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 【 資料室へ 】




 「じゃあ……」


 マブチが最初に『秘密』の手がかりを探す場所を言おうとした瞬間、背筋に寒気が走った。得も言われぬ悪寒が、彼の体を駆け抜けたのだ。それによってマブチはその次の言葉を出せずに言い淀む。


 「どうしたの、マブチ君」


 その様子を疑問に思ってか、ユリカはそう尋ねる。


 「いえ、ちょっと……」


 分かるのだ。何かを知っているわけではないのだが、キッチン、洗面所、書斎、娯楽室、そのどれを選んでも、自分たちにとって最悪の結末に繋がっていることが。


 「何か、ダメな気がするんです」


 漠然とした不安。しかし、確実に待っている気配すら漂う死の選択肢が目の前に用意されている気がしてならなかった。


 「資料室にしましょう」


 だからこそマブチは、まだそのおぞましい気配のしない選択肢を選んだ。そこならば、あるいは。そんな空虚な妄想とも思える賭けに出たのだ。


 「あそこに? パッと見た感じだとめぼしいものはなかったように思えるのだけれど」


 アサヒとユリカは館の中を調べた際に資料室に行っている。その彼女が言うならば、そうなのかもしれない。しかし今の段階でマブチが取れる最善の選択肢はそれしかなかった。


 「だからこそ人海戦術です。4人で探せば、有用なものが見つかるかもしれません」


 「……まあ、一理あるわね。分かったわ」


 4人の中で発言の中心を担っているのはマブチとユリカである。ユリカの同意を得られたことで、場の意見はマブチのものでそのまま一致することになる。




 何度か繰り返した気がする食器の片付け。やはりそれはキョーコが主導して行う。マブチは、知っている。この光景を。


 そして洗い物が終わり、4人は1階に戻ってくる。食堂の正面、昨日まではなかったはずの扉の先に、この状況を変える何かがあることを信じて、マブチは資料室の扉を開けた。





 ◇





 その中は、ひどく埃っぽいように感じた。何年、いや、何十年も掃除がされていないような雰囲気を感じる。事実、天井には蜘蛛の巣のようなものが出来ており、そこら中に置かれている紙の束にもうっすらと白いものがまとわりついているように思える。


 「ほんとにここを探すのかよ」


 アサヒは口元を抑えながらそういった。空気が濁っているとも表現できるような気配がそこには満ちているのだ。


 「とりあえず手分けをして探しましょう。これだけ資料があるなら、何かめぼしいものが見つかるはずですから」


 マブチはそう言って皆を鼓舞する。マブチ自身も、ここに何があるのかは分からない。しかし、探すしかない。それが唯一の光ともいえるだろう。




 資料室の中を探すと、古い文献や文字の読めない資料が大量に出てきた。知らない文字、というよりも、擦れてしまって読めないものがほとんどなのである。


 「これも読めないわね。まるで読ませる気がないみたい」


 ユリカは埃被った資料を持ち上げて言う。何かが書いてあったのは間違いないのだが、意図的か偶然か、それは使い物にならなさそうである。


 「本も劣化してボロボロになってます。開けないものもありますしね」


 「そもそも白紙のやつもあるぞ」


 キョーコとアサヒも意欲的に資料を漁っているが、気になるものは見つからないようだった。




 ここもダメか、とマブチが落胆しかけた時、1つの資料を見つけた。棚の奥の方に隠されるようにしておかれた、比較的、綺麗な資料。マブチはその異質さから、その資料を取り出すことに決めた。腕に埃をつけながら、棚の奥に手を伸ばした。


 「ふっ! 」


 それは奥につっかえていたようで、取り出すのに少し苦労した。そして、それは4人の前に現れる。


 「これは、地図……? 」


 それは地図と思われる資料だった。それまでに見つかった文字の読めないものとは異なり、地図の中には地名であろう文字がいくつか書き込まれているのが分かる。


 マブチはそれを資料室の中央にある机に広げた。その様子を見て他の3人も自分のやっていたことを中断して中央に集まる。


 「何だよ、これ」


 「他の資料と違って文字が読めますね」


 キョーコとアサヒはそう言って地図を覗き込み、そこに書いている文字を解読しようとする。


 

 「ここ、もしかして松吉町なんじゃない? 」


 そう言ってユリカは地図の左下の方を指さす。そこには確かに小さい文字で「松吉」と書いてあるように見えた。そしてその地名は、4人の脳裏に記憶として残っているものだった。


 「松吉……。あれ……? 」


 その瞬間に、マブチは()()()()を思い出す。





 「僕たち、バスに乗ってませんでしたか?」




 そのマブチの言葉は、他の3人の記憶をも呼び起こす。そして4人の脳裏には、夜道の中を走るバスの光景が想起される。


 「乗ってたわ。そういえばなんで今まで忘れてたのかしら……」


 「でも結局ここに来た理由までは分かんねぇだろ」


 「そうですね……」


 4人は解決の糸口を見つけたようにも感じたが、結局館の内情については解決しないままだった。マブチは行き詰ったように感じ、再び地図に目を落とす。この資料室の中で唯一まともに読める資料に、意味がないことなどあるのだろうか。




 そしてマブチは、その村を知ることになる。


 「待ってください。松吉町の近くに、こんな村ありますか? 」


 地図の上に書かれたその村は、「京日村(けいひむら)」と書かれていた。その村は地図上で松吉町から離れた位置にあるものの、間には木の絵が描かれていることから、森などを挟んでいるのかもしれない。


 「僕は今自宅が松吉にあるんですが、こんな村の存在聞いたこともないですよ」


 「私も実家が松吉だけれど、知らない名前ね」


 マブチとユリカは京日村という土地そのものを知らない。しかしそれは確かに地図上に記されているのである。


 「ここにある越智川(おちがわ)って、松吉の中心に流れてる川じゃねぇか? 」


 アサヒが地図上の川のようなものを指さした。その川は京日村から松吉町の方に伸びてきており、途中で分岐して市街地の方に向かっているように書かれている。


 「確かにそんな名前だった気がします。だってバスがその川の上を通りますよね? 」


 キョーコの言うとおりだった。松吉の1つ前のバス停は「越智」といい、越智川に由来した名前になっている。つまりこの地図には実際の土地が記されていることになる。




 「だったら、この京日村っていう土地も実在するはずなんですよね……」


 マブチ達は得体の知れない村の謎に出会ってしまったのだ。そしてそれが、館の存在に大きく関わっていることは、まだ誰も知らない。





 ◇ ◇ ◇





 【 アイテム⑩ 京日村の地図 】 を入手しました。





 目次から「19」へお進みください。






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