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20 メイド隊


 母娘で住む部屋を、厨房のすぐ近くにしたいリノアさんとアリシエラの部屋のすぐ側にしたいアイネちゃんとの熱いせめぎ合いは、リノアさんの勝利で幕を閉じた。


 一階の大食堂こと中広間に面したその部屋は親子ふたりが住むのにちょうど良い広さ、階段を登るとすぐに俺の部屋でアリシエラの部屋にもそこそこ近いうえに大浴場や洗濯場の側だ。


 リノアさんたちの部屋に、あの村の家から『収納』で運んできた家具や荷物を置く。


 荷造りを解くのを手伝おうかと聞いたけど少しだけ顔を赤らめたリノアさんから丁重にお断りされて、空気を読めなかった自分に後から気付いた。


 空気を読むうんぬんで人のことは言えないなと、貯まっていたアリシエラのおしおきポイントを減らしてあげた。



 地下にたくさん空き部屋があったので、『収納』に溜まっていたすぐには必要としないものをまとめて出して置いた。


 リノアさんの家から持ってきた物もいくつかあったので後で伝えようと思う。


 一階に戻ると表門に来客ありとの知らせが指輪に届いた。


 アリシエラから渡された指輪は魔導具で、来客のお知らせ、屋敷内外の異常の警告、個人的なアリシエラからの連絡などを振動と音と声とで知らせてくれる。


 便利な物だが、指輪をはめた指を見た時のリノアさんの驚きの表情は忘れられない。



 来客はジエルだった。


 以前ジエルに屋敷を案内されたときは主要機能が休止された状態だったそうで、ちゃんとロック機能が作動している今は家人が招き入れないと門もくぐれない。


 アリシエラの案内で屋敷に入ってきたジエルが中広間に来た。


 テーブルについたジエル。


 お茶を出してくれたリノアさんに丁寧に挨拶してから、俺を見てによによ笑っている。


 っていうかリノアさん、何でメイド服?


「なるほどねぇ」と、察してやった感にあふれる生暖かいまなざしを向けてくるジエル。


 いや、メイド服は強制じゃないです。


「いらっしゃいませ」とリノアさんの後ろから飛び出してきたアイネちゃん、何でメイド服?


「うわぁ」と、察してしまったぜ感にあふれる軽蔑のまなざしを向けてくるジエル。


 違う、メイド服は強制じゃないんだ。


「アイネちゃん、こういうときはいらっしゃいませじゃなくてこんにちわですよ」と先輩メイド風を吹かせるアリシエラ、お前がメイド服部隊の主犯だな。


「アリシエラ、こんなメイド大好きダメご主人の命令は聞かなくても良いぜ」とジエルが言った瞬間、アリシエラへのおしおきポイントが限界突破した。


 この怒りはコイツに向けることにする。


「アリシエラ、もう一着メイド服を頼む」


「うわぁ、お前まで着るのかよ」


「違うぞ、今朝からこの屋敷内では全ての女性はメイド服着用が義務となったのだ」


「ちっちゃい子の前で変態丸出しすんじゃねえよ」


「幼い子の前で汚い言葉を使うんじゃない、早くメイド服に着替えて優秀なメイドのアリシエラさまから品位ある振る舞いというものを学ぶが良い」


「ほう」目が座るジエル。


 ジエルは本気になると口数が少なくなる。


 俺も座ったまま身構える。


 笑みが消えたリノアさんがアイネちゃんを抱き寄せる。


 アイネちゃんはわくわくしている。


 それはこれから何が起こるのかが分かっていて期待しているわくわく。


 アリシエラもわくわくしている。


 こっちは何が何だか分からないけど楽しそうというわくわく。


 本人のスペックによってわくわくにもこのような違いが生じるわけで、とりあえずアリシエラはさっきリセットされたばかりのおしおきポイントを追加な。



「分かった」と言って席を立ったジエルがアリシエラを引っ張って部屋を出て行く。


 安心した様子のリノアさんとがっかりした様子のアイネちゃん。


 ジエル撤退の理由は想像がつく。


 実はジエルは子どもが苦手だ。


 自身の言葉遣いが汚いことを気にしていて子どもが真似するのをとても嫌がる。


 子どもが近くに寄って来るのを避けていて、つまりは子どもが嫌いではなく子どもが苦手なのだ。


 リノアさんにその説明をすると「後でお礼を言わないと」と恐縮された。


 アイネちゃんは「ジエルお姉さん、かっこ良いよね」と憧れのまなざしをジエルが去っていった方へ向けている。


 わんぱくでも良い、暴れん坊に育たないで欲しい。


 突然アイネちゃんが向けていたまなざしがぎらりと輝いた。


 リノアさんは口をぽかんと開けてそちらを凝視している。


 俺は嫌々そちらの方向へと振り向いた。



 部屋の入り口にメイド姿のジエルが仁王立ちしている。


 その後ろには、やり切った感にご満悦のアリシエラがこちらも仁王立ちだ。


「お望み通り着てやったぜ」ビキニメイド(人妻)は顔が真っ赤だ。


 長らくパーティーを共にしたジエルが初めて見せる恥じらいの表情と鍛え上げられた見事な腹筋から目が離せない。


 俺の目線に気付いたアリシエラが嬉しそうに語りだした。


「ご主人さまお目が高いです、やっぱりジエルさんの一番の注目ポイントってそこですよね」


 無言でジエルの方へ向かい『収納』からローブを出してふわりとかけて、足早に執務室へと向かう。



 有能なメイドの増員が急務だとジエルに理解してもらえたことが今日一番の収穫だと思う。


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