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以下の小説と連動しております。


宿禰凛一編は「one love」

http://ncode.syosetu.com/n8107h/

兄の宿禰慧一編は「GLORIA」

http://ncode.syosetu.com/n8100h/

凛一の恋人、水川青弥編は「愛しき者へ…」

http://ncode.syosetu.com/n0724i




11、

「出来たよ~アルデンテ。慧、ミートソース混ぜて」

「オッケー。こちらも用意が出来たから、テーブルに置いてくれ」

「了解。紫乃、皿を並べてくれよ」

「…わかった」

 体育祭が終了した夜、なぜか宿禰兄弟は俺の家へ来て、勝手に飯を作っている。

「野菜スープもよし!じゃあ、頂きましょう」

「頂きます」

「…いただきます。つうか、なんでおまえらここに居るんだよっ!」

「だって、紫乃ひとりで飯食うって言ってたからさ。それなら一緒に食べた方が美味いだろ?それに今日は親父達も知人の結婚式に行ってて、泊りで居ないんだ」

 俺の皿にご丁寧に取り分けながら、凛一はニコリと笑う。

 こいつの本性を知らぬ奴なら、いっぺんに虜になってしまいそうな微笑だ。裏のない啓介とは真逆過ぎる。そして常に惹き付けられ易いのは「美しき魅惑」の方なのだから、人間の性というものは早々に浮かばれない。

「ひとり者の自由さはあるだろうけど、紫乃、たまには俺達と飯を食うぐらい構わないだろ?」

 慧一もまた別格の生き物だ。

 こいつの執念や思い込みは留まる事を知らない。こいつに一途に想われる身になると考えるだけで、その重さに気が滅入る。が、想い人である凛一は慧一の愛の重圧などそよ風の如くに受け流す性質であるから、まあ、世の中良く出来たもんである。

「そうそう、家族ごっこだろうと、楽しんだ者の勝ち。そう思わないか?」

「…」

 こいつらが俺を想ってこうして付き合ってくれているのはわかっているんだが、気を使われるのも何となく居心地が悪い。 と、いうより家族っていう言葉に、俺は照れくさくて素直になれないだけかもしれない。

 注ぎ分けてくれたパスタも野菜のスープもサラダも、確かにひとりで食べるよりも何倍も美味しい。

「紫乃、味大丈夫だった?塩辛く無かった?」

「ちょうどいいよ」

「良かった~。ほら紫乃は今美味しい弁当をいつも食べてるからさ、味には五月蝿いかもってさ」

「弁当?」

「そう、紫乃の昼飯はあの実習生の手作り弁当なんだよ。ねえ、紫乃」

「…」

 何を企んで喋っているのか本心が読みかねる凛一には、迂闊に答えられない気がしてきた。

「まだ続いてる?それとも飽きられたかな?」

「…続いてるよ」

「そりゃ凄いね。その実習生の名前、なんて言ったっけ」

「千葉啓介だよ、慧」

「そう…今日、挨拶だけでもしておけば良かったな」

「…いいよ。別に」

 だから…慧一までも巻き込むな。頼むから俺の事はそっとしておいてくれ~


「俺、話したよ」

「ええっ?」

「啓介くんと話した。紫乃、啓介くんに誘われてパラグライダーをやったんだよね」

「パラグライダーか?面白そうだな」

「すごく楽しかったって啓介くん、嬉しそうだったよ。彼は良い子だね。俺、大好きになったよ」

「啓介は、おまえらと違って裏のない人当たりのいい子だからな」

「啓介は良い子だからなって…紫乃、マジになってる。待ちに待った本命現れたり…かな」

「…」

「凛、大人をからかうなよ」

「俺も一応二十六の大人なんだけどね」

 年齢不詳というか…凛一はその状況において表情も仕草も自在に変えてくるから、少年のようにも老獪な青年のようにも見えてしまう。その上、見る側による印象がそれぞれに異なる魔性の者だ。

「まあ、そうだが…凛と比べる紫乃が悪い。凛は別物だ」

「何それ?」

「品種が違うって言ってる」

「なんか褒められてる気がしない」

「褒めてない。事実を述べてるだけ」

「慧は時々すげえキツイよなあ~ベッドの中でも大体Sだしな」

「おまえが言うな。この間なんか…おまえ、三回やったのに足りないってごねて、最後に俺を年寄り扱いしたよな」

「だってさ~仕事で二週間も離れてて、寂しかったんだもん。一杯やりたかったの」

「だからって こちらが自信喪失するようなことを言うな。俺は前の日から仕事で徹夜明けでふらふらだったんだから」

「その割にはヘンタイだったじゃん」

「おまえが望む事をしたまでだ」

「おいっ!いいから俺の家で痴話げんかをするな」

「ケンカじゃねえもん。惚気だもんね~慧」

「…悪かった。それより紫乃。来月は誕生日だったね。お祝いは一緒にやりたいと思っている」

「俺の誕生日の為に、わざわざこちらに帰ってくる必要はない」

「いや、こちらにも用事があるんだ」

「遅くなったけど、今年中に聖堂が出来そうなんだ」

「例の奴か?」


 宿禰家の墓前を聖堂として、このふたりは横浜の山手に建てた。

 俺と慧一が学生時代良く星空を観た場所で、俺も思い出深い。その場所に宿禰家の墓が出来ることも何故だか切れぬ縁があるようで、見たことも会った事もないふたりの家族に懐かしいものを感じる。

 「うん、母さんと梓の聖堂。金沢の山手になるんだがこちらからは近いしね。宿禰家個人の墓にしようかとも思ったけど、形だけでも正教会に認められるように奉る事にした。鳴海先生に教会の祭司をお願いしたら、快く承諾されたんだ」

「そうか、鳴海先生も引退なさって少しは楽になると思ったのに、やぶ蛇だな」

「鳴海先生は喜んでいるよ。誰だって…自分を必要とされることは嬉しい。そうじゃない?」

「…尤もだね」


 食事を終え、明日は代休だからと、慧一と凛一は俺に付き合って、酒盛りとなった。

 俺と慧一はスコッチ、酒に弱い凛一は軽いカクテルを作って飲んでいる。

「ねえ、紫乃。啓介くんと話しててね、俺思うんだけどさ。彼は紫乃に恋をしているよね。告白されたんだろ?」

「啓介は…千葉はまだ二十二の若造だ。本気で好きだと言われても、そう簡単に受け入れられるもんか」

「なんで?」

「第一俺とは歳が違いすぎるだろう。それにあいつはウブで世間知らずの子だ。男だって俺が初めてで…」

「へえ~紫乃が初めてだったら啓介くんも幸せじゃん。色々教えてもらって、いい思いができる」

「凛、ちゃかすなよ。紫乃は真剣だよ。紫乃、歳の所為にして相手の想いを踏みにじることはするなよ。大事なのは紫乃の気持ちだろう」

「…」

「紫乃が啓介くんを本気で好きなのかどうかが、一番大切なんじゃないのか?」

「…好きだとして、啓介になんて言うんだ?愛しているって、一生俺の傍にいて、俺の老後の面倒をみてくれって…そう言うのか?社会に出れば、いくらだって啓介が望む恋はできる。あいつには沢山の未来を選べる権利がある。そのひとつが俺ならば、俺は…それを選べとは言えない」

「何故さ。好きなら一緒にいたいって思う。それが歳に関係あるの?」

「凛。おまえの言うことは正しいよ。だけど…俺も紫乃もおまえよりもずっと歳を食っている。年上っていうのはね、愛する者が若いほど、その者の未来を考えてしまうもんなんだ。俺だってね…凛一にとって本当に俺でいいのか、もっと違う一緒に生きていく者を選んだ方がおまえにとって本当の幸せを掴めるんじゃないかと…何百回も何千回も考えた。今だってその気持ちが無いとは言えないよ。おまえが本当の幸せを探し当てたら、俺はおまえの前から消えたっていいと、思っているんだから。…だから、紫乃が啓介くんへ踏み出せない気持ちはわかるつもりだ」

「…」

「だけど、だからこそ思うんだ。もしそこに『愛』があるのなら、無視することも踏み潰すこともできないなら、ただ掬い取って抱き締める事。大きく育とうが消えてなくなってしまっても『愛』を知った者は幸いだ…俺は紫乃から貰った『愛』に何度も救われたんだ」

「慧一」

「愛故に…」

「悩む事を怖れるな」

「うん。だけど俺は紫乃にこう贈るよ。愛する事を怖れるな、ただ従える唯一のものだから…」


 慧一は昔と違って大人になったのだと思う。そして俺もまた…成長しなければならない。誰かを必要とすることは、頼ることは脆弱になることではないのだろうか。

 そう言うと、慧一は答えるのだ。

「弱くなって当たり前だ。絶えず降り続ける精神の重みに、どうしてひとりで耐え切れよう。ひとりで突っ走る時を経て、そして誰かに寄りかかるしかない時が来る。大人になるということは、歳を取るということだろ?俺たちは『愛』を知ろうとする者に成長したんだよ」

「俺は…啓介を必要として、いいんだろうか」

「おまえだけが必要としているんじゃないのなら…彼もまた、おまえが必要なら…必然だろう?」


 ひと月半の教育実習の日々が間も無く終わる。

 これが終わったら、俺と啓介の関係はだたの教師と大学生になる。

 俺は啓介の必要な者になれるのだろうか…




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