27ex ロイ
子供の頃からひとりだった。
直接攻撃系スキルを持っている子たちは武術の鍛錬に精を出し、攻撃魔法が得意な子たちは派手な魔法を見せびらかすのに夢中だった。
そういうのを持っていなかった俺は唯一得意だった『収納』魔法の腕を、他の子から離れた場所でひとり黙々と磨いた。
『収納』口の大きさやかたちを変えられることに気付くと自在に操れるよう夢中で特訓した。
大きく広げた『収納』口に偶然虫が飛び込んだことで、生き物が『収納』出来ることにも気付いた。
『収納』の中身を盗ろうとしたいじめっ子の手が入った『収納』口を閉じてしまったことでこの魔法の危険性と可能性を思い知らされた。
『収納』口の縁の工夫で、押さえ込むようにして安全に物をつかむこともできるようになった。
細く形成した『収納』口を高速で開け閉めする技術で切れ味の良い武器も手に入れた。
『収納』口を離れた場所に出現させる訓練、その最中に身体の一部だけを遠くに出現させる技も編みだした。
日常系スキルしかなくて冒険者になる夢を諦めていた子どもは、自身のスキルを磨くことで自信を取り戻していって再び冒険者を目指すようになった。
ギルドで冒険者登録したばかりの頃は、『収納』野郎と侮ってきた連中を返り討ちにして悦にいっていたこともある。
俺の能力を馬鹿にしないでパーティーを組んでくれたクリスト、最初はひと悶着あったがちゃんと実力を認めてくれたジエル、三人で組んだパーティーはひねくれたソロ冒険者だった俺に仲間で冒険することの楽しさと緊張感を存分に教えてくれた。
ジエルがやたら馬鹿でかい重戦士からプロポーズされた時は三人で顔を見合わせながら腹を抱えて笑った。
私の魔法を三発受けて立っていられたら結婚でも何でもしてやるよとジエルが煽った時は、相手の大男が気の毒になったものだ。
一発目は魔法の矢、速度よりも威力重視の矢を男は自慢の重装鎧ではなくわざと額で受けてジエルのやる気を誘った。
二発目は竜巻の渦、ただの暴風ではなくジエル特製の魔法の刃混じりの烈風の渦を男は余裕で受けきってジエルを本気にさせた。
三発目は雷撃の槌、ワイバーンを墜とした雷魔法をはるかに上回る威力のそれは充分な溜めと裂帛の気合いとともに放たれて男の全身を金色に染めた。
仁王立ちの男が閉じていた目を開けてひざまずかずにジエルに指輪を渡した時、パーティーでの冒険から解放されることを悟り何故かほっとしたことを覚えている。
ジエルはすぐに旦那の職場の冒険者ギルドに引き抜かれた。
副責任者になったジエルと顔を合わせ辛くて街を離れる決意をした俺は、訳あって長期間街から離れられないというクリストと別れソロ冒険者に戻ってしばらく各地を放浪した。
何かから逃げるように転々と居場所を変えるお調子者の根無し草は新しい仲間を見つけることも出来ずに結局街に戻ってくる。
変わらない態度で接してくれたふたりだが、再び三人パーティーを組むことは無いと全員分かっていた。
中途半端なソロ冒険者として老後の資金ともやもやした想いとを溜め込んでいた俺に、相棒が死んだという連絡が届く。




