18 監視中
リノアさんはご機嫌である。
宿やレストランで出された料理の美味さから料理人魂を存分に刺激されたリノアさんは、目新しい調理用魔道具がふんだんに使われた最新設備の厨房で思う存分腕を振るった証しの料理をみんなが美味しそうに食べていることにやりがいを刺激されまくりである。
アイネちゃんはご機嫌である。
辺境の村での母親とのひそやかなふたり暮らし、怖い目にあった旅、宿での数日間、ずっと自由を制限されていたアイネちゃんの前に現れたびっくり箱のような新居での、生き生きとした様子を取り戻した母親やいろんな意味でいじりがいのあるネコミミおねえさんとの新しい生活に好奇心を刺激されまくりである。
アリシエラさんはご機嫌である。
祖父の知識と技術の結晶ともいえる屋敷を受け継ぎ、唯一の継承者として施設の維持管理をしながら力を存分に発揮させてくれる主人を待ち続けて雌伏する日々に突然現れた素敵なご主人さまとの新しい生活にメイド職人魂を刺激されまくりである。
屋敷の住人としての登録を済ませた女性陣はアリシエラさんご自慢の大浴場を満喫中。
俺は今日は地下の管理室で夜を過ごす予定だ。
管理室の床に寝床の準備を済ませて、設備を確認中である。
可動式細密描写投影魔導具に映し出される屋敷の全体図の中で揺れている四つの光点は、それぞれが登録された住人の現在地となる。
俺は点滅する白、リノアさんは緑、アイネちゃんは黄、アリシエラさんは白。
もし未登録者がいれば赤い光点で表示されるそうだ。
一階の大浴場で三つの光点が密集しているのは三人で洗いっこでもしているのだろうか。
離れた場所の映像・音声を監視できる装置を操作すれば三人の入浴姿を覗くこともできる。
記録を保存しておけば後から何度でも見ることができるらしい。
この屋敷の数ある設備の中で最も興味を惹くが、同時に最も悪用してはいけないもののような気がする。
突然移動を始めた黄色の光点を緑の光点が追いかける。
裸で駆け出したアイネちゃんを慌てて追いかけるリノアさん、ということなのだろうが今リノアさんがどんな格好なのかがとても気になる。
たぶん管理室を目指していたであろう黄色の光点は、すごい速さで近づいてきた白い光点と重なって止まった。
ようやく追いついた緑の光点と共に、三つの光点が大浴場の方向へと移動していく。
監視設備の優秀さがよく分かる出来事であった。
屋敷を囲む塀の外、屋敷周辺の道をときどき赤い光点が通り過ぎていく。
塀に備え付けられている監視魔導具で屋敷の外側でもある程度の範囲なら監視可能だ。
不自然に長時間止まっている光点は今のところ見当たらない。
あまり変化がない表示を見てたら眠気が押し寄せてきたので抵抗せずに目を閉じる。
赤い光点が侵入してきたら大音量の警報が鳴るそうなので目覚ましになると思う。
アイネちゃんにポーチを買ってあげようとしていたことを思い出したが、忘れていたことを悔やむ間も無く眠りに落ちた。