表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

焼け落ちる家

残虐ファイトの場面は、全部削除しておきましたので、心臓が弱い人にも安心です。

【飽くなき破壊衝動】

 大勢の人間達が、雄叫おたけび(勇ましい叫び声)を上げている。

 呼応こおう(呼び声に応える)するように、炎も勢いを増し、激しく燃え上がる。

 どうやら、まだ生き残りがいるらしい。

 無駄に数ばっか、ウジャウジャ増やしやがって。

 ガソリンの臭いがただよい、炎の熱で気温が上昇し、空気がひどく乾燥している。

 煙が立ち込めて、周りが白くかすんでよく見えない。

 口元をおおっていないと、煙を吸い込んでむせる。

 私が長年守り育ててきた、美しい森が燃えていく。

 この森がどれだけ大事なものか、人間どもには理解出来ないのか。

 森林火災で大気たいきや水が汚れ、たくさんの罪もない動物や魔族が焼け死ぬ。

 人間も、空気を吸うし、水も飲むし、動植物だって食べるクセに。

 森を元に戻すのに、いったい何年掛かることか。

 なんで人間は、衝動に任せて破壊活動はかいかつどうすんのよ。

 なんで人間は、目先めさき(すぐ目の前)のことしか考えられないのよ。

 人間の社会で何かある度、八つ当たりみたいに襲撃しゅうげきしてきやがって。

 何なのよ、そのくなき破壊衝動はかいしょうどう

 そんなに、うちらが憎いの?

 うちら魔族は、森の中でひっそりと暮らしているだけなのに。

 確かに私は今まで、数えるのもバカらしくなるくらい、人間どもを殺してきたわよ。

 でも別に、このんで、殺した訳じゃない。

 人間どもが襲って来なければ、殺さずに済んだんじゃない。

 なのに、逆恨さかうらみしやがって。

 クズすぎて、反吐へどが出るわ(非常に不快な気持ちになる)。

 人間は、何か不都合ふつごうがあると、「誰かのせい」「何かのせい」にしたがる。

 どうせ今回も、つまんない言いがかりなんだべ。

 Feliciaフェリシアの件だって、そうよ。

奇跡きせきの力」を、持っていなかった。

 ただそれだけで、幼い子供わらす迫害はくがい(弱い立場の者などを、追い詰めて苦しめる)し、街から追放ついほうしやがったクセに。

「魔女が、無能力の子を喰った」なんて、根も葉もない噂を広めやがって。

 人間に感謝することがあるとすれば、フェリシアを投げて(捨てて)くれたことくらいかしらね。

 フェリシアを拾ったばかりの頃は、初めてのことばかりで、苦労することが多かった。

 なんせ、人間の育て方なんて、全然知らなかったから。

 でも、苦労よりも、幸せの方が何倍もあった。

 笑顔が天使みたいに可愛めんこくて、一緒にいるだけでたまらなく幸せで。

 私に抱っこをおねだりして、嬉しそうに甘えてくる。

 毎日毎時毎分毎秒、愛しさがつのっていく。

 子供わらす仔子こっこは、どうして可愛めんこいのか。

 愛したくなるように、可愛めんこい姿で生まれてくるからだそうだ。

 私はフェリシアを拾って、初めて愛する喜びを知った。

 フェリシアは、私に愛することを教える為に、存在しているのかもしれない。

 きっとこの先もずっと、色んなことをたくさん教えてくれるだろう。

 これからも私は、フェリシアだけを愛し、魔族にあだなす(敵対したり、害を与えたりする)人間どもは殺す。

 私の幸せをうばおうとするヤツは、誰であろうと許さない。


【焼け落ちる家】

 森全体の状況を把握はあく(しっかりと理解する)すべく、俺は空高く舞い上がった。

 眼下がんかに広がる惨状さんじょう(見下ろしたところに見える、思わず目をそむけたくなるようなヒドい状態)を目にして、怒りと悲しみを覚える。

「ヒデェことしやがる……」

 人間どもは、部隊ぶたいを分けて、森を焼きち(火をかけて攻め込む)していた。

 今回の襲撃は、人間の方が一枚上手いちまいうわて(優れている)だったようだ。

 森のあちこちで、火の手が上がっている(勢いよく燃えている)。

 今までAllieアリーが管理してきたってのに、なんてことしやがる。

 上空から周りを見渡していた時、一番大きな火のかたまりが目に入った。

 あれは、アリーの家だ! 

 マズい! あそこには、フェリシアとワンコがいるっ!

 もし逃げ遅れたら、ふたりとも死ぬ。

 ふたりとも無事に、外へ避難出来ひなんできただろうか。

 でも、ふたりともまだ幼いし……ひょっとしたら。

 途端に、胸がざわつき出す(悪い予感がして、落ち着かない状態になる)。

 俺はアリーの側へ急降下きゅうこうかし、状況を報告ほうこくする。

「おいっ、ヤベェぞ! お前ん家、燃えてるっ!」

「燃えてるっ? どんくらいっ?」

 アリーは驚愕きょうがく(衝撃的な事実や突然の出来事などを知って、とても驚く)し、俺に詰め寄ってきた。

 その剣幕けんまく(めっちゃ荒々しい顔つき)に、ちょっと引きつつ答える。

「めっちゃ燃えまくってた! もし、逃げ遅れたら……っ!」

「戻るわよっ!」

 アリーは、話を最後まで聞かず、大急ぎで家へ向かって走り出した。

 人間どもが暴れていても、目もくれない(少しも関心を示さない)。

『今は、ふたりの安否あんぴだけが気がかりだ』と、態度たいど物語ものがたっている。

 俺は風を操り、充満じゅうまん(ある空間に、いっぱいに満ちる)した煙を吹き飛ばし、アリーの前に道を開いてやった。

 さらに追い風で、背中を押してやる。

 追い風に背中を押されて、アリーの走る速度はぐんと上がった。

 人間どもの前には、炎の壁を作り上げて、近付けないようにする。

 これでしばらくは、時間稼ぎが出来る。

 風の力はめっちゃ便利で、工夫次第で色んなことが出来るんだぜ。

 雲を風で押し流して、天気を操ることだって可能だ。

 もちろん、空に雲があることが条件だけど。

 今は、大規模森林火災だいきぼしんりんかさいが発生したから、火災積雲かさいせきうんが出来ている。

 炎で地上の水分が蒸発じょうはつし、熱せられて軽くなった空気と共に、空へ昇る。

 空気中にただよっている細かなちり水蒸気すいじょうき結合けつごう(くっついて、ひとつになる)すると、雲になる。

 水蒸気が多すぎると、雲が水分を支えきれなくなって、雨となって地上へ落ちてくる。

 大火災だいかさいの後、必ずと言って良いほど雨が降るのは、この為だ。

 数時間以内に、大雨が降るだろう。

 豪雨になって、少しでも森林火災が鎮火ちんか(火が収まる)すると良いんだけど。

 

「私の……家が……」

 アリーの家は、巨大な炎に包まれていた。

 オレンジ色の炎が燃えさかり、あまりに炎の勢いが強すぎて近付けない。

 炎の中に、黒く炭化たんかした柱や屋根が見える。

 ゴウゴウと激しく燃える音と、バキバキと崩れ落ちる音が聞こえる。

 炎の勢いに合わせて、黒煙が天をつらぬく太い柱のように伸びている。

 恐らく、人間どもが魔女の家を燃やそうと、家にガソリンをぶちまけて、火を放ったんだろう。

 アリーは呆然ぼうぜんと、燃える家を見つめている。

「私……フェリシアに『何があっても、絶対ここから出るんじゃないわよ』って、言っちゃった……」

 恐怖に震え出し、弱々しい声でブツブツとつぶやき始める。

「あの子は……フェリシアは、私の言いつけは必ず守るから、もしかしたら逃げ遅れて……」

 今にも、炎へ飛び込んで行きそうなアリーを、慌てて引きめる。

「大丈夫だって! フェリシアなら、きっとワンコがなんとかしてくれてるってっ!」

 そんな時、どこからかおおかみ遠吠とおぼえが聞こえてきた。

 その声を聞いて、アリーがハッとする。

「あれは、ワンコの声?」

「ほら、アイツが生きてるってことは、フェリシアも無事だよっ!」

 ワンコはいつだって、フェリシアの側にいた。

 アイツがフェリシアを置いて、ひとりで逃げるはずがない。

 狼が遠吠えをする理由は、三つある。

 一つめは、自分の縄張なわばりを知らせる為。

 二つめは、群れからはぐれた仲間を探す為。

 三つめは、仲間とのきずなを深める為。

 愛する仲間を想い、一緒にいたいと願い、仲間を守る為に、狼は遠吠えをするんだ。

 ワンコは、うちらに助けを求めて、遠吠えをしているに違いない。

「でも、どこに……?」

 周りを見回しても、ふたりの姿はない。

 家の裏手うらてに回って見ても、いなかった。

 遠吠えは、近くから聞こえているのに。

「おい! どこにもいねぇぞっ!」

「もしかして、まだ中にいるんじゃ……?」

「まさかっ!」

 その、まさかだった。

 耳をましてみると、炎の中から遠吠えが聞こえてくる。

 炎に包まれた家の中に、ふたりはいる。

「……マジかよ……」

 この猛火もうか(すさまじい火炎)の中から、ふたりを助け出すなんて不可能だ。

 この状況を打開だかい(ピンチを打ち破る)する力を、うちらは持っていない。

 今すぐ、豪雨ごうう(激しい大量の雨)が降ったところで、間に合わない。

 すぐ目の前にいるのに、何も出来ない無力感むりょくかん

 やがて、うちらを地獄の底へ叩き落とすかのように、轟音ごうおん(大きく響き渡る音)を立てて、家が焼け落ちた。

 アリーは炎へ向かって、慟哭どうこく(悲しみのあまり、激しく泣き叫ぶ)した。

少しでもお楽しみ頂ければ、幸いに存じます。

不快なお気持ちになられましたら、申し訳ございません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ