09 物件
ベッドでまどろんでいると何者かの気配を感じる。
さすがに慣れてきたもので気配に向かって毛布をがばっと広げ、くるんで抱き上げようとしたらなぜか想定より抱き心地が良すぎる。
おそるおそる毛布をめくると、真っ赤になったリノアさんと目があった。
頭を床に擦り付けながらひたすら謝った。
無言で小部屋を出て行くリノアさん。
物件探しに行く気まんまんだったのに、今はこの部屋から出たくない気持ちでいっぱいです。
身支度を整え勢いよく扉を開け朝食不要ですと声をかけて逃げるように部屋から出た。
まあ実際逃げだしたわけですが。
冒険者ギルドに討伐報酬を受け取りに行ったら、午後にまた来てくださいと言われる。
今日は何もかも上手くいかない。
物件を探して不動産屋を巡る。
良い物件を見つけられないままうろうろして気付けばお昼過ぎ。
足取り重くギルドへ向かう。
ジエルが手招きしてきたので応接室へ。
まずは昨日の自分の態度を詫びる。
急だったとはいえ私らのやり方もまずかったと深々と頭を下げるジエルだが、顔を上げるとにやけている。
「あんだけ怒ったってことは今度は本気なんだな」
「俺はいつだって本気なんだがなぜか相手に伝わらない」
「いつものにやけ面を見せなきゃイケるって」
「残念ながらとっくに見られてる」
顔を見合わせて笑うとあの頃が思い出されて、ここにいないもうひとりのことが頭に浮かんだ。
盗賊討伐の報奨金は予想以上の金額。
大物だったのかと聞くと、察しろと顔を背けたジエル。
ギルドと衛兵隊の双方のメンツとか、ジエルも相当ストレスが溜まっていそうだ。
毒針使いの仲間はテイマーだそうだが使役している魔物は主に何だと尋ねたが、無言でこちらをにらむのみ。
これ以上つつくと爆発しそうなので、話を変えて物件について聞くとニンマリ笑って書類を差し出してきた。
図面も何もない文字だけの書類には、物件の来歴が簡潔に書かれていた。
とある老貴族、表舞台を去って隠居生活を始めたいが現役時代に周囲の恨みを買いすぎた。
疑心暗鬼が過ぎて護衛も警備兵も信用出来なくなり、ひとりでも安全に暮らせる屋敷を設計させた。
注文主のダメ出し続きで設計も工事も遅れて、やっと完成した頃には老貴族は病の床で引っ越す前に亡くなった。
多くの貴族たち、建築業者、不動産屋など各方面から恨みを買ったその屋敷は呪われた曰く付きの物件として放置されているという。
「大体理解できたが呪いは勘弁な」と言うと、
「とりあえず一見の価値ありだぜ」と引っ張り出された。