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婚約者に逃げられ続けた王女は公爵令嬢と暮らしたい

作者: 栗栖

やはり短編しか書けません。

設定ゆるゆるですので暖かい目で見ていただければと思います。

「ヴィクトリア王女殿下、私などには勿体無いお方ですので、本日を以て婚約解消とさせていただきます。」


()()()()お茶会に訪れた婚約者である伯爵令息はにこやかな笑顔で私に告げた。


ぱちくりと


「あら、そう。私は気にしないから婚約を続けてあげても良くってよ。」


そう告げると慌てた様子で、美しくて賢くて優しくて慈愛に満ちた王女殿下と婚姻するなどと自分には恐れ多く臣下として生涯尽くしたいですと早口に捲し立ててそそくさと帰って行ってしまった。




◆◆

はぁ。これでこうやって婚約解消を求められるのは三回目。

言い回しも殆ど同じ。

この分だと既にお父様には根回し済みね。

本当に頭にくる。

こんなに美しくて賢くて慈愛に満ちたワタクシの何が不満なのかしら。


「はぁ、マギー。何だかどっと疲れたわ。今日の午後の予定はキャンセルしておいて。」


それから、くさくさした気持ちを払拭したくて、宝石商とドレスメーカーを呼ぶように告げてソファにどさっと腰掛ける。


「あんな冴えないたかだか伯爵令息のくせに、私の夫になれるなどという栄誉をみすみす手放して何がしたいのかしら。若くて美しくて王女のわたくしよりも優れた女性がこの世に居るわけないのに、全く理解に苦しむわ。そう思わない?」


「仰る通りでございます。」


コンコン


暫くすると宝石商が揉み手をしながらやってきた。

「本日も王国の華、ヴィクトリア王女殿下に置きましてはこの大陸に比類なき美しさ、誠に麗しく存じます。そんな王女殿下にしか相応しくない、大粒のダイヤモンドを入手致しました。」

「まぁ素敵。見せて頂戴。」


ヴィクトリアは次々に宝石を見て、勧められるがままに買い求めた。

その後やってきたドレスメーカーからもデザイン画とサンプルを見て出された6案全てを買い上げた。

ヴィクトリアは散財したが、婚約解消のストレス発散として父王は咎めなかった。



ある日のこと、王宮の庭を散策していたら庭師が仕事をしていた手を止めサッと立ち上がり挨拶をした。


「あらっ、その後ろにいる人はグルシア国の人間ではなくて。なぜ我が国の王宮庭師に外人が入り込んでいるの。」

「はっ、はい、ヨセフは非常に知識が豊富で姫様の買付られました新種の薔薇は栽培が難しく最先端の技術を持つ人材が必要ということでお庭番をさせていただいております。」

「知識を聞くだけ聞いて放出なさい。外人が庭に入り込んでいるなんて、気分が悪くてよ。」

「そ、それは…」

「意見は聞いていなくてよ。二度と顔を見ることはないと思うけど、悪く思わないでね。ごきげんよう。」


ヴィクトリアの姿が見えなくなった所で、

「ちょ、ナエトルさん、何ですかありゃあ!!あんなもののためにこの希少種で育てにくい薔薇を頑張って俺は育ててたんですか?!」

「ヨッ、ヨセフ、気を悪くさせちまってすまないねぇ。あの姫さんは自分達が一番世界で優れてるって思い込んでるんだが周りに止められる人が居なくてあんな残念な育ち方しちまったんだよ。姿が見えなけりゃ居ないのと同じだから、気にしないでくんろ。な、な、ヨセフが居なけりゃこの薔薇は育たねぇよ。」

「まぁナエトルさんがそこまで言うなら…」


そんなやり取りが小さい頃から今でも日常茶飯事になっており、ヴィクトリアの選民思想の強さは王国内でも広く知られていた。


鎖国しているわけではないので外国にルーツを持つ国民や貴族は沢山おり、排他的で自国主義のヴィクトリアはすこぶる評判が悪いのだった。

王女であるため婚姻後は王室ではなく降下という形になり、評判の悪いお姫様のお守りはどこの貴族もごめん被りたい、だが王女である立場からそれなりの貴族でないと体面が悪すぎて降下できない、ということで王家でもヴィクトリアをかなり持て余していた。


最初の公爵家との婚約はわずか3ヶ月、婚約解消してもいいんだぁ…という空気が生まれてしまってその後の侯爵家、伯爵家とも同じく3ヶ月で婚約解消されている。

こんなに早く解消するくらいなら打診がきた際に断ればいいのにと思うが、国王から直接打診されてまずは婚約してみてほしいと直接言われるとどの貴族も断りづらく、結果このスピード離婚ならぬスピード婚約解消なのである。


◆◆

しばらくした、社交シーズン真っ只中の舞踏会。

 つい先日婚約解消を願い出た伯爵家主催の夜会にヴィクトリアは来ていた。

逃した魚のデカさがようやく分かったのか、と思ったヴィクトリアは疑いもせず出席した。王女が主賓としてくるのだから、伯爵家嫡男がファーストダンスの相手をするべきところを伯爵自身が出てきた時点でヴィクトリアはなんだか嫌な予感がしていた。


宴もたけなわというところで伯爵家嫡男(元婚約者)が一人の若い女性を連れてダンスホールの中央にやってきて、跪き、

「エレーナ嬢、貴方の美しい瞳を一目見た時から忘れることができません。

 どうか、一生その美しく輝くペリドットの瞳を隣で見る栄誉をいただけないでしょうか。結婚してください!」

と、プロポーズしたのだった。

「はい、はい!!わたくしも、一目見た時からずっとお慕いしておりました!!」


主催がプロポーズ。しかも自分から婚約解消した女の前で。

令嬢たちは目の前の公開プロポーズに頬を染めつつ、一方の「解消された」王女を憐れみと嘲笑を込めた目で不躾に見るのだった。


ーーくすくす、王女様、目の前で自分がフラれた相手にプロポーズ見せつけられてるわ

ーーくすくす、やはり、中身が伴わない美しさでは男性は心動かされないものよね

ーーくすくす、あら、そんなことおっしゃったら失礼だわ


主賓として、寿がないわけにもいかず「末長くお幸せに。」と、だけ告げつつ早く帰るわけにもいかない。

本当になんの茶番を見せられているんだと、罰ゲームのように感じたひどい夜だった。


公爵家でも、侯爵家でも、新しい婚約者を伴った元婚約者にお祝いを言わなくてはいけなかった。

もう父王から新しい婚約者候補の話は暫くしないでほしい、とヴィクトリアから願い出るのは無理もない話だった。

正直、茶会を開こうとしても参加者の態度もどこか馬鹿にしたような表情が垣間みえたり、国内の独身貴族男性は次々に婚約を急いでいる、という話を聞くにつけ、何でそんなにみんなして私を嫌うのかしらと悲しい気持ちで押しつぶされそうだった。


それでも王女の公務として出席が必要な舞踏会はいくつかある。

今回の舞踏会は隣国からやってきた大使の歓迎会で、大使の娘を紹介された。

北方の国からやってきたからか、肌が白く髪も透き通るような銀色でさらさらと腰まで流れている。

頬はうっすら色づいて目はコバルトブルーの宝石のようなまんまるな瞳だった。

線は細くすらっと背が高い、姿勢の良い美しい女性だった。

北方の国はネイビーやモスグリーンなど濃い色を衣装に用いることが特徴的だが、なんと彼女は男性の服装で現れたのだった。


「初めまして。エストリア王国ツェルニー公爵家のミシェルと申します。父の公務に同行し、暫くこちらにて滞在させていただきます。本日は過分な会にご招待いただき心より感謝申し上げます。」


いつもであれば、野蛮な国だと挨拶も必要最低限のヴィクトリアだが、如何せん今は太鼓持ちもほぼいない。社交界ではいき遅れまっしぐらの残念な王女と思われているので孤独を感じていた。

しっかりとした意志を感じられる不思議な美しい女性に惹かれ、ミシェルと一言二言交わすと、話がどんどん膨らみ結局その夜会はミシェルと楽しくおしゃべりしていたらあっという間に時間が過ぎた。


ーーこんなに楽しいと思えた時間はいつぶりかしら。

そんなわけで、ミシェルをお茶会に誘うのは自然なことだった。


エストリア王国は北方の領土のため農産業で食料を賄えないため主要産業は鉱物資源の輸出が主だったものだった。人々は積極的に狩猟をしていたし、一年の半分は雪で閉ざされ国内の交流も限られる。そのためヴィクトリアはずっと野蛮な国なのだ、と思っていた。

そんな国の出身では話しても面白くないのではと思っていたが、ミシェルは機知に富み、余計なおべっかも使わないためヴィクトリアは久しぶりに心が満たされていくのが自分でも分かった。

ピクニックや植物園、いろんな所にお出かけして、あれこれ話す中でポロリと本音が溢れた。


「わたくし、エストリア王国は北国でしょ、狩猟も主要産業だし国内でも小さな内乱が頻発しているし正直ずっと野蛮な国だと思っていたの。でも、貴方のお話を伺っているとそんなことなかったのね。」

「まぁ、ヴィクトリア様は私をそのように見ていらしたんですか」

「だって、我がホランディ王国は気候も穏やかだし酪農が盛んで豊かな国よ。正直他国よりずっと優れていると思っているし、国民だって私もそうだけれど体格にも恵まれて神に愛されていると思っていたのよ。」

「神様はどのような民も愛してくださいますよ。失礼ですが、ヴィクトリア様が抱かれていたご思想はご自身が特別だと思われていらっしゃるようです。それは神の教えにも反しますし、本来どのような文化を持つ種族がいたとしても優劣つけるべきことではございません。」

「本当に、その通りよね。一体どこで掛け違えていたのかしらわたくし。」

一時が万事、このように優しく穏やかに、でもよくないところはしっかりと意見してくれるミシェルのような女性はどこにもいなかった。ヴィクトリアにはちゃんと分かっていた。彼女は手放してはならない、と。

自分がいかに偏った考え方をしていて、世界には様々な人が住んでいて尊重しあって生きるべきだと言うことを教えてくれたのはミシェルしかいない。

自分を相手にしてくれる男性は居ないけれど、ミシェルと一生二人で過ごしたい、と思っていた。


「ねぇ、ミシェル、貴方わたくしの侍女になって下さらない?」

「まぁ、ヴィクトリア様、面白いご冗談を!それでもとても嬉しいです。いずれ国に帰る身、それまで王女様のお心を慰められればと思います。」


その瞬間、ヴィクトリアはミシェルがいずれ国に帰るということをすっかり失念していたことに思い至る。

ーーいっそ誰かと結婚してでもいいから側にいて欲しい…!


それからというもの、ミシェルと会う際にそれとなく相手に良さそうな人物と会わせるようにした。嫌われ者の王女でも、王女から呼び出しをすればなかなか断ることはできないのだ。とはいえ、大事なミシェルの相手だ。厳選して婚約していない男性の中でも人柄と評判の良い人選をした。

それでもミシェルが誰かと楽しそうにおしゃべりする姿を見るとチクリと胸が痛む。


「ヴィクトリア様。最近随分と私と色々な殿方を引き会わせようとしているのではありませんか?一体何を企んでいらっしゃるので?」

「ぐっ、ミ、ミシェルの気のせいよ。

 それより貴方、今までお会いした方に心惹かれる方はいらっしゃって?」

「心惹かれる…そうですね…」

ミシェルが少し悩む仕草をして髪を耳にかける仕草を見るだけでドキッとしてしまう。


ーー指が長いのね。


「先日ご紹介いただきました宰相閣下の御令息であるドミニク様はやはり機転がききますし、今後の交渉相手にもなるかと思いますとやはり気になる方でございました。」


ーー宰相は侯爵家だからミシェルが嫁いでも、家柄的に遜色ないのではないかしら。


「それではまたドミニク様をお呼びしましょう!」

「えっ、でも…」

「わ、わたくしがドミニクに会いたいのよ。」

「そう…ですか…。ドミニク様にはまだ内定しておりませんがいくつか婚約の候補が上がっているとか。」

「あら、そうなの?!ミシェル、随分と調べが早いのね。」

「は、はい、気になって少し調べたもので…。」

「でも、でもまだ候補の段階でしょう。いざとなれば、お父様にお願いすることもできれば良いから気にすることはないわ!」

「そうですか…。」


そうしてドミニクをお茶会にしばしば呼ぶことが増え、ミシェルと和やかに話すドミニクを見て、なかなかにお似合いだわとにこにこして過ごすことが増えた。


◆◆

二月ほど過ぎた頃、父から珍しく呼び出しがあった。

「ヴィクトリア、近頃ロルジュ侯爵の令息、ドミニクと頻繁に会っているそうだな。先方が良ければ婚約を結ぼうと思うがいかがか。」

「えっ…!!!!いえ、わたくしのためではなく、ツェルニー公爵令嬢が嫁げば、わたくしの侍女になってもらえるのではないかと思いまして。」

「あぁ、そういうことだったのか。それではロルジュ侯爵令息とは婚姻は結びたくないか?」

「わ、わたくし、暫く男性は懲り懲りですわ!」

「ミシェルと一緒にいるのに何を言ってるのか。」

「ミシェルは特別ですもの。」

「ふむ。あいわかった。」


という会話をして早々に親子の会話は終了した。


それだというのに、それからというものぱったりとミシェルに会えなくなってしまった。

ツェルニー公爵が地方を回るということでミシェルも随行していってしまったのだ。

ヴィクトリアはミシェルがそのまま帰ってしまいやしないかと早く帰ってきて欲しい、と手紙を出し続けた。

それなのに、返事は移動し続けているか、とかでなかなか来ないし、やっと王都に戻ってきたと思って連絡しても、都合がつかないということで全く来なくなってしまった。

いよいよ帰国する、という際になってようやくミシェルが来てくれたのだった。


ヴィクトリアは朝からミシェルが来ることが決まってソワソワしっぱなしで、客間をずっとぐるぐると歩き続けていた。

久しぶりに登城したミシェルは少し日に焼けて引き締まったように見えて思わずドキッとしてしまった。

お茶を出して人払いをすると、早速ヴィクトリアはミシェルにつのったのだった。


「ミシェル、貴方最近全然来なかったじゃない!それだのにもうすぐ帰国だなんて…一体どうしたの?わたくし、何か貴方の気に触ることをしたり言ったりしたかしら。」

「いえ、ロルジュ侯爵令息と頻繁にお会いされていたので私は遠慮した方が良いのかと…」

「ロルジュ侯爵令息?そんな人どうでもいいのよ。わたくしにとっては、貴方がいないと意味がないのよ!」

「はい?」

「だから、わたくしは、貴方が必要なのよ!貴方しかいらないの!他の人はどうでもいいのよ!貴方が好きなの!」


思わず大きな声を出してしまったヴィクトリアは、はっと気がついて思わず顔を真っ赤にした。

「い、い、いや、これは、その…」

「へぇ、ヴィクトリア様は私のことお好きだったんですか。だったらなぜ他の男を呼んで私に見せつけるようなことをされたのです?嫉妬して欲しかったんですか?」

ミシェルの纏う空気が少し変わった。目線が鋭くなってこちらをじっと見つめられると鷹に睨まれた蛙のような気分になった。

「嫉妬?いえ、そんなことではないわ。わたくし、結婚はもう諦めているのだけれど貴方とずっと一緒に過ごしたいと思ったの。だけれど、貴方は異国の方だから、この国で婚姻を結ばないと側にはいてくれないと思ったのよ。だから、いい人を見つけて婚姻までできたらって…」

「ヴィクトリア様は随分と他国を蔑んでおられましたがそれは今でも変わりないのですか?」

「そんなことはないわ!貴方のエストリア王国だって許されるなら行ってみたいくらいよ!」

「おっしゃいましたね。」

「え、ええ」

「それならば、」


徐にミシェルが席を立ち、ゆったりヴィクトリアの近くにやってきた。

顔に影ができるほど近づいた。

「ミシェ…」

顔が近づきゆっくりと唇に触れる。


「あ、あ、貴方…」

ヴィクトリアは顔を真っ赤にさせて一体自分の身に起きたことがなんなのかパニックになっていた。

ミシェルはゆっくり跪き、ヴィクトリアの手をとって改めてしっかりと目を合わせた。

ーーあぁ、なんて美しいコバルトブルー。吸い込まれてしまいそう。


「ヴィクトリア様。愛しい私の最愛の方。

 もし貴方のお心に私がいるのであれば、どうか私と結婚していただけませんか。」

「えっ、えっ、えっ!?」

「最終日のご挨拶にお父上との謁見も申し入れていたのですが、婚約の許可もいただきに行きましょうね。」


にっこりと笑ったミシェルは、それはそれは美しかった。


◆◆

リンゴーン、リンゴーン

教会の鐘が慶事の知らせを届けている。

突然のプロポーズから半年経ち、ミシェルとヴィクトリアはホランディ王国で結婚式を挙げた。


教会のドアを開け、ミシェルとヴィクトリアは手を取り合って出てきた。

ミシェルは軍服を、ヴィクトリアは首元からデコルテまで繊細な刺繍をたっぷり使い、シフォンとオーガンジー生地でふんわりしたドレスに光沢のある大ぶりのリボンが腰元から長く広がりトレーンに溶けていく美しいドレスを身につけていた。小さな宝石も散りばめられ、太陽の光に反射してキラキラと輝いて見える。


かつてのワガママ姫は、エストリア王国との架け橋として、しかも熱烈な恋愛結婚によって運命の相手と結ばれた、ということで市民から大いに人気者になった。

吟遊詩人が歌を歌い、劇ではマドンナが演じる演目になっている。


披露宴のファーストダンスを踊りながら、ミシェルはとろけるような瞳を向けていった。

「ヴィッキー。愛しい私だけの人。今日はいつにも増して美しいよ。」

「ミシェル、貴方、まだエストリア王国でも挙式があるんだからそこまで初夜はお預けですからね。」

「エストリア王国は初夜の証とかしないから、そういうのは気にしなくていいんだよ。」

「へぇー、そうなんですの…って違いますわ!だからと言って良いというわけでは…」

「ヴィッキー、もう今日君の姿を見て今日がその日だと心に決めたんだよ。美しすぎる君が悪い。」

「な、なんですの…!!あ、貴方の方がよっぽど美しくってよ!!ずっと胸の高鳴りがとまらないのは貴方のせいですわ!!」


新婦の美しい王女が顔を真っ赤にしながらも新郎を愛しくてたまらないという目線で見つめるのを誰もが微笑ましく眺めていたが、かつての元婚約者たちは、今日のために仕上げてきた美しい王女と、可憐な様子を見てとても悔しそうにしてパーティーから早々と帰っていったのだった。



◆◆

ミシェルはエストリア王国の公爵家嫡男である。今後の公務のための勉強として父の外交に同行したのだった。

そこで出会ったヴィクトリア王女は、噂通りのワガママ姫だったが、話してみたら実際のところは知識に偏りがあるだけで根は素直な可愛らしい少女だった。


ずっと話をしていると居心地がよく、彼女もしょっちゅう二人で出かけに誘ってくるので好きになるなという方が無理があった。

可愛らしい王女がどうやって自分に好意を伝えてくるのだろうか、と半ばワクワクしていたらそのうち男を呼ぶようになった。

ガンっと頭を殴られたような気持ちになったが、それでも呼ばれた相手は今後の重要なビジネスパートナーになりうる非常に家柄も人柄も良い人材だった。話していて良い人脈作りになったな、と思いながらますますヴィクトリアが何がしたいのかわからなくなった。


ーー嫉妬して欲しいんだろうか?


誰が気になったか、とずけずけと聞いてくるのでちょっとカチンとしつつ、ドミニクが気になったと伝えると

「それではまたドミニク様をお呼びしましょう!」と言う。

挙句、

「わたくしがドミニクに会いたいのよ。」

とまで煽ってくる。私とはもう過ごせない、ということなのだろうか。

今回呼ばれた全ての男性は当然調査済みだ。ドミニクにはまだ婚約者がいなかった。


「そう…ですか…。ドミニク様にはまだ内定しておりませんがいくつか婚約の候補が上がっているとか。」

「あら、そうなの?!ミシェル、随分と調べが早いのね。」

「は、はい、気になって少し調べたもので…。」

「そうだったの、でもまだ候補の段階でしょう。いざとなれば、お父様にお願いすることもできれば良いから気にすることはないわ。」

「そうですか…。」

婚約候補レベルであれば国王の力を使ってもみ消すほど、欲しいと言うのか。


ーー分からない。ついこの間まであんなに楽しい時間を過ごしていたのに。


ミシェルは父が地方都市を訪問するということにかこつけて、ヴィクトリアから距離を置くことに決めた。

すると、暫くして手紙が届くようになった。

内容は他愛もない今日あった出来事などで、思わずほっこりしてしまう。

手紙が来ると返信を持たせたが、たまに返事を書くまでの間に何通か届くことがあったので移動に間に合わないほど頻繁に手紙を送ってくれているようだ。


ドミニクとの仲はどうなっているのか気になるのに、手紙には全く触れてこない。

だめだと思ってもふと気が抜けるといつもヴィクトリアのことを想っている自分に気づく。


もう父の仕事もそろそろ終わり、国に帰る日がいよいよ現実的になってきた。

もしドミニクとうまく行っているなら、その姿を見るのは辛すぎる。

さっと挨拶だけして潔く国に帰ろう。


そう想って訪問した先で、まさかヴィクトリアに詰め寄られるとは思ってもいなかった。

そして、あの熱烈な告白だ。

「だから、わたくしは、貴方が必要なのよ!貴方しかいらないの!他の人はどうでもいいのよ!貴方が好きなの!」


この人を貰って良いと言うのか?もう、自分で言ったのだから、今更許しを乞われても逃さしはしない。

ゆっくりと近づき顔を覗き込むとうっすら上気したピンク色の頬に、不安げに見上げる大きな瞳は潤んでいる。吸い寄せられるように口づけをすると真っ赤になったヴィクトリアを抱きしめた。


そのまま、逃してたまるかと国王陛下へ謁見する際にヴィクトリアと一緒に婚約の許可を貰った。

「えっ、貴方、女性じゃなかったの!?」というヴィクトリアの一言で、色々繋がったが、

性別を越えてでも一生を共にしたいと想ってもらえていたということでそれはそれでよしとする。


私という男を知ってもらうには、これからたっぷり時間があるのだから。

拙作読んでいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう物語、すごく好きです。 このお話を深く掘り下げて、長編を書いてほしいです!!
[一言] …だいぶ中性的なお顔立ちだったのでしょうね… 面白かったです~
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