焼け落ちる家
残虐ファイトの場面は、全部削除しておきましたので、心臓が弱い人にも安心です。
【飽くなき破壊衝動】
大勢の人間達が、雄叫び(勇ましい叫び声)を上げている。
呼応(呼び声に応える)するように、炎も勢いを増し、激しく燃え上がる。
どうやら、まだ生き残りがいるらしい。
無駄に数ばっか、ウジャウジャ増やしやがって。
ガソリンの臭いが漂い、炎の熱で気温が上昇し、空気が酷く乾燥している。
煙が立ち込めて、周りが白くかすんでよく見えない。
口元を覆っていないと、煙を吸い込んでむせる。
私が長年守り育ててきた、美しい森が燃えていく。
この森がどれだけ大事なものか、人間どもには理解出来ないのか。
森林火災で大気や水が汚れ、たくさんの罪もない動物や魔族が焼け死ぬ。
人間も、空気を吸うし、水も飲むし、動植物だって食べるクセに。
森を元に戻すのに、いったい何年掛かることか。
なんで人間は、衝動に任せて破壊活動すんのよ。
なんで人間は、目先(すぐ目の前)のことしか考えられないのよ。
人間の社会で何かある度、八つ当たりみたいに襲撃してきやがって。
何なのよ、その飽くなき破壊衝動。
そんなに、うちらが憎いの?
うちら魔族は、森の中でひっそりと暮らしているだけなのに。
確かに私は今まで、数えるのもバカらしくなるくらい、人間どもを殺してきたわよ。
でも別に、好き好んで、殺した訳じゃない。
人間どもが襲って来なければ、殺さずに済んだんじゃない。
なのに、逆恨みしやがって。
クズすぎて、反吐が出るわ(非常に不快な気持ちになる)。
人間は、何か不都合があると、「誰かのせい」「何かのせい」にしたがる。
どうせ今回も、つまんない言いがかりなんだべ。
Feliciaの件だって、そうよ。
「奇跡の力」を、持っていなかった。
ただそれだけで、幼い子供を迫害(弱い立場の者などを、追い詰めて苦しめる)し、街から追放しやがったクセに。
「魔女が、無能力の子を喰った」なんて、根も葉もない噂を広めやがって。
人間に感謝することがあるとすれば、フェリシアを投げて(捨てて)くれたことくらいかしらね。
フェリシアを拾ったばかりの頃は、初めてのことばかりで、苦労することが多かった。
なんせ、人間の育て方なんて、全然知らなかったから。
でも、苦労よりも、幸せの方が何倍もあった。
笑顔が天使みたいに可愛くて、一緒にいるだけでたまらなく幸せで。
私に抱っこをおねだりして、嬉しそうに甘えてくる。
毎日毎時毎分毎秒、愛しさが募っていく。
子供や仔子は、どうして可愛いのか。
愛したくなるように、可愛い姿で生まれてくるからだそうだ。
私はフェリシアを拾って、初めて愛する喜びを知った。
フェリシアは、私に愛することを教える為に、存在しているのかもしれない。
きっとこの先もずっと、色んなことをたくさん教えてくれるだろう。
これからも私は、フェリシアだけを愛し、魔族に仇なす(敵対したり、害を与えたりする)人間どもは殺す。
私の幸せを奪おうとするヤツは、誰であろうと許さない。
【焼け落ちる家】
森全体の状況を把握(しっかりと理解する)すべく、俺は空高く舞い上がった。
眼下に広がる惨状(見下ろしたところに見える、思わず目をそむけたくなるようなヒドい状態)を目にして、怒りと悲しみを覚える。
「ヒデェことしやがる……」
人間どもは、部隊を分けて、森を焼き討ち(火をかけて攻め込む)していた。
今回の襲撃は、人間の方が一枚上手(優れている)だったようだ。
森のあちこちで、火の手が上がっている(勢いよく燃えている)。
今までAllieが管理してきたってのに、なんてことしやがる。
上空から周りを見渡していた時、一番大きな火の塊が目に入った。
あれは、アリーの家だ!
マズい! あそこには、フェリシアとワンコがいるっ!
もし逃げ遅れたら、ふたりとも死ぬ。
ふたりとも無事に、外へ避難出来ただろうか。
でも、ふたりともまだ幼いし……ひょっとしたら。
途端に、胸がざわつき出す(悪い予感がして、落ち着かない状態になる)。
俺はアリーの側へ急降下し、状況を報告する。
「おいっ、ヤベェぞ! お前ん家、燃えてるっ!」
「燃えてるっ? どんくらいっ?」
アリーは驚愕(衝撃的な事実や突然の出来事などを知って、とても驚く)し、俺に詰め寄ってきた。
その剣幕(めっちゃ荒々しい顔つき)に、ちょっと引きつつ答える。
「めっちゃ燃えまくってた! もし、逃げ遅れたら……っ!」
「戻るわよっ!」
アリーは、話を最後まで聞かず、大急ぎで家へ向かって走り出した。
人間どもが暴れていても、目もくれない(少しも関心を示さない)。
『今は、ふたりの安否だけが気がかりだ』と、態度が物語っている。
俺は風を操り、充満(ある空間に、いっぱいに満ちる)した煙を吹き飛ばし、アリーの前に道を開いてやった。
さらに追い風で、背中を押してやる。
追い風に背中を押されて、アリーの走る速度はぐんと上がった。
人間どもの前には、炎の壁を作り上げて、近付けないようにする。
これでしばらくは、時間稼ぎが出来る。
風の力はめっちゃ便利で、工夫次第で色んなことが出来るんだぜ。
雲を風で押し流して、天気を操ることだって可能だ。
もちろん、空に雲があることが条件だけど。
今は、大規模森林火災が発生したから、火災積雲が出来ている。
炎で地上の水分が蒸発し、熱せられて軽くなった空気と共に、空へ昇る。
空気中に漂っている細かな塵と水蒸気が結合(くっついて、ひとつになる)すると、雲になる。
水蒸気が多すぎると、雲が水分を支えきれなくなって、雨となって地上へ落ちてくる。
大火災の後、必ずと言って良いほど雨が降るのは、この為だ。
数時間以内に、大雨が降るだろう。
豪雨になって、少しでも森林火災が鎮火(火が収まる)すると良いんだけど。
「私の……家が……」
アリーの家は、巨大な炎に包まれていた。
オレンジ色の炎が燃え盛り、あまりに炎の勢いが強すぎて近付けない。
炎の中に、黒く炭化した柱や屋根が見える。
ゴウゴウと激しく燃える音と、バキバキと崩れ落ちる音が聞こえる。
炎の勢いに合わせて、黒煙が天を貫く太い柱のように伸びている。
恐らく、人間どもが魔女の家を燃やそうと、家にガソリンをぶちまけて、火を放ったんだろう。
アリーは呆然と、燃える家を見つめている。
「私……フェリシアに『何があっても、絶対ここから出るんじゃないわよ』って、言っちゃった……」
恐怖に震え出し、弱々しい声でブツブツと呟き始める。
「あの子は……フェリシアは、私の言いつけは必ず守るから、もしかしたら逃げ遅れて……」
今にも、炎へ飛び込んで行きそうなアリーを、慌てて引き留める。
「大丈夫だって! フェリシアなら、きっとワンコがなんとかしてくれてるってっ!」
そんな時、どこからか狼の遠吠えが聞こえてきた。
その声を聞いて、アリーがハッとする。
「あれは、ワンコの声?」
「ほら、アイツが生きてるってことは、フェリシアも無事だよっ!」
ワンコはいつだって、フェリシアの側にいた。
アイツがフェリシアを置いて、ひとりで逃げるはずがない。
狼が遠吠えをする理由は、三つある。
一つめは、自分の縄張りを知らせる為。
二つめは、群れからはぐれた仲間を探す為。
三つめは、仲間との絆を深める為。
愛する仲間を想い、一緒にいたいと願い、仲間を守る為に、狼は遠吠えをするんだ。
ワンコは、うちらに助けを求めて、遠吠えをしているに違いない。
「でも、どこに……?」
周りを見回しても、ふたりの姿はない。
家の裏手に回って見ても、いなかった。
遠吠えは、近くから聞こえているのに。
「おい! どこにもいねぇぞっ!」
「もしかして、まだ中にいるんじゃ……?」
「まさかっ!」
その、まさかだった。
耳を澄ましてみると、炎の中から遠吠えが聞こえてくる。
炎に包まれた家の中に、ふたりはいる。
「……マジかよ……」
この猛火(すさまじい火炎)の中から、ふたりを助け出すなんて不可能だ。
この状況を打開(ピンチを打ち破る)する力を、うちらは持っていない。
今すぐ、豪雨(激しい大量の雨)が降ったところで、間に合わない。
すぐ目の前にいるのに、何も出来ない無力感。
やがて、うちらを地獄の底へ叩き落とすかのように、轟音(大きく響き渡る音)を立てて、家が焼け落ちた。
アリーは炎へ向かって、慟哭(悲しみのあまり、激しく泣き叫ぶ)した。
少しでもお楽しみ頂ければ、幸いに存じます。
不快なお気持ちになられましたら、申し訳ございません。