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 【 探索② 】






  「そろそろ戻ろうか。ユリカさんたちも、もう一つの扉のことを調べて終わった頃だろうしね」


 マブチ達は2階の情報をもって、ユリカたちが居ると思われる食堂へと戻った。そこには予想通り二人が待っていたのだが、マブチはその場の出来事に少し驚く。


 「あら、お帰りなさい」


 そう言って白い煙を吐き出すユリカ。辺りには少々独特な甘い匂いが広がり、キョーコは反射的に花を手で覆い隠した。正面に座っているアサヒは特に気にしていないようだった。


 「ユリカさん、煙草(タバコ)吸われるんですね」


 「ええ。苦手だったらすぐに消すわ」


 「僕は大丈夫です、慣れてるので。ただ……」


 「ごめんなさい、私、煙草の匂いが苦手で」


 マブチはキョーコの方を一瞥し、それに気が付いたキョーコは正直にそう打ち明けた。そのままの流れでマブチとキョーコは食堂の椅子に座る。マブチはキョーコのことを気遣ってか、ユリカとは対角線上になるように座らせた。


 「分かったわ。ごめんなさいね」


 ユリカは慣れた手つきで服から携帯灰皿を取り出し、煙草の火を消した。合わせて、鞄から消臭スプレーの様なものを取り出して、辺りに振りかける。


 「本来の話から逸れてしまったけれど、1階のもう1つの扉の先は資料室だったわ。本というよりかは、資料が乱雑に重ねられている感じね。それに、蜘蛛の巣が張る程度には使われてないみたいだから、入るなら少し覚悟がいるわね。それと、1階は個人の部屋と上に続く階段以外には特に何もなさそうだったわ」


 ユリカはそのまま捜索の報告に移る。マブチはそれを聞いて自分の手帳に1階の情報を書き加えていく。二手に分かれての捜索によって、「白詰の館」のおおよその構造が判明した。マブチはユリカとアサヒに2階にあったものを伝え、2人はそれを静かに聞いていた。


 「……開かねぇ部屋?」


 少し元気を取り戻した様子のアサヒが、2階で発見された2つの「開かずの部屋」について質問する。


 「うん、キョーコさんとアサヒ君の部屋のちょうど真上にあたる場所に、開いていない部屋があったんだ。ただ、個人の部屋とは違って、特定の誰かにしか開けられないというよりは、鍵がかかっているみたいだったね」


 「へぇ……」


 マブチとキョーコは、開かずの部屋が見つかった際に2人で開けるための方法を模索した。しかし、そもそもドアノブに触れることもできない個人の部屋とは違って、その2つの部屋はそれが出来るのである。その代わりに、ドアノブの上部に鍵穴らしき穴があったのだ。


 「その部屋は、今はいったん後回しにしましょうか。それよりも、キッチンがあったのならどこかの部屋を調べる前に先に食事にした方が良いんじゃないかしら」


 「確かにそうですね」


 そう言ってマブチは自身の携帯電話を懐から取り出し、時刻を確認する。携帯電話の電波は、大方の予想通り圏外になっていて、大抵のアプリなどは使えないものの、時刻の表示機能は辛うじて使えるようだった。それによれば、デジタル表示は7時35分を示していた。アサヒとユリカがいつから起きていたのかは定かでないが、マブチとキョーコは6時近くに起きていることから、すでに起きてから1時間半は経過しているということになる。


 それだけの時間、起きてから何も食べずに過ごしていれば、当然お腹も空くというもので、ユリカの言葉によって他の3人は食事のことで脳を支配されてしまった。


 「じゃあ、私ちょっとキッチンに行ってきますね。確か、そこまで手間のかからない食材もあったと思うので」


 そう言ってキョーコは自ら進んで手を挙げた。


 「料理、出来るんですか?」


 「一応、学生の時にずっと自炊してたので。皆さんのお口に合うかどうかは分かりませんが……」


 「その心配は要らないですよ。僕は好き嫌いとかしないタイプなので」


 「私はヨーグルトとパンがあれば嬉しいわ。朝からはあまり食べない方なの」


 キョーコの料理の腕をよく知らぬまま、マブチとユリカはその流れに追従するように彼女を持ち上げる。しかし2人とも本心では、料理技術の無い自分に白羽の矢が立つことを恐れていただけであった。


 「じゃあ、行ってきますね。あ、アサヒ君はどうする?」


 「……俺は、自分で探す」


 「あ、ちょっと……!」


 アサヒはキョーコにそれを尋ねられると、彼女の方を向くことなく食堂を出て行ってしまった。それについていくようにして、慌ててキョーコも食堂を出る。食堂の中にはユリカとマブチだけが残され、何度目かの気まずい沈黙が流れた。






 「煙草、吸っていいかしら」


 「あ、どうぞ」


 マブチに了承を得たユリカは、カバンから取り出した煙草の箱を手に持ち、流れるような手つきで煙草を口に咥えた。そして高級そうなジッポライターでそれに火をつけて、軽く息を吸い込む。先ほども香った甘い匂いが食堂の中に広がった。


 「あなた、慣れてるって言ってたけれど、吸ってたの?」


 ユリカは携帯灰皿を取り出して、そこに煙草の灰をトントンと落としながら、そうマブチに尋ねた。


 「まあ、昔に少し……。今は時代の流れと、子供が出来たのを機に吸ってないです」


 「ふっ、それだと私が時代に取り残されてるみたいじゃない」


 「あ、そういう意味ではなくてですね」


 「大丈夫よ、ちょっとからかっただけ」


 ユリカの冗談に対して本気で焦った様子を見せるマブチの姿が面白かったのか、ユリカは「白詰の館」に来て初めて笑ったところを見たような気がした。少し打ち解けたような雰囲気が出たところで、マブチはユリカに気になっていたことを尋ねる。


 「ユリカさんは、『秘密』について新しく思い出したことはありますか?」


 「……質問の意図を詳しくしてちょうだい」


 「あ、すみません。えっと、さっきキョーコさんと2階を調べる前に少し2人で話したんですが、キョーコさんはあの寄せ書きを見るまで、自分が受け持っていたクラスのことを忘れていたらしいんです。僕はそれよりも程度が低いんですが、妻とあの記念写真を撮ったこと自体を忘れてたんですよね。ユリカさんにも同じようなことが起きてないかな、と思って聞いてみました」


 ユリカはその話を聞き、白い煙を吐き出した後にそれに答える。


 「あの時は桜井、私の元マネージャーの事を、さも当然のように知っていると言ったけれど、私も彼女の存在のことを忘れていたわ。もしかしたらそれに少し驚いたことがあなただけにはバレてたかもしれないわね」


 「まあ、確かに違和感は感じましたけど……。どうして僕だけがそう思ったと?」


 「あの時、アサヒ君は普通の状態じゃなかった。それに、キョーコちゃんはそういうのに無頓着な感じがするでしょう?……だから、消去法でマブチ君だけになるわ」


 「そうですか、光栄です」


 「ふふっ、そんなに褒めてないわ」


 マブチはユリカと冗談を混ぜながら話をする。マブチの脳裏に浮かんだ、仮説。今の状態の自分達は、『秘密』だけではなく、それに関連することの多くも忘れている可能性がある、というもの。だからこそそれは、今見えているその人の姿が、本来の姿ではないかもしれないという可能性まで示唆していた。勿論、マブチ自身もそれは例外ではない。






 ユリカが煙草を吸い終わって少しすると、食堂の扉が開き、キョーコとアサヒがお盆に載せた食事を運んでやってきた。


 「今はそんなに食事に時間をかけられないと思うので、簡単なものですが……」


 お盆の上には、ユリカが要求した、ヨーグルトにいくつかの果実が入ったものとこんがりと焼かれた食パン、それに塗るためのバターとジャム、それに、綺麗に形作られたオムレツまで用意されていた。


 「すごいな、キョーコさん……。この短時間でこれだけの料理を?」


 「アサヒ君が手伝ってくれたので、すぐに終わりました」


 そう言ってキョーコはアサヒの方を見るが、アサヒは目を合わせようとはせず、お盆を食堂のテーブルに置くと、自分の椅子に座り直し、挨拶もせずに食パンを頬張り始めた。


 「こらこら、いただきますくらいは言った方が良いだろ」


 「……」


 マブチの指摘に、アサヒは意外にも素直に従った。それを待って、キョーコは配膳を済ませると自分の席に座る。




 「いただきます」




 4人そろっての初めての食事。各々言いたいことはあるだろうが、キョーコが先に言った通り、悠長に食事を楽しんでいる場合でも無いのは事実である。


 「それで、この後はどこを調べるつもりなの?」


 ユリカはそう発言する。この流れは、もはや4人の中での暗黙の了解となっているのか、ユリカからマブチに向けた行動方針の提案という、何度も行われてきたものだった。


 「そうですね、僕は……」






 ◇ ◇ ◇







 【 キッチン 】を調べる場合

→ 目次から「10」へお進みください。



 【 洗面所 】を調べる場合

→ 目次から「11」へお進みください。



 【 書斎 】を調べる場合

→ 目次から「12」へお進みください。



 【 娯楽室 】を調べる場合

→ 目次から「13」へお進みください。







 ※これより下は【条件】付きの分岐となります。まだ【条件】を達成されていない方は、お気を付けください。



 マブチ・キョーコ・アサヒ・ユリカの4名の 【 SECRETEND. 】 を既に入手している場合

→ 目次から「14」へお進みください。






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