表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/16

魔女狩り

フラグが立ったら、Beachビーチ Flagsフラッグス並みに回収していくスタイルです。

【強襲】

 森全体にめぐらせた結界に「人間」の反応があった。

 人間ごときが、魔族の縄張なわばりに踏み込みやがったんだわ。

 それも、尋常じんじょう(普通)な数じゃない。

 今までの「魔女狩まじょがり」とは、桁違けたちがい(規模が、他とは比較にならない)。

 奴らが押し寄せてくる音と、殺気さっき立った怒鳴どなり声が、遠くから聞こえてくる。

 どこからともなく、かすかにただよってくる何かが燃える臭い。

 Kentケントも気付いたらしく、顔から笑みを消して黙り込む。

 ワンコも警戒けいかいしてきばき、うなり声を上げている。

 幼いFeliciaフェリシアも、うちらの表情を見て、ただごとじゃないとさとったのか、おびえ始めた。

「みんな、どうしたの? 何があったの?」

「フェリシアは、こっちで良い子にしててね」

 私はフェリシアを抱き上げ、寝室へ運ぶ。

 ワンコも、私のあとをついて来る。

 フェリシアをベッドに下ろすと、ワンコもベッドの上へ飛び乗った。

 真剣な顔をしたケントが、ワンコの頭を撫でながら言い聞かせる。

Edエド、お前はフェリシアを守るんだぞっ!」

 それに応えて、ワンコは「わんっ!」と、勇ましくひと鳴きした。

 生後約三ヶ月がち、ワンコもちょっと大きくなった。

 成獣せいじゅう(大人)と比べると、まだまだこまい(小さい)仔犬サイズだけどね。

 魔獣の三ヶ月は、人間年齢換算だと四歳~五歳。

 ワンコは着実に、フェリシアの忠実ちゅうじつな守護獣へと育ちつつある。

 いざとなれば、全力でフェリシアを守ってくれるだろう。

 フェリシアが恐怖に震えながら、ワンコをギュッと抱き締めた。

 なだめるように、ワンコがフェリシアの顔を舐めている。

 ワンコに舐められて、フェリシアは落ち着きを取り戻したようだ。

 フェリシアは、ワンコに任せても大丈夫そうだ。

 私はかがみ、フェリシアと目を合わせて、丁寧に言い聞かせる。

「フェリシア、うちら、急にお出掛けしなくちゃいけなくなったから、ちょっと行ってくるわね。いい? 『何があっても、絶対ここから出るんじゃないわよ』?」

「……うん」

 フェリシアも、真剣な顔で頷いた。

 素直なフェリシアが愛おしくて、頭を撫でる。

「よしよし、良い子ね」

「良い子にして待ってりゅかりゃ、早く帰って来ちぇね」 

「もちろん、すぐ終わらせて帰って来るから、大人しくここで待ってんのよ?」

「うん、分かった。お姉しゃん、お兄しゃん、行ってらっちゃ~い」

「行って来ま~す」

 離れがたく思いながらも、フェリシアの頭から手を離す。

 私とケントは、フェリシアに手を振りながら、寝室の扉を閉めた。

 そういえば、フェリシアと出会ってから、離れるのは今回が初めてだわ。

 寝室の扉の前に、テーブルや椅子を積み上げて、簡単なバリケードを作り上げる。

 窓も全て鍵を掛け、玄関の鍵も閉めた。

 これで、人間達の侵入を多少は防げるはず。

 鍵を壊されたとしても、時間稼ぎくらいは出来る。

「したっけ(じゃあ)、ちゃっちゃと(さっさと)お片付けして、フェリシアの元に戻るわよ!」

「よっしゃ! 人間どもなんて、うちらでぶっ飛ばしてやろうぜっ!」

 ケントと顔を見合わせて、悪い笑みを交わした。

 私は赤いローブを身にまとい、魔女の仮面をける。

魔女狩まじょがり」なんて、かえちにしてやるわ。

 うちらの縄張なわばりに踏み込んだことを、死ぬ程後悔ほどこうかいさせてやる。

 何があろうとも、フェリシアだけは絶対に守る。

 フェリシアのぬくもりが残る右手を、強く握り締めた。


【逆襲】

 外へ出た途端とたん、燃える臭いと黒い煙が立ち込める(煙などが一面に満ち広がる)。

 周囲一帯しゅういいったいの草木が赤々と燃え、空気が熱く、火の粉がちゅうを降っている。

 煙や灰を吸い込まないように、服の端で口元をおおった。

「人間どもが、うちらの大事な森を燃やしやがったのよっ!」

きたねぇな、さすが人間マジ汚ぇ! 許さねぇ! 皆殺しにしてやるっ!」 

 恐らく、うちらをおびき出す為に、森に火を放ったんだ。

 普段はしまっている、漆黒の六枚の翼を出す。

Allieアリー! 俺、先に行くぞっ!」

「したっけ、先陣せんじん(敵陣への一番乗り)は、任せたわよ! 私もすぐ、追うわっ!」

「よし、分かった! 特攻隊長とっこうたいちょうは、俺に任せとけっ!」

 翼をはためかせて、上空へ飛ぶ。

 空から見下ろすと、大勢の人間がいた。

 ざっと見ても、五十人ぐらいいそう。

 よくもまぁ、こんだけ集めたもんだな。

 上から見ると、アリがうじゃうじゃしているみたいで、キモい。

 火炎瓶かえんびんを投げたり、ガソリンをいたり、武器を振り回して暴れている。

 あっちこっちで、ガソリン爆発が起こり、ガソリンのせいで火の回りが早い。

 よくも、うちらの縄張りで、好き勝手やってくれたな。

 だったら、お前らが放ったその火、利用させてもらうぜ。

 翼であおいで、さらに炎を大きく燃え上がらせる。

 風を起こして炎の向きを変え、人間達の周りに炎の壁を作り上げた。

 炎の壁に囲まれて、逃げ場を失った人間達は、黒煙を吸い込んでむせている。

 人間達は悲鳴を上げ、しきりに炎を消そうとしているけど、無理っしょ。

 だって、さっき自分達で、ガソリンをきまくってたべや。

 ガソリンは、一度火が着いたら、そう簡単には消えねぇぞ。

 ガソリンは引火性いんかせい(火が着きやすい)が高く、非常に気化きか(液体が気体になる)しやすい。

 ぶちまければ、目に見えない気体となったガソリンが、空気中にただよう。

 近くに火種ひだねがあれば、あっという間に大爆発して大火災となる。

 分かりやすく例えると……そうだなぁ。

 戦隊ヒーローが名乗りを上げた後に、背後でドカーンって、オレンジ色に爆破するヤツあるじゃん?

 あれは爆弾ナパームじゃなくて、ガソリン爆発だって知ってた?

 あの爆発の仕方が、ガソリンが気化した証拠なんだよね。

「奇跡の力」で、水を掛けて消火しようとしている人間どもがいるけど、そんなもんじゃガソリンの炎は消えねぇよ。

 ガソリンは水よりも比重ひじゅう(同じ体積を持つ物質と、比べた重さ)が軽いから、水を掛けるとかえって(逆に)燃え広がるんだよ。

 ガソリン火災かさいに有効なのは、消火器しょうかき消火用薬剤しょうかようやくざいによる「窒息消火ちっそくしょうか(酸素を失くして消火すること)」

 素人しろうとが消火出来る段階は、本当に初期の初期。

 本格的に燃え広がったら、手の打ちようがない(どうすることも出来ない)。

 それに、ガソリンをくのに、なんで誰も消火器を持ってこないかな?

 今更いまさら消防隊しょうぼうたいを呼んでも遅い。

 あとは、燃えきるのを待つのみ。

 ホンット、人間ってバカだよねぇ。

 せいぜい、自分達のおろかさを、やむんだな。

 翼で炎と煙をあおぎながら、俺は高みの見物を決め込む。

 そこで、アリーが追い付いて、肩透かたすかしを食らったような顔をする。

「あれ? もう終わったの? 人間って、マジで弱っちぃのね」

「こんなんじゃ、俺が本気出したら、あっという間にほろぼせちゃうぜ」

 俺が得意になって笑うと、アリーも悪い笑みを浮かべた。

 ――そう、この時、俺もアリーも、完全に人間をめ切っていた。

 その慢心まんしん(相手を見下して、調子に乗る)が、いけなかった。

魔女狩まじょがり」の部隊ぶたいが「ひとつじゃなかった」ことに、気付かなかったんだ。


【放火】

 外が、やけに騒がしい。

 ドガッバキッと、硬い物を叩く音。

 何かが燃えるイヤな臭いが、部屋の中まで入って来る。

 何かとてつもなく恐ろしいことが、外で起こっている気がする。

「きゅーんきゅーん……」

「エド、怖いの? だいじょぶ、抱っこしてあげりゅ」 

 怖くて鳴くと、青目がギュッと強く抱き締めてくれた。

 大好きな青目が抱き締めてくれると、気持ち良くて嬉しい。

 見れば、青目も涙を流しながら、小刻こきざみに震えていた。

 青目も、怖いんだ。

 可哀想で、涙をペロペロと舐める。

 今は、赤目も黄目もいない。

 黄目から「フェリシアを守れ」って、言われた。

 青目は、フェリシアっていうのか。

 そうだ、フェリシアを守る。

 怖がっている場合じゃない。

 でも、守るって、どうすればいいの?

 フェリシアから、離れなければいいのかな?

 なんだか、フェリシアから離れちゃいけない気がする。

 きっと、これが「守る」ってことなんだ。

 外の音は、ドンドン大きく激しくなる。

 なんだか、周りが白くなってきて、息が苦しい。

 けむたくて、急に空気も熱くなってきた気もする。

 フェリシアも苦しそうに、ゲホゲホ言っている。

 パチパチと音が聞こえて、音がする方を見れば、すみっこの方にオレンジ色の火が見えた。

 マズい、ここ、燃えてるっ!

「う゛ぅぅ~っ! わんわんわんわんっ!」

「エド? なんで怒ってるの? わぁっ!」

 するどえれば、フェリシアも火に気付いて、驚きの声を上げた。

 なんだか分からないけど、ここにいたら危ない気がする。

 早くここから、逃げないと。

 フェリシアの服をみ、外へ出るように引っ張る。

「何? どこか行きたいの?」

 だが、フェリシアは、ベッドの上から動かず、首を横に振る。

「メだよ! お姉しゃんが『何があっても、絶対ここから出るんじゃない』ってゆったから、出ちゃメなのっ!」 

「わんわんわんわんっ!」

 そんなこと、言っている場合かっ!

 赤目の言葉は、合ってるけど間違っている。

 赤目は「ここに隠れていろ」って、意味で言ったんだ。

 でも、今は状況が違う。

 ここから逃げないと、フェリシアが燃えてしまう。

 部屋から出そうと、何度吠えても、力いっぱい引っ張ってもダメだ。

 フェリシアがベッドにしがみついて、ちっとも動いてくれない。

 そうこうしている間にも、部屋がメラメラと燃えていく。

 熱い炎に囲まれ、視界はどんどん白くなって、煙にむせる。

 そしてついに、フェリシアが倒れた。

「わんわんわんっ!」

 何度、顔をめても、目を開けない。

 鼻先はなさきで、フェリシアの顔をつつくと、小さくうめいた。

 良かった、生きている。

 今逃げれば、まだ間に合う。

 こうなったら、外へ引っ張り出してやる。 

 フェリシアの服をくわえて、全力で引っ張る。

 だけど、フェリシアの体は、大きくて重くて動かない

 ここから早く逃げないと、フェリシアが燃えてしまう。

 どうしようっ? 誰か助けてっ!

少しでもお楽しみ頂ければ、幸いに存じます。

不快なお気持ちになられましたら、申し訳ございません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ