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02 母娘


 母親の名はリノアさん。


 娘の名はアイネちゃん。



 リノアさんが世話になった村人への挨拶回りを済ませてくるのをテントで待つ。


 家に泊まるよう懸命にお願いするリノアさんの手を振り解きテント設営の準備をする俺の紳士っぷりをあざ笑うかの如く設営の邪魔をするアイネちゃん。


 棒でつついてるのはテントの貼り具合の確認なのか生地の強度チェックなのか。


 戻ってきたリノアさんに力仕事が必要なら声を掛けてくださいと言うと、にこにこしながら手招きしてきた。


 腰にアイネちゃんパンチの衝撃を感じながら家に入ると、大きい物を選ぶのを手伝ってくださいとアイネちゃんの鼻をつまみながら微笑むリノアさん。


 先ほどから暴力的行為を繰り返す娘へのおしおきとのこと。


 この家のしつけでは悪いことをした子は鼻をつままれるようだ。


 人族ではしつけで耳をつまむことが多いが、一部の長命種はその長い耳を触られるのをとても嫌がるらしい(主に性的な意味で)


 魔族も耳が弱いのであろうか。



 台所の調理道具たちとの思い出を振り返るように見つめているリノアさん。


 気持ちは分からなくないが、こののんびりペースだと俺の滞在費が底をつく。


 出発日を先延ばししますかとやんわりした催促をするとリノアさんは意を決したようにてきぱきと動き出した。


 荷物は俺の『収納』魔法で運ぶから量の心配はしないで仕分けだけお願いしますと言ってある。


 大きな荷物が大きく口を開けた『収納』口に仕舞い込まれるのを大きな目を見開いて見ているアイネちゃん。


「なにそれ、びっくり」


「秘密の魔法だから見せるのはアイネちゃんとおかあさんだけです。他のみんなには内緒にね」



 大容量の『収納』スキル持ちであることが知れ渡るとさまざまな厄介ごとに巻き込まれる。


 これを目当てにした指名依頼が激増したり密輸や税金逃れの片棒を担がされたり、トラブルに巻き込まれるのが嫌なら秘密にしておくべきスキルだ。


 それでも、自分を信じて魔族であることを打ち明けてくれたリノアさんに隠し事はしたくなかった。


 家の中をあちこち駆け回っている小さな暴れん坊が秘密を守れるのかについては保留とする。


 リノアさんからアイネちゃんの鼻をつまむ許可を得られる日は来るのだろうか。



 荷物整理が一段落して、リノアさん手作りの夕食をご馳走になる。


 旅する冒険者御用達の干し肉・硬パン・安ワインでは無いまともな食事を摂れるのは心底ありがたい。


 もちろん味の方もいつものお手軽三点セットとは比べてはいけない逸品であった。


 丁重に礼を述べてテントに向かおうとすると、湯浴みしませんかとのお誘いを受けた。


 お湯で身体を拭くのは本来旅先ではなかなか味わえない贅沢なのだが、今日は早めに寝ますと言ってテントに入った。



 実は自慢の日常系スキルの中に『清浄』魔法というものがある。


 ひと稼ぎして血まみれの装備をきれいにしたり食後の食器の汚れを落としたりダンジョンに潜りっぱなしの体の匂いを消したり、パーティーメンバーの女性たちからは大変好評だったスキルではあるがさすがにこれを目当てでパーティー常駐を望まれたことは無い。


 基本的にはパーティーメンバー募集の優先順位は強さと知識と人望なのだ。


 俺は三つとも持ってない。



 テント内で上着を脱いで『清浄』魔法を掛けていると、入り口の隙間から顔を覗かせるアイネちゃんと目が合った。


 さすがに無遠慮に覗かれるのは心外なので、意を決してアイネちゃんの鼻に手を伸ばす。


 慌てて逃げていくアイネちゃん。



 翌朝、親子二人が仲良く頭を下げる光景が見ることができて、朝からご馳走さまな気分。


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