32 家族
セシエリアさんの陰に隠れるようにして戻ってきたヴァニシア、
メイド服姿ですね。
お母さんよりおっきいと見惚れるアイネちゃん。
「いくら女同士とはいえあんな姿勢であんなところまで洗われるのは」もじもじしているヴァニシア。
何かに気付いたリノアさんに向けて、ヴァニシアのお腹を指さしてからOKサインをするセシエリアさん。
安堵した様子のリノアさん、首をかしげるアイネちゃんとアリシエラ。
「緊急家族会議を始めたいと思う」真面目顔の俺。
「家族……」うつむくリノアさん。
「議題はこの元王女をどうするか、だ」
「困っている女の子をほうりだすのはちょっと……」困り顔のリノアさん。
「一緒にお風呂したい」ヴァニシアの一点を見つめ続けるアイネちゃん。
「やっちゃったら責任とらないと、ご主人さま」こっちも見ずに簡易邸内確認魔導具をいじくってるアリシエラ、
「ヴァニシアさんは青い点滅光点です」仕様は残念だが仕事は早い。
セシエリアさんが挙手。
「経緯はどうあれ、彼女が軍に囲まれていた私たちの窮地を救ってくれたのは事実です」
「大変な事情がおありのようですが、ここで見捨ててしまってはメイドが廃ります」
うなずく一同、確かに全員メイド服だ。
「騒動が収まるまでは居ても良いそうだ」ヴァニシアに告げる。
「邸内にいるのが迷惑なら庭で暮らすぞ、野外生活は得意だ」
野生生活してるヴァニシアを思い出して頭を抱える俺。
みんなの自己紹介後、部屋決め。
俺の近くにいたがるヴァニシアをなだめて、アリシエラが元居た部屋に決定。
その夜、ヴァニシアの部屋へ。
もじもじとベッドに腰掛けるヴァニシアに「そういうのじゃないから」と、釘を刺す。
「みんなの前では話しづらいことを聞こうと思う」
真面目な顔のヴァニシアは悔しいが凛々しい。
まずは王家のこと。
あの首ひとつで継承権問題は解決したのか。
「私の立ち位置、今の状況、全て話す」
王は側室集めと後宮通いに夢中な愚鈍な男、継承権に口出しする力も才も無い
もう王とも父とも呼びたくはない
王妃は政略結婚のことで頭がいっぱいだ
国の将来を思ってじゃない、判断基準はいかに自分に貢いでくれるかだ
娘をいかに高値で売り飛ばすかに心血を注いでいる
あんな奴隷商人を母とは思わん
ふたりの姉は上手くやったよ、ここより力のある国に嫁いで連絡を取り合っている
隙を見せたら連合軍で攻めてくるだろうな
私に一刻も早く国を出てこっちへ来いと誘ってくれる
冒険者になれたら会いに行こうと思っていたんだが
上の兄は優秀だったが突然病死した
証拠はないが宰相たちの手の者の仕業だと思う
優秀すぎて手に負えなくなって邪魔になったということだろう
優しい人だったが情よりも聡さが目立つ人だった
目の前の泣いている子どもを抱きしめもせずに、泣いている理由を延々と問いただす姿を覚えている
兄の死は悼むがひとりで国の根本を変えるにはいろいろと足りないものがあったのだろう
下の兄は今頃首だけ王都だな、部隊長が体を捨てて行ったことで察してくれ
上の兄が死んで欲が出たのだろうな
宰相を中心とした貴族連中が実質的に国を動かしている
私が下の兄を討って継承権を放棄したことをとても喜んでいるだろう
私より下の子たちは側室の子だから継承権は無いのだが、慣例を無理やり変えて担ぎ出すはずだ
無理に逆らわなければ下の子たちは安全だろうし、嫌なら私のように逃げても良いと思う
人身御供がいなくなったら宰相たちも自分の子を売れば良いんだ
私がここに居て迷惑をかけることはもう無いはずだが風向きが変わればどう転ぶか分からないのも政治だからな、絶対に大丈夫とは確約できん
「うちの家族たちはヴァニシアを信用している。 ここで一緒に暮らせることを喜んでいるし、あとはヴァニシアの覚悟次第だ」
「家族か、ずっと欲しかった自分の居場所とまともな家族が一度に手に入ったのだな」
「覚悟もあるぞ、家族を増やしたいなら今すぐにでも協力する」
「今まさにベッドの上にふたりきりだ」
「頼むからアイネの前ではその手の話はやめてくれ」
「大丈夫、私は男女の間柄には鈍感かもしれんが、ちゃんと順番は待つ」
「リノアさん、セシエリアさん、アイネ君、アリシエラさんの順番で私は一番最後だな」
「冗談でもアイネを入れるな」
「最後にひとつだけ、私は一度死んでロイ殿から新しい命を与えられたと思っている」
「死ねと言われればいつでも命を投げ出す、ここから出て行けというならそれも従う」
「ただし、出て行く時は必ず子種を貰っていくぞ」
「もう絶対にひとりきりは嫌だ」
だんだん視線が熱っぽくなってきたので身の危険を感じて退散しようとする。
「私はもうロイ殿から女として見てもらえないのだろうか」と自分の身体に目をやるヴァニシア。
「女にしか見えないから逃げるんだよ」と部屋を出た。
大丈夫、あの時の野生の匂いを思い出せばあんな肉感女騎士とふたりきりでも耐えることが出来ると、自分に言い聞かせながら執務室へと向かった。