始まりはすでにバットエンド
「はぁ、やっぱりやめよっかな…」
慣れないスーツに身を固め、玄関前で鎮座する。
時計の針がカチカチとやけに鮮明に聞こえる。
ほとんど何も入ってないはずのリュックがすごく重く感じる。
「邂…やっぱりやめておく…?」
後ろから優しそうな声で、母が語りかけてくる。
横目で見ると、申し訳なさそうに手を顔に添えている。
「…いや、行ってくるよ」
なんだか、こみ上げてくる焦燥感から矢継ぎ早に靴を履き家を出る。
陽の光がとてもまぶしく感じる。こんな時間に外に出たのはいつぶりだろうか。
外自体はよく出る。コンビニに行く時がほとんどだが。
やけに足が重い。
「はぁ…」
意味のない溜息を吐く。
数十分ほど歩くと、住宅街を抜け駅のホームへと着く。後ろを向くと、住宅街が広がり、帰りたい気持ちに駆られる。
そこからはあまり記憶がない。気づけば学校前まで来ていた。
「あ…」
早く家を出すぎたのか、まだ時間がある。
校門を過ぎれば、あとは流れだ…ここを通れば大丈夫…
あまりにも重い一歩が、足を完全に制止している。
門の前でじっと止まっている。誰も通らない静かな門。
行けばすぐ終わる…
…
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あぁ、自分の意気地なさを恨む。母さんはきっと家を出た自分を見てほっとしていただろうに。
とぼとぼと学校から反対方向に歩く。家の方角でもない。ただただ、今の自分を誰かに見られてくないから。
どれくらい歩いたのだろう。ここがどこかもわからない。知らない街並みにどこかほっとしている自分。
「こんなことなら、家を出るんじゃなかった…」
取り留めのない、どうしようもない言葉を吐く。
無気力に当てもなく歩き続ける。
――――…ってください…」
遠くで人の声がする。明らかに、ただ事ではない声量で発している。
なんで、わざわざ、意味もないのに、関係がないのに。
でも、なんとなくその声の方へと走っていた。
ガラの悪い男が三人、学生姿の子に絡んでいた。
「いいから、さっさと金出せって」
「なんで、あなたたちにそんなものやらなければならないのですか!」
「っち、イライラすんなぁ…だから言ってやってるだろ?パチでなくなったから恵んでくれって。ここまで優しく言ってやってるんだぞ?わかんねぇの?」
「まったくわかりません!離してください!」
「あぁ…まじでうぜぇ…めんどくせえな!」
男が学生を突き飛ばし、学生は地面に体をこする。
砂埃が少し舞う。
その時には身体が動いていた。守ってやりたかったとか助けたかったとかじゃない。
多分、今日の自分のみじめさを、罪悪感を、心の苦しさを適当な理由を付けた晴らしたかった。
そんな自分勝手な理由だ。
そう、正義の味方の振りをして、その行為に惹かれて善人ぶりたかっただけのろうそくに群がる蛾だ。
「…やめろよ。嫌がってるだろ?」
学生の前に立ちはだかり、男たちに言い放った。
あまり怖くはなかった。むしろ心は少し高揚していた。
「あぁ?てめぇ関係ねえだろ?失せろ」
どすの利いた声で脅してくる。
「君、早く逃げて」
自分だって逃げ出したい。
「…え?でも…」
「いいからはやく!」
男に負けず劣らずどすの利いた言葉で叫ぶ。人生で一回は言ってみたかったセリフが言えた。
「無視してんじゃねぇぞ!」
頭に衝撃が走る。
あっ…殴られたのか…
「かっこつけやがって…せっかく狙ってた金づるがいなくなっただろうがっよ!」
腹を蹴られる。
そこからは容赦がなかった。
ずるずると廃ビルに連れてこられ、ストレス発散のごとく笑いながら三人で殴り蹴りを続けていた。
殴られるのがこんなに痛いのか…
人生初めての暴力に、ただ無気力にその痛みを我慢する。
いつ終わるんだろう
徐々に痛みで意識が途切れ途切れになる。
(あぁ、俺の人生…告音 邂の歩んできた道はなんとまあ中途半端でした…これマジで死ぬわ…でもまぁなんかすっきりした気がする)
顔面にこぶしが飛んできて意識を手放した




