04 戦い
昨晩テントの中で何があったのかはさておき、今日もアイネちゃんはおとなしく良い子している。
朝食後、準備を済ませて旅を再開。
昨日と同じ平穏な道中だが、昨日と違うところもある。
左手をリノアさんとつないでいるアイネちゃんが右手を伸ばして俺の左手をぎゅっとにぎりしめてきた件について。
子どもと手を繋いで散歩する幸せ夫婦に見えて欲しいのだが、自分の挙動や表情に自信が持てない。
昨日の晩、緩んだ自分に喝を入れたのに手繋ぎひとつで顔がにやける。
利き手は空けてあるから緊急時には対応可能だが、今の俺は不審者許すまじな正義感あふれる旅人から目をつけられる可能性が非常に高い。
早く離れないといろんな意味で危ないのに、ぎゅっとにぎってくれるアイネちゃんを振り解く勇気は俺には無い。
もう少し歩いたらお昼休憩かなと考えていたら後ろから馬車の音が聞こえてきた。
歩みを止めて二人を道の脇へと誘導する。
御者に不信感を抱かせないように出来るだけ自然に、二人をかばう位置へと移動する。
幌なしで荷台はほとんど空の荷馬車がゆっくりと近づいてきて、止まった。
乗っているのは御者ひとりだけ。
怪しい点は無いけれど不信感が拭えない。
「どこまで行くのかね」と、のんきそうな御者のおっさん。
「この先の街までです」
「途中までになるけど乗っていくかね」
「ありがたいんですがひとつ聞いても良いですか」
「何かね」
「俺たち馬車が来た方にある村から歩いて来たんですが、おじさんはどこから来たんですか」
沈黙。
男が投じた何かが正確に俺の首を目掛けて飛んできた。
喉を押さえた俺を見た男、馬車を降りて近づいてくる。
俺の後ろにいる二人を見て「ほう」と口を歪ませた男は、まだ立っている俺をどかそうと右手を伸ばした。
右手首から先がすとんと落ちた男を蹴飛ばして喉元に剣を突き付ける。
「仲間はどこだ」
仰向けの男は落ち着いた声で「ひとりだ」と言ったが、痛みで暴れないのが気持ち悪いしそもそも視線が妙だ。
後ろの二人に「こっちを見ないで」と声を掛けてから、『収納』から男の喉に向かって長い針を落とす。
自分が投げた針が喉に刺さった男は、口から泡を噴いて動かなくなる。
念のため男の体を『鑑定』しながら道端に転がし、こぼれ落ちたタグを回収。
恐怖で動けなくなっている二人を馬車に乗せて全速で街を目指す。