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以下の小説と連動しております。
宿禰凛一編は「one love」
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兄の宿禰慧一編は「GLORIA」
http://ncode.syosetu.com/n8100h/
凛一の恋人、水川青弥編は「愛しき者へ…」
http://ncode.syosetu.com/n0724i/
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相当な時間ふたりで星空を仰いでいたが、そのうち真冬の寒気にお互い震え始めた。
寝袋があればまだいいが、さすがに凍りつきそうだ。
凛一の身体がガタガタ震えだしたのをきっかけに天体観測を切り上げた。
まだ名残惜しそうな様子の凛一だったが、また来ることを約束して車へ戻る。
車を走らせて山を下りだした頃、実は一週間前に高熱で倒れていたのだと凛一が言い、ここへ連れ出した事を少し後悔した。
「大丈夫なのか?気分が悪いのなら病院へ連れて行くが」
「もう大丈夫だって。…どうして俺の周りの大人たちはこうも揃って心配性なのかね~」と、凛一は呆れながらも楽しそうに笑う。
「心配されるうちはまだまだ子供ってことだな」
「そうだろうね…自分でも情けないほどにガキなんだと思う。それでも昔よりはマシになったかな…」
温まり始めた車内の空気に安堵したかのように、凛一はマフラーを脱ぎ、大きな伸びをした。両の手をすり合わせて、何度もはあと息を吐く。
「…俺ね、母親が早くに死んじゃっただろ?顔だってあんまり覚えていない頃だけど。父親も仕事で忙しくてさ…慧一と姉の梓だけが俺の信頼する人間でずっと生きてきた。だから梓が死んで慧が俺の傍から離れてしまった時、この世にたったひとり取り残された気分になってて…俺の家って広くてね…ガランとした家に『ただいま』って言っても返事もなくて…家政婦さんの作ったご飯だってひとりじゃ美味くなくてさ…まだ子供だったからだろうけれど、寂しくてよく泣いてたよ。このまま死んじゃっても誰も気づかないんだろうなあ~とか、本気で梓のところに逝っちまおうとか…そしたら慧はきっと死ぬまで俺を手放した事を後悔するだろうとか…
この世の果てにいるみたいな感覚でいたんだ」
「…」
俺は一度だけだが、凛一の孤独な姿をこの目に焼き付けている。
俺の慧一を奪い取った弟に酷い仕打ちを仕掛けてやろうとまで思ったものだが、あのあまりに寂しげな、そして唯一の翼を見たとき、俺は自分の愚かしさを知った。
慧一が守ろうとしたもの、奪い取れなかったものの崇高さに敗北したのだと感じたんだ。
「嶌谷さんがいなかったら、俺、本当に駄目になっていたかもしれない」
「嶌谷さんって…ああ、体育祭の時の?」
「そう、捨てぱちになってた俺を拾ってくれたの」
「ジェントルで愛想のいい人だったよな。顔に似合わず」
「嶌谷さんは俺の一番尊敬する人だもん。殻に閉じこもっていた俺を引っ張りあげてくれたんだ。
誰もが孤独だ。孤独であるのは当然だ。だけどひとりはつまらない。だからって他人に自分の胸の内をすべてわかってもらおうなんてのは手前勝手な話。もっと楽に生きろ。他者と繋がり合う事で、笑いあうことが出来る。一時の慰めにもなる。孤独を楽しむことも出来る…そう俺に言うんだ。だから、俺の孤独はそのままで、自分を大事にしようって思った。
彼の経営するジャズクラブに入り浸るようになって、色んな大人の人と知り合ったよ。月村さんや、ほら、俺の写真を雑誌に載せてくれた三田川さんとか…ジャズプレイヤーに常連さん…みんなと出会えたことは俺の財産だと思っているし、これからだってずっと付き合っていきたい。誰かが必要な時に俺の存在が役に立つのなら、少しでも恩返しがしたいんだ…だから早く大人になりたいって思うよ…慧の為にも」
凛一の話を聞いていると、自分の身の上が重なっていく。
…俺もその頃は随分孤独と仲が良かった気がする。
生き続けることが苦しいとどれだけ思ったとしても、今になってしまえば、あの時はああいう時期だったと自分を哂いつつも愛しく思える。
慧一もまた自分の過去をそう振り返ったりしているのだろうか…
「慧一は嬉しくてしかたないだろうなあ~やっとおまえと相思相愛になれて…」
「でもまだセックスはしてない…」
「それが大した問題か?」
「あんたは慧と何回も寝てるじゃん」
「まあな」
「俺だって慧としたい。じゃないとあんたに負けてる気がしてなんねえし」
「勝ち負けか?そこに拘ること自体がおまえがガキだっていう証拠だな」
「…だって、さ…」
幼子のように口唇を尖らせて不貞腐れる表情をバックミラーで眺め、なんとまあ愛しい者だろうと不思議で仕方ない。
シート少し倒し、深く座りなおした凛一はオーディオの曲を選び始めた。
「紫乃先生。俺ね、T大受けるから」
「そう」
「…それだけ?」
「頑張れよ」
「担任なのにそれでいいの?。おまえじゃ無理だとか、他にいい大学があるとかさ、助言しないの?生徒の合否って先生の査定にひびくんだろ?」
「そんなの知るかい。第一生徒の行動意欲を教師が削いでどうする。行きたいと思う大学を目指せばいいさ。要は己次第。おまえが何を企んでそこを決めたのか、聞く必要性もないね。だが、本気で行きたいと思うなら、後ろについててやるから後悔しないようにやれってことだけだ」
「先生ってさ…」
「なに?」
「生徒に好かれるはずだよな~」
「賞賛と受け取っておくよ。それより『詩人の会』の方もよろしく頼むぜ。部長さん」
「蒼き青春の思い出となるように精を尽くしますよ。ねえ、カプースチン聴いていい?」
「ああ」
「紫乃、ジャズが好きなら今度嶌谷さんのジャズクラブに連れて行くよ。ゲイの人たちも多いから紫乃なんか人気者になれるぜ」
「おっさんばかりだろ?」
「自分だってそのうちおっさんになるんだから、ガキばっか相手にしてないで、大人の会話も楽しめよ」
「はいはい」
山を降りた車は高速に乗り、流線形の波を掻き分けスピードを上げていく。
「すげ~速い!慧一の車じゃこうはいかないぜ」と、凛一は嬉しそうに声を上げる。
やがてスピーカーから流れてきたエチュードに凛一の睡魔が目覚めたのか、やたら目を擦りながら重たそうに口を開く。
「『夢』か…宇宙空間に漂っているみたいだ…」
「そうだな」
「銀河鉄道なら…さしずめ俺と紫乃はジョバンニとカムパネルラだね」
「冗談だろ?どちらかが死ぬなんてさ。俺の運転ではありえない話だ」
「そう…じゃあ、ほんとうのさいわいは見つかるかも知れないね…ねえ、少し夢を見てもいい?…無事に家へ帰りつくように祈るからさ…」
「ああ、おやすみ…いい夢を見るといい」
直ぐに静かな寝息を立て始めた凛一を起こすのは不憫に思えて、俺は出来るだけ遠回りをして帰路に着いた。
ほんとうのさいわいはいつだって今だと言えるように…
俺もおまえも慧一も彼方へ辿りつける為に…
今は走り続けよう…
紫乃編これでしばらくおやすみです。
次はミナ編でお会いしましょう~




