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唐突に助けを求めて来たのは、粗末な服を着た少女。
「マルカ、待って!」
「姫様、構っている場合ではありません」
「待って、お願い!」
少女とマルカの綱引きならぬ姫様引き。折れたのはマルカの方だった。
しゃがみこんで少女の話に耳を傾けるが、助けてと言うばかりで要領を得ない。
「落ち着きなさい、お母様はどちらに」
見かねたマルカがそう尋ねると、その手を引いて駆け出そうとする少女。が、マルカはひょいと抱き上げてその足を止めさせた。
「落ち着いて。お母様はどこ?」
「……あれ」
「あの、白い花輪を飾ったおうち?」
「うん」
「分かりました。……姫様、この子をお願いします」
いきなり抱えた子を胸元に押し付けられ、反射的に受け取る。
「ちょ、マルカ?」
「姫様はその子を連れて広場に向かってください」
「ダ--」
「だめ、わたしもいく!」
「駄目です。お母様を助けて欲しいなら言うことを聞きなさい」
幼子を睨みつけたその目をそのままこちらにも向けてくるマルカ。お見通しなのは分かってるけど、わたしまだ何も言ってない…。
「姫様、頼みましたよ」
言うなり、踵を返してマルカは横道を足早に進んでゆく。
「ひめさま、おかあさんたすかる?」
「…もちろん。マルカはわたくしが一番頼りにしているのですから」
「だいじょうぶ?」
「ええ。だからご安心なさい?」
心配ない訳はない。けれどそれを言って少女を不安にさせても何にもならない。
だから。
不安も無力感も心の奥底に押し込めて、今は少女を安心させるため精一杯の笑顔を向けた。
「そういえば、まだお名前を聞いていなかったですね。わたくしはクラウディア、あなたのお名前は?」
「ツィータ」
「そう、いいお名前。さぁ、皆のところへ行きましょう」
「でも…」
「ツィータさんがここにいても、お母様を心配させるだけでしょう?安全なところで待っていてくれる方がお母様も安心してくれると思いませんか?」
「…………………、おもう」
「ツィータさんがいい子で良かった。さぁ急ぎましょう」
あれ、結構重……くない。重くなんかない。大丈夫、わたし大丈夫。
「ひめさま?」
「大丈夫ですからね。ええ、大丈夫」
自己暗示、意外と効くものだなぁ、って。
なんとかかんとかツィータを抱えたまま広場に辿り着いて、そんな感想が頭をよぎったのは内緒である。
「姉様、ご無事で!」
広場に辿り着くと、何やら指揮を執っていたっぽいエレウテリオが駆け寄ってきた。
「ええ、わたしは」
「どうしてお一人で……?というかこの子は?」
「ええと、この子は」
言いかけて、義弟の背後からの気遣わしげないくつかの視線に気付く。
ツィータを降ろしてやると、視線の主たちは一斉に駆け寄ってきた。
「ツィータちゃん、無事でよかった!」
「お姫様、ありがとうございます」
嘘偽りなく少女を案じ、礼を述べる女性たち。だが、ツィータは自ら歩み寄ろうとはせず、またわたしの服の裾をぎゅっと掴んできた。
ああ、ツィータはこの人たちにも助けを求めたのだろう。しかし、この状況で自分の家族に背を向け助けに向かえというのは酷な要求だろう、と想像はつく。
それを幼いツィータに理解しろ、というのは無理な話だ。
ぽん、とツィータの頭に手を置き、軽く撫でる。
「この子の母親が逃げ遅れているようです。今、マルカ--わたくしの侍女が向かっています」
「侍女が?1人で?」
「はい」
「無茶なことを……おい、何名か来い」
義弟が周囲の兵を呼び寄せる。見ると、広場を防衛陣地にするべく工作をしているようだった。
「待ってエリオ。あと、パルのことも」
「小兄様がどうかなされましたか?」
「わたくしを庇って大怪我を。今は気を失っていて、村の入口で寝かせてあります」
「この大変な時に小兄様は…分かりました、後はお任せ下さい」
「エリオ、頼みます。本当に…」
くすっ、と笑うエレウテリオ。
「ご安心を。僕も小兄様もあの母に鍛えられていますから」
促され、離れようとしないツィータの手を引いて広場の中ほどへ進んだ。
聖印が刻まれた石柱の前で地べたに腰を下ろすと、糸が切れたように力が抜ける。
「ひめさま、だいじょうぶ?」
「ごめんなさい、ちょっと疲れたみたいですね」
勢い小さなツィータの身体にもたれ掛かるようになってしまった。幸い押し倒すようにはならなかったものの、起き上がろうにも力が入らない。
「よしよし」
もたれかかられたまま、ツィータがわたしの頭を撫でてくる。
あ、ムリ。これは泣く。
「ひめさま、よしよし。だいじょうぶだよー」
いや、ちょっと、ねぇ。
ツィータまじ天使。




