警護の訓練なのだからもう少しわがままを言ってもらわないと困る、と冗談も言われたものだけど。

……気まずいねん。

周りの兵士さんたちはその間もしっかり警護の任についているのだ。わたしが優雅にお茶をしているその間もずっと。

むしろその分任務の時間が伸びる訳で。

もう村の近くだと言うなら、さっさと行こうさっさと。その方がよっぽど気が休まるというものだ。

「では、村でゆっくり休むことにしましょう」

「かしこまりました」

兵士さんたちも早く休みたいよね、とふと森に目をやると。

はた、と目が合った。気がした。

何と?

兵士さんたちではない。

赤い双眸がこちらを凝視している。

ぶわっと、暗い風が吹いた気がした。

森の中だけでなく、陽の差している道の上さえも明度を落とすような、薄気味の悪い暗い風が。

ゾッとする風の圧によろめきそうになる中、双眸は変わらずこちらを見ていた。

--鹿?

立派な枝角を備えた鹿だと思った。

枝角がぐにゃりと蠢く。

ぐにゃぐにゃと、まるで別の生き物かのように。

全身が粟立つ。

2本の角が、まるで一振りの槍のように迫り。

私の視界は、暗転した。

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