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22 セシエリア


 あれからしばらく経つ。


 連絡は来ないが、ジエルが待ってろと言ったら大人しく待ってるのが一番なのを知っているので、ひたすら待つ。


 リノアさんとアイネちゃんが庭で菜園や花壇の手入れをしているところを手伝ったり。


 アリシエラが受けた教育内容をまとめたメモ、セシエリアさん直伝の『メイドの心得』を読んだアイネちゃんのメイド力がぐんぐん向上したり。


 ジエルがいつ来るか分からないので長期間屋敷から離れられない俺は、短期の依頼をちょこちょここなして貯蓄を増やしていた。



 そんなある日のお昼過ぎ。


 執務室にてすっかりメイド服姿が板についたリノアさんと、アイネちゃんの教育方針について語り合っていると突然指輪が激しく振動した。


 振動の強弱は脅威度によって決定するというアリシエラとの取り決めから緊急事態だと判断した俺は、リノアさんに庭にいるアイネちゃんを急いで連れてくるよう命じて椅子ダイブを決行。


 管理室ではアリシエラがパニック中。


「来ましたよご主人さま、師匠が」


 アリシエラを落ち着かせて、全員の居場所を確認。


 庭にいる黄の光点に向かって急ぐ緑の光点。


 表門の前で激しく点滅する赤い光点って、赤い点滅?


「脅威度最高のセシエリア師匠は赤点滅です」


 そういうことはあらかじめ教えておいてほしいとたしなめてから表門へと向かう。


 っていうか、ジエルじゃなくて本人降臨ですか。



 この屋敷は外から覗かれないように高い塀で囲われている。


 大切なリノアさんやアイネちゃんを悪い虫から守ってくれる物理障壁である。


 アリシエラが大切じゃないわけでは無いが、その件は現在ポイント制による審査中だ。


 とにかく門を開けるまでは、目視で訪問者の顔は見えない。



 セシエリアさんはいわゆるクール系の眼鏡美人さんだった。


 すらりとした姿勢の良さと細身の眼鏡は相性抜群である。


 挨拶を交わして屋敷へと案内する。



 玄関で女性陣がお出迎え。


 すでに所作の美しさはアリシエラよりリノアさんやアイネちゃんが上である。


 アリシエラをちらりと見たセシエリアさんの眼鏡が光ったような気がした。


 なぜか着ているコートを脱がなかった。



 執務室へ案内。


 小さなテーブル越しに俺とセシエリアさんが向かい合い三人が左右に座ったが、アリシエラが着席する姿にやはりセシエリアさんの眼鏡が光った気がした。


 やはりコートは脱がない。



 挨拶と自己紹介。


 ほとんど表情を変えないセシエリアさんだがリノアさんやアイネちゃんへ向ける表情は和らいで見える。


 アリシエラを見る時の表情には、さすがに気付いた。


 違和感を感じたのは言葉遣い。


 アリシエラの時に感じた妙な敬語などとはもちろん違う、そもそも敬語を使わないのだ。


 口調も内容も丁寧だが不自然なほどに敬語を使わない。


 以前アリシエラが口にしたメイドの矜持について考えてしまう。



 なごやかだが緊張感のあるやり取り。


 これからのことについてを話し合おうとしたら空気が変わった。


「誤解があるようですが、ジエルさんから連絡は」


 何も事前の連絡が無いことを伝えると、

「求められているのは屋敷の内面を整えるメイドと聞きました、終身雇用になるとも」

「差し出がましいようですが、生涯を捧げるに相応しいかどうか試させてください」


 もっともだと思い試験内容について聞きもせずに了承した。



 試験は一対一の手合わせだった。


 勝利条件すら明示されていないただの手合わせである。


 だだっ広い大広間で向かい合う俺とセシエリアさん、遠巻きに見守る三人。


 コートを脱いだセシエリアさんのカスタムメイド服は明らかに家事向きの物では無い。


 俺は普段鍛錬に使っている素振り用の短い木刀、セシエリアさんは素手?



「合図はそちらからで」とのことなので、

「行きます」と防御姿勢をとると、セシエリアさんはワンステップで間合いを詰めてきた。


 3m程に広げていた探知結界に彼女が触れた瞬間、違和感を感じて左斜め後ろへ跳ぶ。


 木刀を弾かれ身体が傾くほどの衝撃、体勢を立て直すまでの間に床に2m程の『収納』を展開して相手の足場を崩そうとした。


 倒れかかった俺の体を足場にして彼女が跳ね、アイネちゃんに向かって駆ける。


 アイネちゃんをかばうように抱きしめたリノアさんへ伸びる手刀は、間一髪で展開できた俺の遠隔『収納』結界に触れる寸前で止まった。


 リノアさんを守る『収納』結界を出すために床の『収納』に左手を突っ込んだせいで身動きできない俺は、右手の木刀をセシエリアさんの背中へ投擲。


 彼女が背後も見ずに払った木刀にはひも状に形成された『収納』結界が巻き付けてあり、それを操って追撃しようとした時、

不意にセシエリアさんが後ろに飛びのいて深々と頭を下げた。


「参りました」


 ゆっくりと左手を床から引き抜いて全ての結界と魔法を解除してからひっくり返った。



 俺の『収納』は精密に操ろうとすればするほど神経を使う。


 魔物や盗賊など残虐な末路を気に掛けなくて良い大雑把な戦いはさほどでも無い。


 対人戦、特に手合わせのような流血禁止バトルでは神経のすり減り具合が尋常ではなくなる。


 要するに持久力に難があるのでこの短い手合わせでへとへとだ。



 仰向けで首だけ動かしてセシエリアさんを見たらお辞儀したまま動かないので、寝たままで「お疲れさまでした」と声をかけた。


 試合中は微動だにしなかったアリシエラが、リノアさんたちの元へ駆けつける。


 ぺたんと尻もちをついて放心状態のリノアさん

 キッとセシエリアさんを睨んでから母親に抱きつくアイネちゃん

 リノアさんの背中をさすっているアリシエラ

 三人を静かに見つめているセシエリアさん



 ようやく動けるようになったのでみんなのところに向かった。



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