35 大団円
屋敷に戻ると、中広間のテーブルにお茶の用意がされていた。
みんなが今一番して欲しいことを自分で判断して動いたアイネちゃん。
その働きに一番誇らしげなのはセシエリアさんだが、一番先に席に着いてお菓子を頬張っているアリシエラへ向けるまなざしは厳しい。
だが今日は活躍に免じてアリシエラおしおきポイント増減無しの日としておこう。
お姫様抱っこされたリノアさんを見たアイネちゃんは少しだけ驚いていたけど、
「ここに座って」と椅子を用意してあげるところや、
「お顔真っ赤だけど大丈夫?」と心配してあげるところや、
「お兄さんはお母さんのとなりね」という見事な采配など、
一部の隙もない完璧メイドっぷりが心配になってきた。
以前、セシエリアさんから聞いた『伝説のメイド』
今のアイネちゃんならば、かの『伝説のメイド』とも仲良しさんになれそうだが、高スペック女子大好きと噂される『鏡の賢者』とかいう人さらいに目を付けられはしないかととても不安になる。
まったりとした時間を夕方までみんなと過ごしていたら来客ありとのお知らせ。
例の簡易型邸内確認魔導具を操作したアリシエラが「ジエルさんですね」と言ってお菓子に手を伸ばす。
お迎えに行こうとしたアイネちゃんを制して、アリシエラに目線を向ける。
みんなの視線を一身に浴びていることに気付いたアリシエラ、手をお菓子に伸ばしたまま固まっていたがようやくハッと気付いて、
「行ってきます、ご主人さま」と慌てて部屋を飛び出していった。
小さなため息をつきながらお茶の用意を始めるセシエリアさん。
中広間に来たジエルは、ついさっきギルドに届いた最新情報だがと前置きした。
街の外、墓地の管理小屋の地下で女の遺体が見つかった。
地下には王城から盗まれたテイマーの秘術書、複数の死体や無数の慰留品などもあった。
状況的に以前目撃情報があった、毒針使いの仲間のテイマーと思われる。
「やっと決着だな」と、いつになく晴れやかな表情のジエルに安堵する一同。
アリシエラは表門の改修案を確認したいと自室へ。
ヴァニシアとジエルは外で手合わせしようと部屋を出た。
アイネちゃんはどっちを応援しようか迷ってるとセシエリアさんに相談。
首をかしげるセシエリアさんに、ヴァニシアのお胸とジエルのお腹について熱心に語りだすアイネちゃん。
手を繋いで部屋を出たふたりを見て苦笑するリノアさん。
立ち上がってテーブルの上を片付け始めたので、少しお手伝い。
「長かったけど、ようやく決着がつきました」
「何か忘れていませんか」上目遣いのリノアさん。
「やれなかったこともこれからやりたいこともたくさんあるけど、今はゆっくり休みたいです」
「ずっと待っているんですよ」
「ごめんなさい、何か大事なことを忘れてるみたいですね」
「……」
「……」
「私が何度救われたか覚えてますか」
「ごめんなさい、数えてないです」
「私にできることなら何でもしますって、何度も言いましたよね」
「ごめんなさい、覚えてます」
「恩を返したいのに助けられてばかりで、返せないまま恩が溜まっていって、
これじゃ全部返し終わる前に、私おばあちゃんになっちゃうじゃないですか」
「おばあちゃんになっても、ずっと一緒にいてくれますか」
「はい」
泣き出すリノアさん。
突然、背中に強い衝撃。
「お母さんをいじめるな」
アイネちゃんの声。
あのぽこぽこパンチが立派になってっていうか、かなり本気で痛い。
アイネちゃんの本気の連続パンチで前につんのめる身体。
リノアさんにもたれ掛かって。
抱きしめあうふたり。
「腰の入った良いパンチだ」ヴァニシアうるさい。
「あんなへたれ男にリノアさんはもったいねぇよ」ジエルめ。
「なんか見つめあっちゃってるんですけど」アリシエラだまれ。
「子どもは見てはいけませんよ」さすがセシエリアさん。
「お兄さんの子どもになるんだからこれからはおとうさんって呼ぶんだよ」
アイネちゃん、ありがとう。