24 お茶
ひとしきり暴れたアイネちゃんはセシエリアさんにお礼を言って手ぶくろを返すとリノアさんに抱きついて大人しくなった。
リノアさんは身体をゆっくりと揺らしながらアイネちゃんを撫でている。
アリシエラは戻ってきた手ぶくろを物欲しそうに見つめていたが、セシエリアさんの目線に気付いて目を逸らした。
場が落ち着いたのでセシエリアさんに話しかけてみる。
「どうして俺の勝ちなんですか」
「私の心、メイドとしての魂が敗北を認めたからです」
よく分からないが、たぶん勝ったのは俺じゃない。
「最後、手刀での抜き手の後で固まっていたのはなぜですか」
「娘さんと目があった途端動けなくなりました。 理由は分かりません」
どうもセシエリアさんにも予測不能な何かが起きたようだ。
『参りました』は、やはりアイネちゃんへの言葉なのかも。
「メイドギルドのトップがここに来ても良いのですか」
「メイドの長だからこそ、自分の在るべき場所は自分で決めます」
「光栄です」
これからのことを話し合ってみる。
「いつから始められますか」
「心情的には敗北した時からですが、雇用契約書があるならサインした時からです」
「いろいろ学ばせてもらえそうで楽しみです、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「とりあえず下の中広間でお茶にしましょうか」
階段を降ろうとするリノアさんにまた抱き上げましょうかと声を掛けたら、アイネちゃんが指で突いてきた。
危ないから階段の近くでは止めてね。
中広間に到着してすぐに女性陣は厨房へと向かっていった。
少し緊張した面持ちのリノアさんがセシエリアさんを案内する。
アイネちゃんとアリシエラが手を繋いで後を追いかける。
アイネちゃんはセシエリアさんの背中から目を離さない。
アリシエラは師匠の実力はよく知ってるぞと言わんばかりの余裕の表情。
出会いはちょっとアレだけど誠実そうな人で良かったと考えていたら、お茶の準備を完了させた女性陣がもう戻ってきた。
厨房から出てきた女性陣の様子には、あの短い時間で明らかな変化あり。
リノアさんはセシエリアさんを尊敬の面持ちで見つめている。
アイネちゃんがセシエリアさんから目を離さないようにしているのは、警戒じゃなくてこれも尊敬のまなざしだ。
アリシエラの余裕の表情はあきらめの面持ちに変わっていた。
自分はとっくに師匠の凄さを知っていたという余裕が想定以上の実力差を目の当たりにして打ち砕かれたということだろう。
飲んで納得。
同じ茶葉でも淹れる人によってここまで差が出るとは思わなかった。
なごやかに自己紹介しているみんなが、良い方向に影響し合えば良いなと思う。