魔女と幼女の出会い
おねロリは、好きですか?
森全体に張り巡らせた結界に、人間の反応あった。
魔族の縄張りに、人間が踏み込みやがったわね。
たまに、森へ侵入してくる人間どもがいるのよね。
「魔女狩り」だか何だか知らないけど、勝手に入って来んじゃないわよ。
人間から、うちらを拒絶したくせに、何様のつもりよ。
人間様は、そんなにお偉いんですかぁ?
ふざけやがって、ぶっ殺してやる。
楽には、死なせてやらないから覚悟なさい。
魔族の領域に足を踏み入れたことを、死ぬ程後悔させてやるわ。
私は魔女の赤いローブを身に纏い、魔女の仮面を着けた。
これが「森の魔女」と、呼ばれる所以(ゆえん=理由)。
ちなみに仮面は、私のお手製なのよ。
ハメ込まれた赤い魔石が、能力を増幅させてくれるの。
結界の反応があった場所へ、確認しに行ってみると。
そこにいたのは、人間のこまいわらす(小さな子供)だった。
見た感じ、三~五歳くらい?
なんか、めっちゃ貧相(ひんそう=見るからに貧乏臭い)なんだけど。
みったくない(見た目が良くない、哀れな様子の)ボロキレを着ていて、靴も履いていなかった。
全身汚れていて、痩せていた。
何よ、乞食の迷子か、驚かしやがって。
おおかた、親とはぐれて、歩き回っているうちに、森に迷い込んだんだべ。
いくら相手が人間でも、こんなちっぽけな命を奪うほど、私はゲスじゃないのよ。
こういう時は、ちゃっちゃと(さっさと)お引き取り願うに限る。
私は、木の陰から姿を現すと、魔女っぽい口調でわらすに語り掛ける。
「人間の子よ、ここはお前がいるべきところではない。お前の場所へ帰るが良い」
「……もりのまじょ……」
わらすは、怯えた顔で私を見上げて、か細い声で言った。
こんな幼いわらすでも、魔女を知ってんのか。
すっかり怯え切ってて、これ以上怖がらせるのも可哀想ね。
その場に落ちてたぼっこ(棒)を拾い、帰り道を指し示す。
「あっちへ向かって歩いて行けば、人間の街へ戻れる。もう二度と、ここへ戻って来るな」
それだけ教えると、用済みとばかりにローブをひるがえして、素早く姿を消した。
別れた後、しばらく様子を伺った。
わらすが背を向けて歩き出すのを見届けてから、仮面とローブを脱いだ。
もう二度と、会うこともねぇべ。
――と、思っていた時期が、私にもありました。
偶然だったのか、必然だったのか。
もしかすると、「運命」だったのかもしれないわね。
「ついでだから、寄ってくべ」っつって、いつもは行かない泉へ向かった。
なんでか、自然と足が、泉へ向いてたのよね。
綺麗な水が湧き出る、小さな泉が見えてくると。
泉のすぐ側に、おっつい(大きい)ゴミが落ちていた。
「人間が、ゴミを不法投棄したのか」と、思いきや。
良く見れば、うつ伏せに倒れたわらすだった。
あれ? なんで、この子、こんなとこにいんのよ?
教えてやった道と、全然違うとこ来てんじゃない。
ひょっとして、方向音痴?
だから、迷子になんのよ。
あんまし、人間とは関わりたくないんだけど。
ここで野垂れ死なれちゃ、良心が痛む(罪の意識が、重く心に圧し掛かる)。
仕方ない、助けてやるか。
「ねぇ、ちょっと、起きなさいよ」
チョンチョンと指でわらすの頭を、ちょす(触る)が反応がない。
「ねぇってば」
今度は、背に手を当ててゆすってみたが、これも反応なし。
仰向けにして、頬に触れてみたら、肌はガサガサで、柔らかさはまるでなく、皮と骨だけ。
わらすにしては、やけに体温が低い。
いくら動かしても、目を開かない。
なんだ、ホントに野垂れ死んだの。
せっかく、見逃してやったのに、なんで死んでんのよ。
さっきまで、生きていたじゃない。
自分の足で立ってたし、話もしたじゃない。
別れて、たったの数十分じゃない。
なのに、もう死んだの。
こんな、こまい(小さい)のに。
そうか……こまいから、無力だから、死んだの……。
もしかしたら、貧しさゆえに捨てられた子かもしれない。
死ぬと分かっていれば、もう少し優しくしてやれば良かった。
せめて、末期の水(まつごのみず=渇きに苦しまず、安らかにあの世へ行けるように、死者の口に水を含ませる儀式)ぐらいはしてあげよう。
手で水をすくって、わらすの口に水を滴らせた。
すると、こまい唇が震えて、私の人差し指にちゅーちゅー吸い付いた。
「お?」
赤ちゃんみたいに吸われて、こちょばい(くすぐったい)。
生き返った……いや、私が勝手に死んだと、勘違いしただけだわ。
どうやら、よっほど喉が渇いているらしい。
すぐ目の前に水があるのに、辿たどり着く前に行き倒れたのね。
「分かった分かった、あげるから」
こまい体を抱っこして、水を与える。
大量に飲ませるとむせるから、ちょっとずつ。
「もっともっと」とばかりに、すがってくる(=頼りとするものに寄りかかる)。
なんかだんだん、めんこく(可愛く)見えてきた。
何度も繰り返し水を与えたら、ずっと閉じていた瞼が震えて、目が開かれた。
その美しい青い目に魅せられ、思わず息を呑んだ。
無性に頭を撫でたくなって、そっと撫でてみる。
すると、人懐っこい猫のように、もっと撫でろとばかりに頭を擦り寄せてくる。
何これ、なまらめんこい(とても可愛い)。
気が付くと、私はデレデレの笑顔になって、わらすの頭を撫で続けていた。
なんとなく、話してみたくなって、口を開く。
「お前、なして(どうして)、こんなとこにいるのよ? お父さんとお母さんは?」
自然と、優しい声色で話し掛けている自分に驚いた。
わらすは悲しそうな顔になって、私を見つめて答える。
「パパとママ、おうち」
「そっか、おうちなの。場所は、どこ? 送ってってあげる」
「捨てられちゃったから、おうち帰れないの」
迷子じゃなくて、捨て子だったのか。
だから、こんなにみったくないのか。
こんなにめんこいわらすなのに、なんで、なげ(捨て)んのよ。
「そっか、捨て子か。お前、名前は?」
わらすは、唇をぎゅっと閉じて、首を横に振った。
は? まさか、この子の親は名前すら、付けてやってないの?
人間にとって名前は、個人を特定する大事なもんじゃないの?
愛する我が子に名前を付けるのは、親の権利であり、義務でしょうが。
こんなこまいわらすを、ゴミクズのように投げるような、ろくでもねぇ毒親だから、名前も付けなかったんだべ。
これだから、人間は……。
「したっけ(だったら・じゃあ)、私が拾うわ」
「え?」
わらすの青い目が、大きく見開かれた。
そりゃ、見ず知らずの相手に、いきなり「拾う」なんて言われりゃ、驚くわな。
捨て犬や捨て猫じゃ、あるまいに。
でも、欲しいと思ったんだ。
なまらめんこいわらすを、私のものにしたい。
可哀想なわらすを、めいっぱい愛してやりたい。
そう、強く思ったのよ。
私は、出来る限り優しく笑い掛ける。
「捨てられたんなら、拾った私のもんだべや。お前は、私に拾われるのは嫌か? 嫌なら、拾わないけど」
「嫌じゃないよ! 拾ってくだしゃいっ!」
わらすはこんまい手で、私の服をぎゅっと掴んで、全身で訴えてきた。
嫌じゃないと言ってくれて、私は嬉しくて、胸がほっこりと温かくなった。
わらすの頭をよしよしと撫でて、こまくて軽い体を抱き上げる。
「よし。したっけ、今からお前は私のもんだ」
「はいっ!」
わらすは嬉しそうに笑って、良い子の返事をした。
ああ、なんてめんこい子なの。
名前は……あとで考えればいいか。
少しでもお楽しみ頂ければ、幸いに存じます。
もし、不快なお気持ちになられましたら、申し訳ございません。