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龍帝転生〜魔法理論皆無な元龍と、頭のネジが吹っ飛んだ一族×2が手を組んで領地運営どころか祖国を世界一の大国に押し上げるようです〜

作者: 桜 寧音

短編ですよ。


プロローグ


『むかしむかしあるところに一匹の赤龍が居ました。

 その赤龍はとても強く、誰も太刀打ちできません。

 ある時は同族の龍が徒党を組んで襲いましたが、返り討ち。

 魔物も多種多様な軍を形成しましたが、龍の一吹きで飛ばされて。

 人間は挑むことも、しませんでした。


 龍はある時は草や樹を爪で器用に刈っていました。

 ある時は近くの村の人に請われて、雨を降らせました。

 ある時は地上に降り注ぐ星を砕きました。

 ある時は魔王を焼き尽くしました。


 龍にできないことはないのです。


 その龍は、お月見山に住んでいます。

 山の頂上に行ったことがある人はいません。

 龍がそこにいるからです。龍はそこから、滅多に動くことをしません。

 来たとしても、頂上に向かうことだけは止めます。


 龍は何故そこにいるのでしょう?

 答えは簡単。

 そこに、三つのお宝があるからです。


 その宝を守るため、今日も龍はだれかを追い返します。


 そのお宝を手にしたのはたった一人だけ。


 勇者・アーサーです。


「ああ、龍よ。私は妻のため、君の宝が必要だ!それを戴こう!」


「誰にもこの宝は渡さん」


 そう。龍は話せるのです。驚きですね。

 勇者は龍と戦うのかと思いましたが。勇者は剣を抜きません。

 それどころか、剣を持って来てもいなかったのです。


 勇者はただ語りました。


 妻の美しさを。

 妻の健気さを。

 妻の強さを。


 龍はいくつか問い返して、勇者は他にも話をしました。

 世界の果ての海のことを。

 マグマが吹き荒れる活火山のことを。

 難攻不落と呼ばれた大渓谷のことを。

 今は朽ちた、誰かの城のことを。


 それを勇者は身振り手振り、面白おかしく語るのです。

 その話に感激したのか──龍はお宝の一つを譲ったのです。


 絶対強者の龍は。

 喜劇王の滑稽話に敗れたのです。


 世界でただ一人、龍からお宝を貰った者。

 だからアーサーは、勇者と呼ばれるのです。


 ああ、お月見山には行ってはいけないよ?

 あそこは龍帝の聖地。

 幻想的な月を眺めるだけにしておくといい』


「『勇者アーサーと、龍帝』。おしまい。面白かった?」


「うん!勇者アーサーの話、もっとないの?」


「アーサーの話はこれだけなの。ごめんなさい、アル」


 アルと呼ばれた紅髪の少年は、母の膝の上で絵本を読んでもらっていた。

 アーサーの話が好きなようだったが、喜劇王アーサーの童話はこれだけ。まだ三歳になったばかりの彼にはもう少し詳しい物語を読み聞かせることはなかった。

 アルこと、アルビオンは昔からアーサーのことが大好きだ。


 何故ならアルビオンこそ、このアーサーと語り合った赤龍そのものなのだから。

 かの龍帝。

 今は領主の家の長男として産まれ変わり。

 人間界でちょっとした騒動を引き起こす。そんな、滑稽話だ。



「我らが主人よ。望みはないのですか?」


『ないなぁ。お前たちの一族が来るようになって、暇でもなくなった。近くの村の者もたまには顔を出す。厄介な魔物もいないだろう?そら、私が望むことがない』


「それは望まれることがなくなった、の間違いです。我々は、あなた様ご自身のやりたいことを聞いている」


『お前たちの狂信っぷりが怖いな』


「我々はこれが平常運転なので」


『そうか……。となると、望むものなぁ』


「何でも叶えると、我らの全てを賭けて誓いましょう」


『重い重い。……そうさなぁ。寝物語ではある。アーサーに影響されたのだろうよ。龍たる私が望むとしたら、それこそ滑稽話と思われよう。それはな──』


「承りました。すぐにその方法を模索してまいります」


『……冗談とは思わないのか?』


「その顔を見て、誰が冗談だと思いましょう?何年掛かろうが、実現してみせます」


 それが龍帝と頭のおかしい一族の約束。

 まさか龍帝も約束してたった数ヶ月でその方法を見付けてくるとは思いもしなかった。



 それは唐突に訪れた。穏やかな春の日。元龍帝アルビオンが人間になって僅か四年しか経過していなかった。

 人間の母が、病に負けてしまったのだ。


「アル。ごめんなさい……。あなたのこれからを、見られそうにないわ……」


「母上、どうして病のことを仰ってくださらなかった?今からでも間に合う。私が薬を採ってくる。全てに効く万病薬だ」


「ふふ。そんなことしなくて良いのよ。そもそも、そんな薬、どこにあるの?」


 母はアルビオンの言うことを全く信じてくれない。だから死の淵を彷徨っていると言うのに無茶を、冗談を真面目に言う息子に笑ってしまった。

 だが、アルビオンの龍帝としての記憶がそれを嘘ではないと告げている。同じように病で死に瀕していた人物を救った万病薬の存在を、その所在をアルビオンだからこそ知っていた。


「お月見山だ。あそこの頂上には、月光に照らされた薬草が生えている。アーサーの妻の病も治した物だ。あれならきっと……!」


「あそこには、怖い龍帝さんがいるじゃない」


「龍帝は、もういない!私こそが、アーサーに宝を貰った(・・・)龍帝だ!あそこに危険なんて……!」


 アルビオンは更に言葉を続けようとして、だがそれは母の手が頬に触れたことで止まってしまう。

 父はアルビオンの言葉に驚きながらも、自らの妻の最期を見逃すつもりはなかった。


「良いの。アルビオン。でもね、これだけは約束して。優しい嘘でも、嘘は付かないで」


「嘘なんかじゃ……!」


「あなたはこの領地を守る領主になるのです。領民のためにも、嘘はいけません。あなたには優しく、強い領主になって欲しいの」


「母上、信じてください!一時間で良いのです!それだけあれば往復なんて……!」


「あなた。アルビオンをお願いします。不甲斐ない妻でごめんなさい……」


「いいや、お前は素晴らしい妻だったとも」


 父の言葉に満足したのか、母は優しげな表情で事切れる。

 父はその姿を粛々と受け止め。

 身近な存在の死を初めて目の前で見たアルビオンは。


 初めて会った時の、喜劇王とは全く異なる姿のアーサーの感情を初めて理解した。

 それはまさしく、恐怖と名付けるに相応しい。人間らしい特大の感情だった。



 母の葬儀も終わって。

 父は改めて二人っきりでアルビオンへ問い質していた。

 兆候はあったのだ。四歳にしては利発的すぎること。身体能力も凄まじく、子供とは思えない速力と怪力を秘めていた。


 そして教えてもいないのに使い手も希少な魔法の素養まであるときた。

 その不思議の秘密が「反魂(はんごん)の術」で、その正体がかの最強と謳われる龍帝であれば辻褄は合ってしまう。


「アルビオン。お前は、『反魂の術』で産まれ変わった龍帝なのか?」


「はい。父上。『勇者アーサーと、龍帝』に語られるお月見山に住んでいた龍。名前はありませんでしたが、その龍そのものです」


「そうか……。そうじゃなきゃアーサーから貰ったなんて言うはずがないものな」


 アルビオンはその辺りを不思議に思う。アーサーがアルビオンの生活を守るために、わざと流した情報もある。真実がどの程度人間の世界に流通しているかは人間になってから調べてみたが、真実はほぼなかった。

 宝の数は合っていたが、その全てを始めからアルビオンが持っていたという風になっている。その辺りからして間違っているのに。

 父は、アーサーから貰ったということを知っていて、それはどこから知ったのか。それがアルビオンは気になった。


「父上。アーサーと繋がりがあるのですか?アーサーから宝を貰ったことを知る者は少ないのですが」


「我が家はかの家の親族でね。領主にのみ伝えられる秘伝がある。この領地もペンドラゴン家から戴いたものだ。何でもやることができたとか」


「あの狂信者一族は……」


 父の言葉にアルビオンは呆れる。

 アーサーからは貴族だと聞いていた。だというのにその末裔はいつの間にかアルビオンを最優先にしていた。貴族なのに大丈夫かと考えていたが、まさか丸投げしているとは思いもしなかった。

 そして領主にのみ伝えられる秘伝。アルビオンが探してもないはずだ。


「確認したいのだが、村に頼まれた雨乞いとは魔法で解決したのか?」


「そうです。『ウェザー・コントロール・レイン』を使っただけです。そんな名前だとアーサーから教わりましたが」


「……第九星魔法なのだがな」


 星魔法。十二の階級に則った魔法で、数字が大きい魔法の方が規模・威力・習得難易度において高くなる。第九星魔法ともなれば上級のかなり上で、人間では会得している者の方が少ない大魔法だ。

 人間は使えても第五星魔法。それ以降を使えたら天才の称号が必ず与えられる。

 かの龍帝が素の強さだけではなく魔法もデタラメだったと知ると、父はアーサーがそのことを記さなかった理由がわかる。


 過剰すぎる。推測はできても、魔王を倒した龍として絶対のアンタッチャブルだったのに、蓋を開ければそれ以上。

 人間が絶対に手を出してはいけない存在だった。


「『反魂の術』まで使えたなんてな」


「その、父上。私は『反魂の術』とやらを詳しく知らないのです。人間になったのはその術が関係しているのですか?」


「うん?自分で使ったわけではないのか?」


「アーサーの末裔に使ってもらっただけで、気付いたら赤子になっていたので」


「……『反魂の術』を他人に使う、か。かの一族は頭がおかしいな……」


 そこから父による「反魂の術」の説明が始まる。

 基本は、術者本人の魂を来世に送る魔法。人間は魂の循環を受けた場合、魂の気高さだけそのままに身体能力や魔法の技量、記憶などは全て綺麗に洗浄される。

 と、されている。それが今の人間の世界における魂の在り方だ。


 だが「反魂の術」はこの在り方に反することを可能とした、第十二星魔法だ。

 この魔法を使って産まれ変わった人間は記憶は完全に、身体能力や魔法についてもある程度引き継げるという、魔法の深淵を目指す者からすれば是が非でも欲しい魔法。

 いや、魔法の探求者以外でも欲しがる魔法だろう。特に権力者など。


 問題はこれが第十二星魔法であること。

 そもそも到達者が少ない最上級魔法。使える人間がほぼいない。国に一人もいないというのが当たり前。第十二魔法を使える人間が一握りで、その上「反魂の術」を使えるのは更に限られてくる。

 今世界中に「反魂の術」が使える人間は二人いるかどうか、だろう。


 そして「反魂の術」の性質としては自分にしか使用できないとされていた。他人にかける実験も行われていたが、どれも失敗に終わっているために他人にかけるのは不可能だと断言された。これが権力者たちを絶望させた「魔の論文」だ。

 この「魔の論文」を知っていたために父はてっきりアルビオン本人が「反魂の術」を使ったのだと思っていた。


「その『反魂の術』が高位の魔法だということも知りませんでした。そうなるとあの者が使ったのは『反魂の術』ではなかったのでしょうか?」


「それはわからん。効果そのものは『反魂の術』で間違いないと思うが」


「……即時に転生したようなので、あの者もまだ生きているでしょう。探して聞いてみたいと思います」


「そうか。それでアルビオン。お前がどのような存在であろうと、今はこのフェイ領の一人息子、アルビオン・ル・フェイだ。その上で、お前はこの領地をどうする?」


「……元々がアーサーの領地だったというのなら。私はここを守りたい。母上との約束もあります。狂信者たちが自由になりたくて手放した地でもあるのだから、責任もあります。──私はあなたの跡を継ぎたい」


 アルビオンは人として、そう答えていた。その答えに満足して、父は頷く。


「ではこれより、領主として相応しい勉学を。そして剣術も仕込もう。そして貴族が通う学園へ入学し、国内の者にフェイ家の者として意を示してこい」


「はい」


 それから持ち前の頭脳と身体能力を活かしてアルビオンは二年間で父からの指導を全てパスしてしまった。文字やら礼儀作法などは一から学ばなければならなかったが、元々頭の良い種族として知られる龍であり、しかも頂点に立っていたアルビオン。

 驚異の速度で全てを学び終えていた。


 これなら大丈夫だろうと、本来十歳から通う学園へ六歳になってから受験させたところ、予想通り特例入学が認められた。

 だが、ここでアルビオンと父にとって想定外の事態が起こる。

 ぶっちぎりの首席入学どころか、成績としては一応合格というレベルだったのだ。

 何故なら──。



 国立ブリテン学園。

 国の名前を冠したこの学園には十歳になった国中の貴族の子息が集まる。貴族だけではなく商家の子供や騎士、使用人の子供も通う最大の学校だ。

 首都にあるために、遠くに領地を構える貴族はこの学校が隣接させている寮に住まうことになっている。

 今日は新たな一年度が始まる日。入学式も終えて、自分たちのクラスへ移動していた。その移動していた先で、生徒たちは階段状になっている座席に座って近くの知り合いと話していた。


「特例入学が二人……。しかし、片方はアレだろう?」


「ああ、頭のおかしい例の一族だ。アレが首席入学なんて、この国はどうなるんだ……?」


「いや待て。もう一人の特例も魔法理論が全くダメの、他で誤魔化した特例だって聞いたぞ?」


「なんと!我らが先祖が遺した、あの美しき魔法理論を理解しない猿が特例だと⁉︎」


 魔法理論。

 人間が長年の研究を纏めて第十二星魔法に至れる者を増やそうとした学問の一つだ。

 これもブリテン学園に入学するためには必要な教養に含まれている。

 噂されている魔法理論が全くダメな特例入学をしたのは隠すまでもなくアルビオンのこと。


 それはそうだろう。アルビオンは元龍だ。魔法なんて理論など知らなくても使えるのに、人間が効率良く使うための理論なんて必要としない。

 アルビオンの父もアルビオンが詠唱式を知っていたので魔法理論は教えなくていいだろうと思っていたのが裏目に出た。人間の常識として魔法が使えるのは魔法理論を的確に理解しているからだ。魔法理論がわからずに第十二星魔法が使えるわけがないというバイアスがかかってしまった。


 アルビオンは入試の時に初めて見て、なんだこれはと首を堂々と傾げてしまったわけだ。

 それを挽回するように第六星魔法の実践と、騎士との一騎打ちで圧倒したこと、魔法理論以外の教養で全部満点を取ったために、魔法理論さえそれなりの点数を取れればアルビオンこそが首席になっていた。

 アルビオンは魔法理論を適当に書いて百点満点の内二十八点をなんとか取った。問題文からどうにか推測して求めている答えで埋めたのだが、それでも正答率は三割いかなかった。


 なお、この答案が後々大問題になるが、それはまた今度。

 とにかくそんな状態で入学した、周りより一回り小さい少年。魔法理論がダメダメな特例入学者がアルビオンだと即座に知れ渡った。

 教室にアルビオンが入った瞬間、教室中の視線を集めた。


 赤髪も貴族の間では珍しく、その身長の低さからすぐにアルビオンは注目を集めた。そしてざわめきが生まれる。

 アルビオンは人間の悪口なんて気にせず自分の席に座る。魔法理論なんて知らなくても領地運営に関してはどうとでもなると父にも慰められたからだ。

 そして、アルビオンに注目が集まる中。




 ボカン!と爆発音が鳴った。




 その音がしたのは生徒たちの席より下の、教壇。

 そこに、一人の制服に身を包んで座っている幼女(・・)がいた。


「アッハッハッハッハ!いやいや初めまして我がクラスメイト諸君!ちょっと姿を消して話を聞いていたが君たち醜いなぁ!さすが首都に名だたる名門校に通う名家の跡取り諸君だ。若干数例外はいるようだが、随分楽しいクラスのようだな。──こんな可愛らしい仔を寄ってたかって言葉の暴力など、人の心がないようではないか?え?」


 蒼い髪に蒼い瞳。やはり周りより背の低い少女。

 その少女が爆発音と共に教壇の上に乗って膝を組みながら皮肉を言っていたと思ったら。

 次の瞬間には、アルビオンの目の前に立ち、アルビオンの顎を右手で上げて顔をマジマジと覗き込んでいた。


 第八星魔法の「転移」だ。それを詠唱式も、魔法名も唱えずに使ったことでその事実に辿り着いた者が泡を吹いて倒れる。

 アルビオンは今世では歳上の彼女に向かって、「若い身空で大した者だ」と感心していた。


「赫く輝くツヤのある髪に、金を思わせる光沢のある瞳。そしてこの愛らしい、あどけなさを遺した顔。──パーフェクトだ」


「……ありがとう?」


「ああ、いいとも。お礼を言える仔は好きだよ?君は良い友になりそうだ」


 こうして二人は出会ってしまう。

 世界最強の元龍帝と、頭のおかしい一族の末裔である幼女が。

 さあ祖国繁栄を始めよう。

 そしてもう一つの頭のおかしい一族が合流するのも、あと僅か。


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