「Resolve」1
宿禰凛一編は「one love」
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兄の宿禰慧一編は「GLORIA」
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凛一の恋人、水川青弥編は「愛しき者へ…」
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「Resolve」
1.
世の中には美しいものとそうでないモノがある。
そして中身の良し悪しに関係なく、大方の者は見てくれで判断する。
即ち器量が良ければ、心映えも美しかろうと…
しかし、その実は美貌を嵩にしたロクデナシという輩が大方。
ここに器量が悪い上性格も悪い奴と、器量は良いが同じくらい性格が悪いという奴がいるとする。
さてどちらを取ると言われたら(友達に、恋人に、連れ合いに、ただ一夜の遊びにでも、と、なんでもいい)どちらを取る?
…いうまでもなかろう。
それが人間本来の生理的心理というものだ。
言い換えれば器量の悪い奴はすべからく器量のいい奴よりも人間性はマシだというなのかも知れない。
(それはそうと、人間性が何かと問われたら…哲学の本でも読んでろ、と、言うしかない。どうせしがない私立高校の国語教師である俺に深い哲学思想など知る由もない)
そう、美人は三日で飽き、醜女は三日で慣れるそうだからな。
更々見た目に惑わされなきように…
さて、結論はでたはずだが、もう一度問おう。
美しいモノとそうでないモノ、どっちを選ぶ?
勿論、俺は器量のいい方を…だ。
まあ、俺も俗人で一生を終わるということだ。
目の前に開かれたページに写る、紛れもなく神に選ばれたというしかない極めて非の打ち所のない美貌の奴の顔を見ながら、俺は自分のふがいなさを知るわけだ。
彼はただそこに居る。こちらを向いて瞳を合わせているだけ…
この深淵なる黒眼の密やかなまことしやかにしめやかなる睡蓮の美。
男というより女に見えなくはない。薄化粧は施しているが、卑しくは見えず、それが蠱惑さや可憐さ、延いては優雅で上品にさえ見えてくるんじゃ、然もありなん。
このフォトの目的は理に叶っている…と、言わざるを得ないところが…虚しい。
そいつの名は「宿禰凛一」
俺はこいつの担任教師。
そしてこいつに良く似た美しい兄は、俺の元恋人。
バカ兄貴の慧一は、この悪魔さえ陥落させそうな美貌の弟に一方通行の懸想をしているわけだ。
弟の方は、理に従い、その容姿とは裏腹の、性格の捻じ曲がった奴。しかし、残念ながら極めて珍しくその美に敵った翼と一途な心を持ち合わせている。
それがまた俺にはとりわけ気に入らないところで、バカ兄貴が執着するのもすべて弟の見た目の美だけじゃないという理由になる。
そして俺は偏執的なブラコンの兄、慧一に未だに未練がありすぎて、誘われでもしたら、いつでも脱ぎます!という覚悟で居る、バカの上をいく大バカ者なのである。
なげきつつ ひとり寝る夜の 明くる間は…だ。
時々冷静になり、
「俺はなんという兄弟に取り付かれているんだ?もういい加減おまえらに関わるのは嫌気が差す。やめた!や~めた!」と、叫ぶのだが…(勿論人気のないところで、である)
一度は手にした男を諦めきらずにいる自分自身にも呆れるが、その上をいく慧一には怖れいる。
なんせ彼は生まれてからずっと、血の繋がった弟だけを愛してきたという筋金入りのバカである。いやいや、肉親の愛情ならば由としよう。が、彼はこの美貌の弟を自分のものにしたいという甚だ不謹慎極まりない感情を持てあまして26年、大概解脱してもよさそうだが、煩悩は強し。即ち近親相姦という大罪の畏怖と妄想の念に囚われているわけだ。
男同士であることと兄弟で愛し合うことの二重のタブーに、百戦錬磨の慧一が今更恐れおののいているとは思えないが、彼にとってこの弟、凛一はどうしても開けられないパンドーラの箱なのだろう。
彼は知っているのだろうか。あの箱に残ったものが何かを…まあ、俺としては 敢えて言う気はサラサラ無いが…
神よ、どうぞ、あの兄弟にはその美貌に似合った不幸せを…だ。
そうは言っても。
学習準備室の扉を叩く音が聞こえ、許可を与える間も無く、ドアが開けられた。
その生徒は少し不機嫌な顔つきで俺の机に近づき、「何か用?」とぶっきらぼうに尋ねながら俺の前に座った。
「コレは何だ?」
俺は今まで眺めていた雑誌の写真をボールペンで指した。
「え?」
写真よりも幾分健康な男子高校生に見える宿禰は、自分の載った雑誌を見て驚いた声を出した。
「バイトは学校の許可無くしては禁止。無許可でしかもこんなに堂々とエロイ顔しやがって。退学になっても知らんぞ」
「バイトじゃないよ。お金は一円も貰ってない。知り合いの写真家から頼まれてモデルになったけど、雑誌に載せるなんて聞いてない。第一こんなの、慧一が許すわけないだろう」
「…」
写真の専門雑誌だし、一般の人の目に触れることは少なかろうが、あの慧一の事だ。愛弟のこんな姿が世の中に晒されていると知ったら…目から火が出る。そのとばっちりは確実に俺に来る…損な役回りと来たもんだよ。
「三田川さんったら酷いなあ。職権乱用だ。個人情報勝手に出しやがって…訴えてやる」
腕を組んで憤慨の剣幕だが、どうも真剣味が足りない。…こいつ役者だ。
9つも上の大人としてはこんなガキに翻弄されるのは真っ平ゴメンだ。
バカ兄貴の二の舞にはなるかよ。
「じゃあ、宿禰は知らなかったんだな」
「うん」
「一応この雑誌の会社に連絡して、厳重注意はしておく。今度からこういう事をする時は、学校の許可を得ること。わかったな」
「は~い」
少しだけ頭を傾げて笑って応えるその顔…参ったね。
この写真の顔と同じじゃないか…当たり前か、本人だった。
とてもじゃないか、俺も男だから、綺麗なものには惹かれるさ。
それが毒であろうと、悪魔の導きであろうと、味わいたくて仕方が無くなる。
怪我は承知の上。
「用は済んだからもう戻っていいぞ」
この顔に騙される前にさっさと追っ払うとしよう。
目を合わさずにしっしっと手で帰るように命ずると、宿禰の奴は「慧一から伝言があるよ」と、言う。
「え?」
俺は思わず顔を上げ、凛一の顔を見た。
その魅惑的な顔が俺の耳元に近づき、こっそりと囁く。
「なーんつってね」
「!」
まんまと騙された、この悪党め!
「おまえ…平常点零点だからなっ!」
「慧があんたに用事なんかあるわけないだろう。兄貴にあんまりしつこくすんなよ」
悪魔は笑いながら去っていった。
なんというこの忌まわしき世界。
あいつの顔がちょっとでも曲がっていたら、目が小さかったら、鼻が低かったら、怒りなど沸きやしない。すべてはあの顔が悪い。
俺は机の上の雑誌を手に取り、宿禰の写ったページを破り捨てようと手にかけた。
しかし、優美に笑うその写真に何の罪があるだろう…
あんなガキの挑発に乗ってどうするよ、藤宮紫乃。
大人は大人らしく狡猾な手を使わしてもらう。
見てろよ、凛一。
慧一に逐一バラしてやる…
その夜、俺は慧一にメールした。
ありあけの つれなくみえし 別れより
暁ばかり 憂きものはなし
直ぐに返事が来た。
風さそう 花よりもなほ 我はまた
君がおもいを いかに問やせむ
…辞世の句かよっ!
紫乃編は時々しか書かないので、更新はあまりありませんが、他の編で活躍予定なのでよろしくおねがいします。
筆者のBLブログ「auqa green noon」はこちら。
http://arrowseternal.blog57.fc2.com/
イラストも多数ございます




