手遅れ
「熱があります。今はまだ平熱より1℃高いくらいなのですが、だんだんひどくなっています」
Eは病気の症状を説明する。
「ふむ。なるほど。熱はいつからですか?」
「起きてしばらくしてから調子がおかしくなってきて、気づいたら熱がありました」
「なるほど」
生き物には免疫があり、大抵の場合、その働きによって体は正常な状態を取り戻す。SはEに告げた。
「熱があるというのは悪いことではありません。体内の免疫が活発になり、悪いものを排除してくれます。しんどいかもしれませんが、少し様子を見ましょう」
※※※
「どうもやはり体調が良くなりません。熱もさらに上がって、意識が朦朧とします」
見るとEの体温は平熱より2℃以上に達していた。
「おや、これはいけません。どうやら、病気の原因となるものが、免疫への耐性を獲得してしまったようです」
「そんな……。なんとかなりませんか?」
Eは血相を変えてSに迫る。
Eは危険な状態なのだ。
「こうあっては仕方ありません。少々手荒く、副作用も大きい療法を試みてみましょう。調査したところ、この病気は、強い電磁波を当てると完治した事例があります」
「是非、お願いします」
※※※
「ダメです。一度、熱が上がるのが止まったのですが、ぶり返して来ました」
Eは変わり果てていた。美しかった肌は見る影もなく、ところどころに丸いできものができている。
EがSに告げる。
「どうもこの療法に対しても耐性を獲得してしまったようです。申し訳ありませんが、こうあっては、手の施しようがありません」
「そんな……」
Eは悲嘆に暮れる。
※※※
あるドーム都市にて。
賑やかな音楽が鳴り響き、人々の拍手が祝賀会場を覆う。
「皆さま。私は市長としてこのドームの完成を宣言し、人類の復興を祝うことができることを誇りに思います」
市長は、数世代前の人々に思いを馳せる。
「前世紀後半の急激な地球温暖化とそれによる災害の増加を科学の力で生き抜き、そして何より、先の大災害、太陽フレアを生き延びた私たちの先輩達に心からの敬意を示します。人類は1万年前に氷河期に直面して以来、最大の困難を克服したのです!」
再び拍手が起こる。それを制して。
「30年前、突如、地球を襲った巨大な太陽フレア。磁気嵐により全世界の電子機器が同時多発的に壊れ、文明は崩壊直前の状況に陥りました。辛うじて生き延びた人類は、文明を再興するとともにこの都市の建設に着手し……」
復興の象徴であるドーム都市。その外には見渡す限り赤茶けた死の大地が広がっていた。