ドリームコントロールⅡ
まだ独身で若園のアパートに住んでいた頃の俺は、悪夢に怯えて眼が覚めると、意識朦朧の中、再び夢に落ちないように盛んに首を振って抗っていた。
今、厳しい現実に身を置く俺の安らぎは夢であり癒してくれるのも夢だ。どんな悪夢でも問題ない。もう首を振る必要もない。死人に遭おうが、幽霊にビビらせられようが、悪人に脅されようが、いいようにあしらって楽しめる。夢だからとあからさまにいい加減な態度をとると出演者に悪いので一応演技は続ける。ただ、本当に居るかもしれない霊魂はごめんだ。好んで心霊スポットに足を踏み入れようとは思わない。
一通りの行為が終わっての帰り際、レディマのサキちゃんと夢の話になった。
「サキちゃん夢見るぅ?」
「見るよ」
「で、それが夢って分かるぅ?」
「分かんない」
俺はにやっと笑って、「俺は分かるんよ。夢の中で頬を抓るんよ。例外なく痛くねぇけ。サキちゃんは抓ったことねぇの?」
「ないよぉ」
「へぇ、頬抓るん簡単やと思うとったけどやったことないんや」
「そんなに簡単なことなん?」
「あぁ少なくとも俺は簡単やと思うとったんやけどな。サキちゃんも今度やってみてん。やろうって思うてできることじゃないんやったらずっと自分に暗示かけよってん」
「私は出来る私は出来るってね」
「うん、今度やってみる」