魔獣を拾った理由
Allieは愛称で、真名(本当の名前)は別にあります。
【魔女が魔獣を拾った理由】
子供が、魔獣の仔子を拾った。
見た目はワンコだけど、こっこは狼族の魔獣だ。
こっこなのに、一人前に遠吠えするのよね。
体の割に足がおっつい(大きい)から、将来大きくなることが分かる。
でも、こんだけこまい(小さい)と、動くぬいぐるみよね。
わらすが、仔犬と勘違いするのも分かる。
わらすも可愛がっているし、こっこも懐いたらしく、二匹がじゃれ合っている光景は、なまら(とても)微笑ましい。
ホント、可愛いものは、見ているだけで癒されるわ。
可愛さが大渋滞して、私の頬と唇の両端が上がりっぱなしなんですけど?
未だかつてないくらい笑いすぎて、顔面筋肉痛なるレベルなのよね。
天才かな? 二匹揃って、可愛さの天才かな?
なまらめんこいわらす(とても可愛い子供)とこっこには、誰も勝てない。
つまり、「可愛いは正義」
っつっても、可愛かったから、拾うのを許したワケじゃないのよ。
ちゃんと、理由がある。
今まで、私ひとりで住んでたんだから、わらすのおもちゃはない。
いい年こいた女の家に、幼児用のおもちゃがあったら怖ぇべや。
私は「人間」が、どんな遊びをするかなんて、知らない。
どうすれば、もがき苦しんで息絶えるかは、良く知ってんだけど。
「どうしたもんか」と考えていたところで、わらすがこっこを拾ったのよ。
そこで、ピンと来たのよね。
「わらすの遊び相手に、ちょうど良いんじゃないか」って。
人間が考えた格言(教えの言葉)として、こんな言葉がある。
・子供が生まれたら、犬を飼いなさい。
・子供が赤ん坊の時、犬は良き守り手となるでしょう。
・幼少期は、良き遊び相手になるでしょう。
・少年期は、良き理解者になるでしょう。
・そして青年になった時、犬は自らの死をもって、命の尊さを教えるでしょう。
なるほど、言い得て妙(上手く言い表せていて、素晴らしい)。
ただし、これは「犬だった場合」の話よね。
わらすが大人になっても、魔獣は死なない。
逆に、人間の方が、先に死ぬ。
うちら魔族は、人間よりもずっと長生きだもの。
人間は、どんなに長生きしたとしても、百年くらいしか生きられないらしい。
まぁ、どっちが先に死ぬかなんて、そんなことはささいな問題よ。
「わらすの子守りが欲しかった」って、それだけの話。
今は、立場が逆転してるけど。
眠るこっこを、わらすが子守りしささってる。
あんな幼いのに、子守りなんて出来んのね。
「ままごと遊び」のつもりかもしんない。
こっこが赤ちゃん代わりっつぅか、赤ちゃんそのものだし。
あの年にして、母性が目覚めたかもね。
何はともあれ、こっこの子守りしささってる、わらすは可愛い。
わらすが、何かを口ずさんでいる。
心地好い音の強弱、柔らかい音の高低、流れる優しい言葉。
聞いていると、不思議と心が安らぐ。
魔族である私には、「音楽」なんてものは、全然分からないけど。
わらすが口ずさむものは、「良いもの」だと感じたのよね。
上手く表現出来ないけど、胸があったかくて、優しい気持ちになった。
人間は道具を使わなくても、口で音楽を生み出せるのね。
ホント、不可思議(理解出来ない不思議なこと)な生き物だわ、人間って。
【人間に恋した魔族】
Kentは魔族でありながら、人間に擬態して人間の街に住んでいる。
住民登録して、就職までしている。
それも「国王特別顧問」だそうだ。
国王の側近で、非常勤(決まった時間だけ働く短時間労働)の国家公務員。
国王に直接意見を言い、情報提供や助言を行なう。
早い話が、国王の相談役。
実質、国の頭脳。
コイツの口車に乗せられた(上手く騙された)国王が、国を動かす。
そうして、着実に破滅の道へと導く。
よくもまぁ、そこまで昇り詰められたもんよね。
それだけ「人間を滅ぼす」ことに、恐るべき執念を燃やしている。
実は、ケントの一族は、頭が良い。
先祖代々(せんぞだいだい)「真実の歴史」を語り継ぐ一族なのだそうだ。
だから、人間の本性を良く知っている。
何をして、何を得、何を失ったか。
どのようにして、人間にとって都合の良い世界を作り上げてきたか。
どれだけ醜悪(心・性格・態度などが卑劣)で不愉快か。
どれだけ、狡猾(悪知恵が働く・ズル賢い)か。
どれだけ身勝手(自分の都合・利益だけを考えて行動する)か。
歴史を捏造(ウソを事実であるかのように作り上げる)したか。
自分達にとって、不都合な歴史的証拠は「なかったこと」にした。
「真実の歴史」を知る魔族達は、排除した。
知れば知る程、強い憤りを禁じ得ない(めっちゃ腹が立つのを、抑えられない)。
ケントは、「真実の歴史」を知っているから、政治力にも長けている(優れている)。
人間の歴史に残らないように、裏方に徹し、表舞台には立たない。
政治が動けば、多くの人間達が動く。
一国の王が無能なら、国民達が暴動を起こす。
悪政に不満を持った、人間同士でいがみ合う。
実際に、暴君(非常に乱暴で国や民を苦しめる、国家を統治する最高地位にある人)により、世界中で戦争が起きている。
ケントは、愚かな人間どもの争いを眺めて、面白おかしく楽しんでいる。
やり方が回りくどい?
そりゃそうよ。
だって、わざと回りくどくしささってんだから。
直接、人間を殺した方が、早いに決まっている。
でもそれじゃ、すぐに滅ぼせちゃうじゃない。
魔族の人間への恨み辛みは、そう簡単には晴らせないのよ。
真綿で首を絞めるように、じわじわ苦しめないと気が済まない。
愚かな人間どもが、苦しみあがきながら、滅びるのが見たい。
人間を、陥れる(騙して苦しめる)為なら、なんでもやる。
目的を果たす為なら、どんな努力も厭わない(イヤがらない)。
コイツは、そういうヤツなのよ。
マジで、正真正銘のクソ野郎だわ。
「森の邪悪な魔女」と呼ばれる私よりも、よっぽど邪悪じゃない。
それはそれとして、ケントは「人間」のわらすに、一目惚れしたらしい。
まぁ、当然よね。
同じ人間とは思えないほど、めっちゃ素直な良い子だし、なまらめんこい(とても可愛い)。
だからって「欲しい」って言われても、やるもんか。
この子は、私のもんよ。
いくら、拝み倒されようが、泣いて頼まれようが、この子は絶対に手放さない。
「くれ」「やらん」と、絶対に負けられない戦い(口喧嘩)の結果。
ついに、ケントが負けを認めた。
しかし、この男は、とことん諦めが悪い。
しょぼくれてたかと思うと、突然開き直って、力強く宣言する。
「よし、決めた! 俺、ここに住むわっ! そうすれば、俺が飼ってるも同然っ!」
「は? 何勝手に決めてんのよ」
「だって、Allieがくれないんだもん! だったら、俺が来るしかないじゃんっ!」
「お前は人間の街に、自分の家があんでしょうが」
「そうだけどぉ……」
ケントは、またしょぼーんと肩を落とした。
ケントは気を取り直して、小動物を愛でるようなデレデレの笑顔で、うちの子の前に屈み込む。
「お名前は、なんていうのかな~?」
その問い掛けに、うちの子は笑顔を失くして、黙って首を横に振る。
ケントは、うちの子の顔色を伺う。
「あれ~? どうしたのかな~? お名前、言えないのかなぁ~?」
「あ~……その子、名前がないのよ」
そういや、うちの子に名前付けんの、すっかり忘れてたわ。
「え? なんで?」
「その子の親が、名前も付けずに育児放棄しささって、捨てたらしいんだわ」
「はぁっ? なんだよ、それっ?」
私の話を聞くなり、ケントは烈火のごとく怒り狂う。
「なんでこんな可愛いものを、捨てられんだよっ? 信じらんねぇっ!」
「だべな。コイツの両親、マジ許すまじ」
「ホント最低だぜ、人間ってやつはよ! この子の親、ふたりとも今すぐ、ぶっ殺してやりてぇわっ!」
私とケントは、うちの子の親を、散々罵った。
気が付いたら、うちの子が俯いて静かに泣いていた。
眠っていたこっこの頭に、涙がポタポタと滴り落ちる。
涙の雨を受けたこっこが目を覚まし、「くぅんくぅん」と鳴いて、慰めるようにうちの子の顔を舐め始めた。
それを見て、うちらはハッとして、口を閉ざす。
しまった。
いくら毒親でも、子供にとって親は、絶対的存在(何がどう変わろうとも、絶対に揺るがないもの)。
虐待されている子供は、虐待されている自分に気付けない。
いくら虐待されても、親を心から信じている。
「愛されないのは、自分が悪いから」と、自分を責める。
どんな毒親であろうとも、子供は親を求める。
捨てられたくないと、愛されたいと、親にすがる。
虐待されても、子供は親をかばうもの。
親をけなされたら、悔しいし悲しいだろう。
幼い心を傷付けて、泣かせてしまった罪悪感はハンパない。
うちらは慌てて、愛しい子を慰める。
「ごめんなさい! うちらが悪かったっ!」
「すまんっ、言いすぎた! お前のパパとママは、絶対殺さないから安心してっ!」
うちらは、うちの子が泣き止むまで、必死になだめ続けた。
少しでもお楽しみ頂ければ、幸いに存じます。
不快なお気持ちになられましたら、申し訳ございません。