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【 書斎へ 】
「探し物をするなら、書斎ですかね。館に関することが何かあれば、今の状況から抜け出す別の方法も分かるかもしれませんし」
マブチはそう提案した。今『秘密』の手がかりを探す候補の中で、一番得たい情報がある可能性が高いのは間違いなく書斎だろう。そう考えての事だった。
「それは確かにそうね。分からないことが多すぎるもの」
「書斎にはかなりの量の本があったので、探し甲斐があると思いますよ! 」
先ほどの探索の際に書斎の方を見たのはキョーコであり、マブチはまだその中を見ていないのだ。その場の賛成もあって、4人は食後に書斎を調べることを決めた。
◇
ユリカが最後のヨーグルトを食べ終わり、それを見て他の3人はそれぞれの食器を持って席を立つ。食堂を出て、まずはキッチンへと向かう。4人分の食器の片付けとなると多少時間がかかりそうだったが、料理の時同様、キョーコがその役を買って出た。
キョーコの家事スキルは目を見張るものがあり、5分もかからない内に、1人で食器の洗い物を終わらせてしまった。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
マブチがそう促すと、書斎の場所を知っているキョーコを先頭にして、その場所へ向かう。書斎は1階で言うとユリカの部屋の真上にあたり、館の南東に位置している。キッチンとはちょうど反対側にあたる部分なので、4人その間少し雑談しながら向かう。
「ユリカさんって仕事に行けないことに対してあんまり焦ってないんですね」
「なに、随分と意地悪なことを言うのね」
「いや、決してそういう訳では……。でも、僕たちサラリーマンとは違って女優の仕事って替えがきかない職業な気がするので」
マブチはユリカの様子を伺いながらそう尋ねる。ユリカが不機嫌にならないか心配していたものの、彼女の反応は意外とあっさりとしていた。
「確かにそうね。女優は見た目そして技術がものを言うから、個性の強い人ほど、この業界では重要視されるものよ。でもね、残念だけど私の代わりになるような女優はいくらでもいるのが現実。そんな現状を変えたくて次の仕事を決めてもらってたのだけど、それももう白紙になるでしょうね」
ユリカから感じられるのは、諦観に近い感情だった。それを見てマブチはしてはいけない質問をしてしまったと感じた。
「気にしないで、マブチ君。私の中ではもう終わってることだから、良いのよ」
「そう、ですか」
空気が少し悪くなったところで、4人は書斎の前に辿り着く。キョーコが代表してその扉を開けると、中から古い本の香りが漂ってくる。図書館で感じるような心地いい匂いだった。
「本の数、すごいな……」
アサヒがそう感嘆してしまうのもうなずけるほどに部屋は、本棚とそこに敷き詰められた本で埋め尽くされていた。棚には入りきらなかったのか、床にも本が敷き詰められている。また、真ん中には高級そうなビンテージの机が置かれている。
「これは探すのに一苦労しそうですね……」
「さすがに分担したほうが良さそうね」
マブチとユリカを中心にして、4人は捜索する本棚を振り分けた。本の数が非常に多いので、少しでも気になった物は全員に共有して、『秘密』の手がかりを探るという方針に決まった。
◇
「……有毒植物図鑑って何に使うんですかね」
「こっちには何だか数学の参考書がたくさん置いてありますよ」
「役に立つ雑学……」
「かなりニッチな専門書も置いてあるのね」
4人は本を一つ一つ確認しながら手がかりを探していく。普通、書斎には置かない可能性の方が高い本も多くあり、寄り道をしてしまいたくなるほどだった。
その時、アサヒが一つの本を手に取った。いや、それは本とはいえないものだろう。適当に並べられたように思われる本棚の中でも特に異質な雰囲気を放つものだった。
「これって、卒業アルバムじゃねぇのか? 」
えんじ色の分厚い表紙、他の本よりも数段背の高いそれは、アサヒの言う通り卒業アルバムと思われるものだった。
そしてそれを見た瞬間に、豹変した様子のユリカがアサヒに駆け寄ってくる。
「中を見ないで! 」
焦っている様子のユリカは、アサヒの持っているアルバムを奪い取ろうとするが、手が滑ってアルバムは床に音を立てて落ちる。そしてとあるページが4人の前に開かれることになる。
そのページには、1つのクラスの学生たちの写真が1人分ずつ並べられていた。そしてそこには、この馬に居る【 望月優里花 】と書かれた女子学生の写真もあったのだ。しかし、その写真に写った姿は、今の容姿端麗なユリカの姿とは似ても似つかない、陰鬱そうな人物の姿があったのだ。
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