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 【 望月 優里花 】



 「あなたの質問には何でも答えると約束するわ。そうじゃないとつまらないもの」


 ユリカは余裕そうな笑みを見せる。昨日までの動揺はどこにいったのかと思うほどに、その様子は普通では無かった。カゲはその様子を察してか、ユリカから離れて関与しない姿勢を見せた。



 「分かりました。僕に出来る範囲でやらせてもらいます」


 それを受けて、マブチも覚悟を決める。目の前に居る人物は、ユリカではあるものの、マブチの知っている今までのユリカではないのだから。




 「まず1つ解決したいことがあるんですが、ユリカさんはこの館で随分、大人で冷静な印象でした。それにしては、今の様子がおかしいようにも思うんです。どっちが本当のあなたですか」


 「それは状況によるけど、今の私の方が本当の私には近いわね」


 「その包丁も含めてですか」


 「さあ、それはどうかしら」


 ユリカは言葉を濁したが、マブチからすればその言葉は肯定に近いものに感じられた。

 


 「次の質問をします。僕の予想だと、引き出しのある部屋で見つけた写真に写っていたのは、あなたのマネージャーさんじゃないんですかね」


 「どうしてそう思ったの」


 「単純に消去法ですよ。この館にある『秘密』の手がかりは、必ず僕たちに関係しているはずです。僕はあまり思い出すことはありませんでしたが、ユリカさんも最初は同じような雰囲気でした。でもあれも当然関係してるはずなんですよね。そうなると、最後の写真の被写体はマネージャーだと考えるのが自然なだけですよ」


 「ふふっ、さすがマブチ君ね。限られた情報からそこまで分かるなんて」


 ユリカはそう言って笑っているが、マブチからすれば当たって欲しくなかった予想である。それはつまり、ユリカがマネージャーに対して非人道的なことをしていたと信じたくなかったからでもあった。




 「そのマネージャーさん、あなたから聞いた名前を使うなら桜井祥子さんは、あなたにとって邪魔な存在、そうでなかったとしても、近くに居てほしくない存在だったんじゃないですか? 」


 「そうね、どっちの言い方でも合ってるわ。それに、その質問をするあたり、マブチ君には大体の予想が出来ているみたいね」


 ユリカの言う通り、マブチの中で彼女が起こした行動の予想はある程度目星がついていた。


 「最後の質問です。桜井さんの容姿は、昔のあなたに似ていたんですね」


 「……そうよ」


 「それだけで、彼女にあれだけのことをしたんですか」


 マブチはそう言って怒りの目を向ける。マブチからすれば、ユリカの行動は擁護できるようなものではないと思ったからである。




 「あれだけ、ねぇ」


 だが、ユリカの『秘密』はまだ終わっていないようだった。彼女の表情がそれを物語っているように見える。


 「……あの、ちょっといいですか」


 マブチとユリカが『秘密』を巡って質疑応答を繰り返していた時、マブチの後ろに居たキョーコが静かに言い出した。


 「どうしたのかしら」


 「す、すいません! 話を聞いてて思ったんですけど、ユリカさんが手に持ってる包丁が、関わってたりしませんよね……」


 それは最悪の事態を想定しての質問だった。マブチ同様、そうあって欲しくはないという期待を込めてのことだった。しかし、その予想は裏切られることになる。


 「あら、あなたがそれを当てるのね」


 そう言って微笑んだユリカの顔を見て、マブチは彼女がやった行為を理解してしまう。


 「まさか、切りつけたんですか、桜井さんの顔を……」


 「……えぇ」




 ユリカは当初の宣言通り、その質問にも答えて見せた。しかしその答えは、正常な人間ならば考えることも無い選択肢だったのだ。


 「私は、醜いものが嫌いなの。それがたとえ昔の自分でも、捨ててしまってもいいと思えるほどの嫌な思い出だったから」


 「だからってそれは……」


 「殺したわけじゃないわよ。直した方が良い部分を教えてあげただけだから」


 「最初にあった請求書は、その傷のせいですか」


 「あれは本当に階段から落ちたときのものよ。まあ、誰(・)か(・)に(・)押(・)さ(・)れ(・)た(・)ようにも見えたけどね」


 「……っ! 」


 「まあ、あれ以来あの子の事は見ていないから、今何をしているのかは私にも分からないわ」




 彼女は本当に悪意がなさそうな様子に見えた。だからこそ、その行為は何よりも邪悪なものとなってしまったのだろう。


 「まあ、あれをされても変わる意思がないのならあの子はきっと……」


 そこまでユリカが口にした瞬間、カゲが彼女の背後に近づいてきていた。そして実態の無いその体は、ユリカの口元を包み込んでいるようにも見えた。突然口を封じられたユリカは当然、困惑の表情を見せている。


 「ユリカ様、残念ながらお(・)時(・)間(・)で(・)ご(・)ざ(・)い(・)ま(・)す(・)」




 そう言ってカゲの姿はグニャリと曲がっていき、1つの姿に収束していく。それは写真に写っていた桜井祥子の姿のようだった。顔には厚く包帯が巻かれており、ユリカのことだけを、じっと見つめていたのだった。





 ◇ ◇ ◇





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