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27 真実


 事態が動いた。


 いつものようにふらっとやって来たジエルが、執務室で人払いをして俺だけに話したのは相棒が命を落とした依頼の件。


 とあるダンジョンのボスに挑んだ王女パーティーの全滅は真実ではないということ。



 第三王女が第二王子に宣言した。


 私がダンジョンボスを攻略できる実力者であることを証明出来たら、何もかも捨てて自由な冒険者になりたい。


 王位継承権どころか王族の地位もいらない。


 第二王子は検討を祈ると笑いながら王女を送り出したそうだ。



 王女が選んだパーティーの四人

 姫騎士と呼ばれる王女ヴァニシア

 元は王女の直属護衛騎士、今は名うての冒険者の戦士シオン

 賢者に一番近いと噂されていた魔法使いネネシア

 組んだパーティーは必ず生還させるレンジャーのクリスト、俺の相棒



 ダンジョンボスに挑んだ王女のパーティーは健闘及ばず全滅した、というのが俺が聞いた話だったが正直信じられなかった。


 俺の相棒のクリストがパーティーにいて全滅はありえない。


 一部の無謀なバカどもからへたれレンジャーと呼ばれていたくらいに慎重な男なのだ。


 あいつはパーティーに犠牲を出すくらいなら絶対に撤退して任務失敗を選ぶ。


 もちろんジエルもそのことを知っていたからこそ真相究明の努力を続けていたのだろう。



 内密で地道な調査の末、ジエルは目撃者と接触出来た。


 当時ダンジョン内には王女パーティーの近くに三人の男がいた。


 王女直属護衛隊から選抜された三人は依頼正否確認の名目で遠巻きに王女を護衛していた。


 当の王女からは疎まれていたが、パーティーの戦闘には決して手出しせずに付かず離れず見守っていた。


 ボス戦前の最後の休憩、女たちは席を外し残っていたパーティーの男たちに檄を飛ばそうと護衛隊が近寄った瞬間、彼らは目の前で光と共に転移してしまったのだそうだ。


 護衛隊は王女たちの行方をダンジョン中捜索したがなにも見つけられず一度ダンジョンを出て応援をと出口を目指し、外に出たところを第二王子派の部隊に捕まった。


 真実を隠蔽するために護衛隊の三人は幽閉されたが、ふたりを犠牲に脱出できた最後のひとりがようやくジエルの元へ辿り着けた。



 ジエルが見た男は度重なる尋問、いや拷問で見るも無惨な状態だったそうだ。


 尋問官や直接姿を見せた第二王子の話など、全てを語り終えた男は絞り出すような声で姫様を頼むと告げて息を引き取った。



 尋問官はしきりに王女の首飾りが落ちて無かったかを聞いてきたそうだ。


 王家の守り石として全ての王族が身に付けている首飾りである。


 第二王子は転移光と口を滑らせたそうだ。


 転移装置が作動する時の光のことだろう。


 護衛隊の三人は誰も光のことを洩らさずに行方がわからなくなったとしか言っていないことから、王子が何らかの手段で王女一行を転移させたのは間違いない。



 王都にいる夫の知り合いからは詳しい情報を得られなかったジエルは、国外に助力を求めた。


 第三王女のふたりの姉、他国に嫁がされていた元第一・第二王女たちである。


 妹を溺愛していた姉たちならば必ず救いの手を差し伸べてくれるだろうと事の経緯を記した手紙を速達鳥に託して返事を待った。


 二通の返事は小さな荷物と共に飛んで来た。


 まさに王女の行方を追う手がかりとして。


 送られてきた首飾りこと王家の守り石はいざという時のための王族脱出用魔導具だそうだ。


 特別な転移魔法を石に向けて放つと、持ち主の王族が認めている者たちと一緒に特定の避難所に転移される。


 特別な転移魔法についての詳細も同封するので一刻も早く妹の元へ向かって欲しい。


 ふたりの姉たちから届いたほぼ同じ内容の手紙は、最後にほぼ同じ内容の言葉で締められていた。


『もし妹が転移先で命を落としていたならば、私たちは必ずや憎き第二王子を討つべく我が夫の軍を動かして同盟軍として攻め込むでしょう』


 追伸で戦争回避の手段も書かれてあった。


『転移先で見つけた王女の私物とこの手紙を宰相に見せることができれば戦争前に第二王子を失脚させることができるでしょう。 同盟軍派兵の前に事が成されることを望みます』



 姉姫たちから手紙と共に送られてきたふたつの首飾り。


 手紙によれば転移先は二か所あるとのこと。


 今まさに現役の避難所と今は廃棄された古い避難所。


 新しい転移先が作られたのは姉姫たちの結婚後。


 彼女たちは古い方の情報しか知らないし、当然現役避難所の情報は簡単には手に入らない。


 俺が古い方を捜索中に何とかして新しい方の情報を調べておく。



 一気に話し終えたジエルに、いつ頃転移出来そうか聞いてみた。


「あんたの準備が出来次第いつでも」


 仕事が早くて何より、どうせ行くのは俺だと思っていたし。


「あんたじゃなきゃダメな理由が有るんだってば」


 例の避難所は強力な結界で守られているらしい。


 その手の結界は侵入防止のために張るものなので外側からの侵入にはとても強い。


 なにせ王家の特殊な転移石以外の方法では中に転移不可なくらいだ。


 俺の『収納』魔法は空間をいじる能力がとても高く強力な結界とやらも突破できるだろう、ただし内側からならば。


 俺が王家の首飾りで中に飛んで姫さまの私物を見つけた後、内側から『収納』魔法で結界破りして脱出、と。


 なるほど、もし今も飛ばされた王女パーティーの誰かが生き残っているとしても結界に阻まれて出られないわけだ。


 避難所が稼働状態なら脱出手段が用意されていたのだろうが、廃棄施設だし。


 防御に凝りすぎて厄介なことになってるなんて、まるでどこかの屋敷のようだ。



 旧避難所の場所はどこか聞いてみる。


 ジエルが地図を指差した場所に少し驚いた。


 結構この街と近い。


 馬を飛ばせば四日くらい。


 それほど大きな森でもないのにどうして避難所は見つからなかったのだろう。


「大規模隠蔽魔法ががっつり掛かってるんだと」


 さすが王家、至れり尽くせりだな。


 相棒の弔い合戦のつもりだったが、あいつのことだから結界から出られなくて王女とよろしくやってるのかもしれない。


 森の周辺に転移魔法持ちを待機させておいて結界破りの後に一気に転移で戻るのはと聞くと、第二王子が王女暗殺犯討伐の名目で部隊を引き連れて王都を出ちまったせいでこっちも迂闊に動けなくなっちまった、と。


 目立つ行動をとると第二王子さまが転移で飛んできて無礼打ちですか。


 アレが城の外に出てきたのはマズかったな、転移・無礼討ちのコンボは手に負えない。


 頭だけじゃなくて腰も軽い王子さまだったのね。


 屋敷の転移阻害結界に感謝だな。



 上手くいったら、宰相に話を通せるようにしておいてくれ。


「うちの旦那は王都にコネが多いからそっちは任せろ」

「それよりも出発前にヨメたちに話を通しておけよ、王族にケンカ売るんだからな」


 誰がヨメだ、ハーレムじゃないぞ。


 さすが人妻爛れた性活を、と言いかけたところでグーで殴られた。


 転移でも何でもやるから明日の朝また来い、とジエルを追い出した。



 みんなにどこまで話そうか、気が重い。


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