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ぷろろーぐ②

わたくしことーーあ、前世の名前は非公表でーー現クラウディアは、過労の末の事故で壮絶な最期を迎えた後、この世界に転生した、らしい。

正直前後……あぁ、後はないかぁ……は朦朧としていてろくに記憶に残っていないので、アレの説明によると、としか言いようがない訳だけど。

中世ヨーロッパ風のよくある西洋ファンタジー世界の男爵令嬢に転生、よもや悪役令嬢なのではと警戒した時期もあったものの、そのようなこともなく。

さりとてチート能力を授かって無双するとか、現代知識を活かして生産革命を主導するとかいう訳でもなく。

……まぁさすがにアレだったので、ちょっと食や衛生の改善は図ったけれど(小声)

前世の反省を踏まえ、素敵な旦那様、可愛い子供たちに囲まれて穏やかで平凡な人生を、というささやかな願いを叶えられるよう、アレから祝福を授かった。

そうして、若くして騎士団の一部隊を率いる出世頭オーギュスト=アルバクルス男爵のもとへ嫁いではや半年。旦那様と過ごせた日数、実に4日。

なにこれどーゆーこと?

祝福、不良品じゃね?



「いや、不良品じゃないし。てゆーか、アレ呼ばわりはさすがにひどくない?」

「うっさい。モノローグ盗み聞きするな」

「だってほら、僕創造神だし。全知全能だしさー」

「はいはいそーですねー」

「てゆかクーちゃん分かってる?向こうと違って、穏やかで安全安心な生活がどれだけ得難いかってこと。全然まったくこれっぽっちもささやかじゃないからね?」

「分かってるけどー。前世の記憶がある以上そっち基準になるのはしょーがないじゃない。全知全能って言うなら、それこそ記憶消すなりなんなりすればよかったんじゃないの?」

「それじゃせっかく転生させた意味がなくなっちゃうしー」

「だから、転生させた意味ってなんなのよ」

「それはもう達成してるから大丈夫。前にも言ったけど、魔王を倒せとか世界を統一しろとか言わないから安心してオッケー」

「あの……」

「なんでこの創造神こんなにノリ軽いの……?」

「もっと畏まった方がいい?肩凝るけど」

「いらない。肩凝るから」

「あのー……」

「ほら、やっぱりフランクでフレンドリーな愛され創造神の方がいいでしょ?肩凝らないし」

「堅苦しいよりはましかー。肩凝らないから」

「クーちゃん様!」

「なにそれその呼び方やめて!?」

「クーちゃん様www」

「ちょっとあんた眷属の教育どうなってんの!?」

「こらこら、創造神の胸ぐら掴むのは男爵夫人らしからぬ無作法だよクーちゃん様w」

「わ・ら・う・な!」

「いや、うちの子のここまでの斜め上は史上初じゃないかなぁ。創造神感動」

「創造神感動、ちゃうわボケ」

「く……クー様?」

「ぶは」

「眷属神様実は遊んでます!?」

「いえ、滅相もございません! ……あの、どのようにお呼びしたら……」

「えーと、なんか凄まじく畏れ多いんですけど、愛称っていうなら、ディアとかですかね?」

「では、ディア様と」

「様はやめてくださいお願いしますそしてお前は黙ってツボるな」

「クーちゃん知ってる?この子より僕のほうが偉いってこと」

「創造神様のご友人を呼び捨ては畏れ多くてとても……せめて、さん付けだけでもお許しいただけませんか?」

「お許しもなにも、ただの一信徒なんでこっちが畏れ多いんですが……」

「しかもファッション信徒」

「だ・ま・れ」

「ではディアさん、どうぞよろしくお願いします。改めまして、地母神カレナンツィーナと申します」

「あ、はい。初めまして。ええと、カレナ様とお呼びしても?」

「呼び捨てでいいですよ?」

「そこは様付けでお願いします、ホント」

「……ねぇ、なんでクーちゃんカレナには礼儀正しいの?」

「あんたじゃないからに決まってるじゃない」

「うわヒド」

「……あ、カレナ様的にあまりよくないですか、こういうの?」

「いえ、創造神様がお喜びであれば私からは何も」

「……いいんだ……」

「クーちゃん今更過ぎない?」

「いやほら一応。神様の御前だし?」

「ほんとクーちゃん僕のこと敬う気ないよね」

「もちろん」



「それで、あの、本題なのですが」

「そうそう、忘れてた。やっぱりこの世界でも21歳が13歳に手を出すのは犯罪なんですか?」

「成婚かつ同意の上であれば罰せられるものではないですが、母体が成長しきっていないので、数年は成長を待つのが一般的ですね。いえ、その話ではなくて」

「そっかー、まぁロリコンじゃないのは安心だけど、でももしかしてまだ適齢期じゃないから家に居つかないって可能性も……?」

「いやぁ、子作り的なアレは別としても、好意も関心もない新妻相手にお姫様抱っこはないっしょー。なくてあれならなかなかに天然もしくはサイコパス……」

「人の旦那様サイコパス呼ばわりすんな」

「安心していいですよ。あの方はちゃんとディア様のことを想っておられます。お立場上、忙しくならざるを得ないのはお寂しいでしょうが……」

「いや、あの、カレナ様……」

「はい?」

「カーレーナー? 外野が心の内をバラすのは重大なマナー違反だよ」

「あ」

「いや、まぁ、いいです……けど」

「クーちゃん照れすぎ可愛いウケる」

「だーまーれー」

「あの……本題、そろそろいいですか?」

「あ、カレナ様ごめん本気で忘れてた」

「しくしくしく……いえ、時間止めていただいているので問題はないのですが……ないのですが……しくしく」

「ゴメンて……」



「泣き止みましたか?」

「はい……ディアさん、お世話をおかけして申し訳ありません」

「全くだよ、せっかく時間止めてる中で何してるのさ」

「だ・ま・れ。泣・く・な」

『はい』

「よろしい。ではカレナ様、本題に入りましょうか」

「あ、はい、ええと、あのですね、……ディアさんに折り入ってお願いがございまして」

「教義曲げてこい、とかでないなら喜んで」

「ぴ」

「……カレナ、固まっちゃったけど」

「いや話の流れ的にどう考えたってそれしかないじゃない。むしろビックリされたことにビックリだわ」

「まー神が頼むことじゃないよねぇ、やっぱり」

「でもでも、私じゃもうどうしようも……」

「えーと。自分の信仰対象が心バッキバキに折られてることと、神様が13歳の一信徒に自分の出来ないこと丸投げしてきてることと、どっちがよりシュールだと思う?」

「ドロー」

「だよねー」

「しくしくしく」

「まぁ泣いても凹んでも解決しないのは当然のこととして。本当にただの男爵夫人なんで、なんも出来ないですよ?」

「そうだよねー。甘々な旦那さんは聞き流してくれたけど、聞く人が聞いたら異端審問直行なアウト発言したばっかりだし」

「え。……あれそんなヤバかった?」

「うん」

「うっわ」

「……どうしてもダメですか?」

「カレナ様、仔犬みたいな上目遣いされてもですね。ダメじゃなくてムリなんですってば」

「創造神様……」

「あ、僕介入していいの?」

「ウソですごめんなさいご勘弁ください」

「……ちなみにあんただったらどうするの?」

「ちまちましたのは苦手だから、1回全部リセットしてやり直しかなー」

「全部とは」

「全部は全部だよ、としか。世界丸ごと押し流すなり焼き尽くすなりしてきれいさっぱり」

「絶対やるんじゃないわよ、絶対」

「……フリかな?」

「違うわ!」

「あぅぅ……」

「ともかく。私じゃ力になれないですし、アレは論外ですし」

「論外」

「でもでも、ディアさんもこのままでは困りますよね?これから魔物の活動が活発になるといよいよ旦那様も帰ってこられなくなりますし」

「カ・レ・ナ?」

「あ」

「えーと、なんか今ヤバいこと口走らなかった?」

「……ななななんのことやら……」

「こっち見んなー。……まぁいずれ分かる事だし別にいーけどさー」

「もったいぶらないで早く」

「いやほら、もーすぐ魔王復活する時期だから、その前兆というか余波というか」

「ちょ、話違う!」

「うん?」

「魔王倒したりしなくていいって言ったじゃない!騙したの!?」

「?うん、言ったよ。けど全然騙してないしー。クーちゃんが魔王討伐する必要ないから大丈夫大丈夫」

「そっか、なら安心」

「まぁちょっと今回の魔王討伐はハードモードだとは思うけど」

「……なんて?」

「神聖魔法使えるようにはしてあげたけど、でも限定的解除だから神の御加護が充分あるかってーと、カレナ、どーなのかな?」

「ええと、人類が一丸となって頑張ればチャンスはあるかなぁ、とは」

「ぶっちゃけ勝率どのくらい?」

「1桁%……?」

「ダメじゃん!」

「でもほら、優秀な騎士団のみんなが命を賭して挑めば、どんな苦難も乗り越えられるって信じてるから」

「それってつまり……」

「有望株の旦那さんなら魔王討伐の名誉も夢じゃない、ってことかな?」

「ふ・ざ・け・ん・な!旦那様を死にに行かせる気!?さっさと神聖魔法の封印も限定的解除とやらもとっぱらいなさいよ!!」

「神聖魔法はカレナの権能だから、僕に言われても」

「カレナ様?」

「あ、はい、えーと、その、あの」

「?」

「ムリ、です」

「はぁぁ!?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「そうそう、ダメじゃなくてムリ。クーちゃんと一緒だね」

「揚げ足取って遊んでる場合かこのボケ創造神!!」

「あの、ディアさん、ご説明いたしますのでどうかお鎮まりくださいませ」


カレナンツィーナの説明によると。

人間、教義を誇大解釈。神の呼びかけを聞き入れないどころか、悪魔の囁きと断定。

信仰がカレナンツィーナに向けられていない状態に⬅︎重要。

カレナンツィーナ、神聖魔法を封印。

人間、滅亡待ったナシ。信仰心は強まるが更にあさっての方向に。

再び加護を与えようにも神と人の間のパスがほぼ失われている状態。滅亡を回避するためムリヤリ封印解除。

反動でカレナンツィーナ深刻な弱体化の上、人とのパスが断絶。接点を喪失。


「詰んでるぅぅぅぅぅ………………」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「クーちゃん大丈夫、まだ詰んでない」

「え?なんか解決方法あるの?」

「あ、そうじゃなくて。これから魔物の活動が活発化してみんな命懸けで対処することになるから、クーちゃんとカレナの望んでる『ムリせずほどほどに』なんていよいよ許されなくなるよ、って。だから詰むのはこれからーー」

「そ・ん・な・こ・と・は・聞・い・て・な・い!!」

「クーちゃん胸ぐら掴むの好きだよねぇ」

「あの、ディアさん、まだ、詰んでない、です」

「あぁもう、カレナ様まで……」

「いえ、そうではなくて」

「はい?」

「解決方法がひとつだけーー」

「ーー詳しく!」

「あ、はい。皆が正しい信仰を取り戻し、祈りがしっかりと私の元へ届くようになれば、神聖魔法を再び十全に使えるようにすることが出来ます」

「いやだからそれが出来ないから困ってる訳で」

「そう?」

「なにそのやらしい顔」

「ここに神様と対話出来てる人がいるじゃない。1人だけ」

「は?」

「だから、クーちゃんが皆の信仰を取り戻してあげればいいんだってば」

「ちょ、下手したら異端審問行きって言ったの誰よ」

「下手したらね。だから、上手にやればいいんだって」

「はぁぁぁあ!?」

「ディアさん……いいえ、クラウディア様、どうかよろしくお願いいたします」

「カレナ様、だから様付けはダメだって。てゆーかなんで手を取って。あ、カレナ様の手やーらかい。ちょ、なんか光ってる?なに?カレナ様何してるのちょっと待ってやめてー」

「あーあ、カレナ強引ー」

「……………………………………。ねぇ」

「なーに?」

「カレナ様どこ行ったの?」

「消えちゃったねぇ」

「消えたって何、夜逃げ!?」

「ぶは、夜逃げって。最後の力を振り絞って、クーちゃんに加護を授けただけだって」

「え、カレナ様死んじゃったの……?」

「死んでない死んでない。顕現する余力も使い果たして眠っただけだし。クーちゃんがみんなの信仰を取り戻せばちゃんと目を覚ますよ」

「あ、なんだそれならよかった…………じゃないくて待って」

「あ、はい」

「みんなの信仰を取り戻すってなに」

「みんなの。信仰を。取り戻す。ってことかな? 」

「あんたに聞いた私がバカだった……」

「だから、上手にやればいいんだって」

「下手したら異端審問行きの話題を、どう上手にやればいいってのよ」

「さぁ?」

「他人事すぎる……」

「僕にとっては他人事そのものだしねー」

「うーーーーーーん、みんなの信仰と教義を改めさせて、なおかつ自分の身の安全も確保して、なんてそんな都合のいい方法…………………………あ」

「おや、なんか浮かんだ?」

「洗脳」

「えっぐ」

「いやほら、催眠とか洗脳とかでこっちの思い通りにしちゃえば簡単じゃない?」

「クーちゃんの発想がヤバすぎる件」

「元が無理難題なのが悪いんじゃない!こんなこと考えたの生まれて初めてよ」

「てことは生まれる前は」

「なにか?」

「げふん。まーしゃーない。じゃあ、そういう力を授けたげればいい?」

「え、出来んの?」

「クーちゃん僕が誰か忘れてる?転生特典的なのいらないって言われて宙ぶらりんだったから、そのくらいなら授けられるよ」

「なにそのお年玉貯金みたいなボーナス」

「はっはっは、敬いたまえ。でも、ホントにそれでいいの?」

「え?」

「旦那さんが自分の思った通りにしか愛してくれなくなるけど、ホントにそれでいいんだよね?じゃ、いくよー」

「待って、ちょっと待った、ヤメ、撤回、要らないです洗脳ぱわー」

「あ、そう?ちぇっ」

「どっちなのよあんた……」

「どっちかというならどっちでも?」

「あー、あんたはそーよねー」

「嬉しいなぁ、クーちゃんに理解してもらえて」

「あーもー。いったいどーすりゃいいってのよ」

「まーまー。ほら、時間だって全然ないって訳じゃないし」

「……どのくらい?」

「最短3年くらいで詰みかな」

「ちょ、そんなんあっという間じゃない!」

「ホントだね、頑張れ〜」

「あ、ちょ、せめて一発殴らせーー」

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