29 王女
転移先は朽ちた神殿の側。
とりあえず転移は成功した模様。
もしかしたらみんなを巻き込んで転移されるかもと危惧していたが、ひとりでいることに安心したようながっかりしたような。
神殿は深い森に囲まれている。
朽ちた建物を調べていると、人の生活跡を発見。
煌びやかな鎧一式、衣服の上には首飾り、姫騎士と呼ばれた王女の持ち物で間違いなさそう。
建物の陰から異臭、比較的新しい生活跡つまりトイレ。
誰かが居るのは間違いない。
森の方からかすかに水音が聞こえる。
気配隠蔽スキルで警戒しながら進む。
森の奥に小さな滝と小川。
川辺の大量の足跡を調べていると、突然頭上から衝撃。
何者かが背中にしがみついて暴れている。
仰向けに倒れ込んで背中の何かを何度か地面に叩きつけると、ようやく大人しくなった。
立ち上がって見下ろすと、泥と木の葉を裸の身にまとうすごく汚れた女。
あまりにも臭いので、気を失っている女を抱え上げて小川に放り込んだ。
無抵抗の女のぼさぼさの髪や泥まみれの胸、汚れた尻まで丁寧に洗い、収納から出した毛布でくるんで抱え上げ神殿に連れて行く。
地面に転がされていた女はやがて目を覚ました。
また暴れ出しそうなので、剣を突きつける。
裸に毛布一枚なことに気付いた女が突然叫ぶ。
「私の身体は好きに出来ても心まで自由に出来るとは思うなよ」
剣の鞘で頭を叩いたらきょとんとした顔で大人しくなった。
ここに来た経緯を説明すると、立ち上がって仁王立ちで語り出した。
我が名はヴァニシア、姓は捨てる予定だ。
攻略中のダンジョンで仲間の魔法使いから怪しげな魔法で転移させられた
仲間ふたりと仲違いしたがレンジャーの男のおかげでなんとかこの神殿で暮らせていた
他のふたりに襲われて、生き残ったのは私だけだ
その後は生き残ることに必死で身なりを整えるどころでは無かった
先程はお見苦しいものをお見せしたこと、申し訳なく思う
救援感謝すると言った王女は話に夢中で毛布が落ちていることに気付いていない。
俺の視線がご立派な胸に釘付けなことに気付いてしゃがみ込んだ。
「私の身体は」とまた叫びだしたので、もう一度鞘で頭を叩く。
「王女の頭をぽこぽこ叩くな」と恨めしそうに睨んできたので、
「王女を辞めたいのか続けたいのかどっちなんだ」と問うと、大人しくなった。
ずっとあんたを守っていたレンジャーは俺の相棒だった
手を貸してくれた姉姫たちとの約束もある
ここを出るなら早く支度しろ
姫騎士の鎧を装備しようとする王女に、こっちにしろと『収納』から出した軽装鎧を渡す。
王女が着替え中に、辺りにある物を『収納』に仕舞う。
着替え終わった王女から相棒の墓の場所を聞く。
盛った土に木の棒を立てただけの墓、ぶら下げられていた冒険者タグから相棒の墓と確認。
しばし祈ってから三つのタグを回収。
後ろにいた王女が「済まない」と声を掛けてきた。
「あいつは冒険者としての矜持を通しただけだ。 あんたもやるべきことをやれ」
「今やりたいことはひとつだけだ」腰の剣に触れる王女。




