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10

以下の小説と連動しております。


宿禰凛一編は「one love」

http://ncode.syosetu.com/n8107h/

兄の宿禰慧一編は「GLORIA」

http://ncode.syosetu.com/n8100h/

凛一の恋人、水川青弥編は「愛しき者へ…」

http://ncode.syosetu.com/n0724i



10、

「…でさ、聞いてる?紫乃」

「あん?」

 三度目…終わってこちらはぐったりだが、啓介はまだ続ける気なのか、俺の中に入れたまま学生時代の話が続く。

 …若いってこういうもんなんだろうが、年寄りを少しは労わって欲しいものだ。大体俺は入れられるのは慧一以来なんだからさあ。


「…それで、黒木さんに出会って、俺はまたスポーツの面白さを味わったんだ」

「ああ、啓介はその黒木って奴に惚れたんだな」

「え~っ?どうしてわかるの?」

 そんなに驚くな。中のものが動いてたまらなくなる。

 それにそんなの誰だってわかるだろ。単純なおまえの顔を見てたら。

「…そう顔に書いてあった」

「紫乃には隠し事は出来ないね。それまで俺は女の子としか付き合ったことなくてさ。ほら、俺、顔良いし、ちょっと有名なジャンパーだったから、可愛い子がわんさか言い寄ってくるわけさ。こっちはジャンプ一筋で恋愛に夢中になる事もなかったけど、暇な時は普通にデートやらなにやらでさ、自分が男に興味あるなんて知らなかった。で、上京して横浜の聖学の入学式の時、サークル勧誘をしてた三年の黒木さんを見てひと目惚れしたの」

「…」

 どっかで似たような話が…ま、俺と慧一だけど。

「初めて恋をしたっていうか…顔を見るだけでドキドキしたり、声掛けられたらあたふたしてさ。これが人を好きになるってことかって、思ったよ。俺が教師を目指したんだって、黒木さんが県の高校教師になったからなんだ。もし採用試験に合格したら、いつかどこかの高校で一緒になれるかもって…思った。単純だね」

「自分の将来を決め方なんてそんなもんさ。憧れや成り行きで決めるのは悪い事じゃない。それで、黒木さんとはどうなった?」

「黒木さんは大学を卒業してからも、ずっとサークルの指導をしてくれて、それで、俺の事もすごく可愛がってくれて…思い切って告白しようとしたんだ。でも告白する前に、黒木さんから婚約者がいるって…言われて…」

「…」

「俺の気持ちを察して、傷つかないように自分から言ってくれたんだと思う。見ようによっちゃ俺と黒木さんの友情は壊れずに済んだんだけど、俺は黒木さんと会う度辛くてさ…初めての失恋だね。そんで代わりに良い男がいないかな~ってウロウロしてたら、紫乃に会った」

「…は?」

 ちょ、ちょっと待て。と、いう事は…

「紫乃ったら道端で倒れこんで、声かけたらべろんべろんで『けい、好きだ~』って言うんだもん。すげえ綺麗でかわいくて、たまらなくなった」

「ちょっと待ってくれ。もしかしたら…おまえ、男とするのは…俺が初めてなのか?」

「そうだよ」

「…」

 力が抜けた。

 百戦錬磨の俺が初めての奴に抱かれて、それで啼かされて居ると思うと、さすがに悔しい。つか、腹立たしいわ!

 そういう俺の気持ちなんか知ったこともねえ啓介は「紫乃、大好き~。愛してる。ずっとしていたい~」などと減らず口を叩き、俺の身体を揺すぶり続けるのだ。それに反応する自分の身体も悔しいが。

 結局解放されたのは三時も過ぎた頃で、裸のまま寝てしまった啓介に布団を着せ、隣りに寄り添うのが精一杯だった。


 翌日、朝から露天風呂に引っ張り出されて「気持ち良い~。良い朝だね~」と何度も笑顔を見せる啓介を他所に、俺は風呂の隅っこであちこちの身体の痛みを癒すのに必死。

 豪華の朝飯も、だるくてなかなか全部喉に入らない。

 そんなことを知った風でもない啓介はいつもの天然だ。

「紫乃、どうしたの?この卵焼きダシが利いてて美味しいよ。もしかしたら疲れてる?どっか痛い?…そうか、昨日は初めてのパラだったから筋肉痛だよ、きっと」

「…」

 おめえの所為に決まってんだろっ!何回抜けば気がするんだよ、この体力バかっ!

「パラも慣れたら無駄な筋肉を使わなくてすむから大丈夫だよ。荷物が重かったら、俺が紫乃の分も俺に任せていいからね」

「…よろしくお願いします」

 わけのわからぬ敗北感…。なのに啓介を見ていると切なくなったり、嬉しくなったりしてしまう。


 帰り道、パラグライダーのフライトルールを詳しく学びながら、次も行こうと約束する。

 俺をマンションに送り届けた啓介は、「絶対だよ、紫乃。また一緒に飛ぼうね」と、言う。

「ああ、また誘ってくれ」

「じゃあ、明日学校で」

「さよなら…」

 走り去る啓介の車を見送る。

 差し込んでいた光を急に失ったみたいで、冷えた空気に身震いする。

 

 ひとりは寂しい。慣れるしかないと、言い聞かせてきた。

 俺だけじゃないんだと…

 慣れれば孤独も楽し、自由は我が身に…と、鼓舞してきた。


 ふたりでいる温かさは知っている。それを失う怖さも…

 再びそれを味わい、離れていく悲しみに耐えられるほど、俺は強くないんだよ、啓介…


 次のパラグライダーのフライトをする約束はしたものの、十月は学校行事が立て込んで、まともな休みも取れなかった。

 実習生の啓介も同じで、中間試験結果の追試や補習など忙しない。それに一大イベントの体育祭が控えている。生徒主導とはいえ、実習生は生徒会に借り出されて、色々な演目に参加することになっている。

「あまり無理するなよ、千葉先生」

「大丈夫ですよ、紫乃先生。俺、体力だけは自信ありますからね」

 それは知ってる。気になるのは…

「足は…痛んだりしないのか?」

 周りに誰もいないのと見計らって、尋ねる。

「え?…しないよ。寒い冬は時々筋肉が縮んで突っ張ったりするけど、それ以外は大丈夫だから。紫乃、心配してくれてありがとう」

「…」

 啓介のくれる笑顔が、近頃は切なくなって困る。

 年を取ると感傷が敏感になるって本当だな。

 それとも別れが近い所為かな…


 体育祭は見事に快晴。

 朝一番の準備体操から、啓介は我先にと先頭に立って張り切っている。

 プログラムも順調に進み、昼前近く、なんだか保護者の一団が関係者のテントの近くでざわついている。近寄ってみると…貴賓席にあいつらがいた…

「あ、紫乃だ。慧、紫乃が来たよ」

「やあ、紫乃。ご苦労様」

 …なにが優雅に「ご苦労様」だ。

 確かにおまえらはうちの体育館と教会を建てた建築家だし、貴賓席にデンと居座ろうがおかしい話ではない。が、なんかもう、存在自体がむかつく。

 俺のテリトリーに入り込むなって言っておいたはずだろう。

「ね、慧。紫乃は今、教育実習生を指導しているんだよ」

「へえ~」

「その実習生がさ…良い男なんだ。ね、紫乃?」

「別に…普通の大学生だよ」

「是非紹介して欲しいもんだな」

 慧一の言葉に血の気が引く思い。

 本当に…ロクなことにはならないぞ…

 俺はくるっと身を翻して、あわててあいつらから逃げ去った。


 逃げたところに啓介の姿が見えた。

「紫乃先生、探してたよ。次のプログラムは出番だから準備してくれって」

「わ、わかった」

「なにかあったの?」

「何にもねえよ」

「あれ?…貴賓席にいる人、宿禰さんじゃない」

「…」

「だからなんか周りがざわついてたんだ。宿禰さんの隣りの人…もしかして、あれが慧一さん?」

 もしかしなくてもそうだ。

「すごい…かっこいい。想像してたより遥かにだよ。うわ~ふたり並んでいると、迫力~。あそこだけ別次元だね。神話で言う英雄と女神みたい…」

 それを言うなら魔王とメフィストだろう。

「そうだ!挨拶に行ってこよう~と」

「バカ、あんなのに近づくなよ。マジでロクな目には合わない」

「なんで?紫乃の家族みたいなもんだろ?」

「…俺、そんなこと言った?」

「この間の夜、俺にしがみつきながら言ってた。『慧一と凛一はロクでもねえけど、俺の大切な家族なんだよな~』って。あれ、寝言?」

「…」

 だから、言ってるじゃねえか。

 ロクなもんじゃねええ~


 午後の応援団のプログラムにハプニングが起こった。

 生徒会役員に押し出され、凛一は昔ここで見せた剣舞を見事に舞った。

 その姿に魅了された観客と、同じく見惚れている隣りの啓介を眺めつつ、あいつらが居る限り、俺の心休まる時など、一生来ないんじゃないかと、恨めしく思った。





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