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17 管理室


 どうもこの屋敷に来てから自分のダメさ加減が加速しているような気がする。


 宿屋出発時の覚悟を思い出して優先順位を違えないようにしないと危ない。


 今の優先順位一位は守りたい人たちを守るために全力を尽くすこと。


 そのためにこの屋敷に来たわけで。


 必要なことは屋敷の防衛能力の把握とアリシエラさんの能力の見極め。


 悪い人では無いようだが、大事な人を守る時に力になってくれるかどうか。


 役に立つか立たないかで判断しているみたいで心苦しいが、要はアリシエラさんの覚悟が知りたいということ。



 先に厨房の場所と利用法をリノアさんたちへ伝えるようにアリシエラさんに頼んだのは、夕食の準備をリノアさんたちに任せてアリシエラさんから屋敷のことを教えてもらうため。


 お耳触りっこを見て緩んでた顔と異なる、覚悟を決めた顔の俺を見てアリシエラさんも察してくれたようだ。


『収納』から冒険者三点セットを出そうかとも考えたが、リノアさんたちにも俺の覚悟が伝わったようでちゃんと動いてくれている。



 まずは屋敷の防衛機能で出来ることを教えてくださいとお願いすると、地下の中央付近にある小部屋に案内された。


 管理室とアリシエラさんが呼ぶこの小部屋は屋敷の全機能を管理できる重要な場所なのだそうだ。


 遠視魔導具と集音魔導具を組み合わせた監視設備とその技術を応用した監視妨害機能、大規模結界を屋敷に張れる防護設備、庭の地中に設置された接近感知設備、邸内の水周りの水質管理設備、その他もろもろの、ある種病的とも言える防衛機能の数々に戦慄した。


「現在この屋敷は特級魔導士の職滅魔法の直撃と王都最強と噂される白雷騎士団の襲撃にも余裕で耐える防御力を常時発揮していると自負しております」


 継戦力はと聞くと、四人がひと月籠城可能な物資を備蓄しておりますとのこと。


「この屋敷の水は邸内の地下深くから汲み上げた井戸水を『清浄』魔導具できれいにしたものを使っておりますが、もし何らかの手段で妨害されたら残念ながら籠城可能日数の減少は避けられません」

「ただし、以上の概算にはご主人さまがお持ちの収納内の備蓄は加味されておりません」


 あの大きな魔素貯蔵施設もそれくらいの日数なら屋敷で使用される魔導具類を維持できるということだろうか。


「いえ、大気中の魔素を取り込んで貯蔵庫に送り込む設備が屋上に設置されていますので魔素量の心配はほぼ無用です」


 さらっと凄いことをおっしゃったけどそれは漏洩絶対禁止の極秘技術なのでは。


「はい、命の値段の上下に深く関わるような極秘情報になります。 ご主人さまと一蓮托生になれて嬉しいです」


 お耳がぴくぴくしているところを見るに、本気で喜んでいるようだ。


 設備絡みの防衛機能はアリシエラさんに一任すべきなのだろうが、それを決める前に本人のことをもっと知りたいのでいろいろ聞いてみる。



 アリシエラさんはこの屋敷の設計・建造の責任者の孫娘。


 責任者であるお爺さんからここの維持・管理に関する全てを叩き込まれたそうだが、それを知る者は少ない。


 粛清という単語が脳裏に浮かぶがアリシエラさん本人とは一番縁遠い言葉だと思う。


 ここまでの経緯は納得できなくも無い。


 天才爺さんが天才孫娘に自分の全てを託した、それだけのことである。


 ただし初対面から俺を悩ませる疑問、何でネコミミメイドなのだということだ。



 ネコミミの理由は分かりやすかった。


 母親が猫系獣人だそうだ。


 才覚を複数持つ者は多い。


 建築士と魔導具技師の二つの分野の才能を併せ持った天才娘がいても良いと思う。


 その天才娘の母親がたまたま猫系獣人だったというだけのことなのだろう。


 で、そんな彼女をメイドに仕立て上げようとしたヤツは誰だ、と。


 所作や実務能力問題は置いといて、彼女にはメイドとしての適性が決定的に欠けている。


 例えるなら、剣聖と呼ばれるほどの武人が方向音痴に気付かないままに戦闘馬車の御者をさせられているようなものだ。


 一緒にいるこちらの身にもなってもらいたい。



 答えはすぐに聞けた。


 お爺さんの言いつけだそうだ。


 屋敷を管理する上で住人の最新情報は重要だ。


 どうせ屋敷から離れられないなら、屋敷の管理も住人のお世話も全部やっちゃえ、と。


 理屈では分かるが良心が理解を拒む。


 もしじいさんが若かりし頃に屋敷が完成していたら自分で執事の仕事もこなしていたのだろうか。


 なんとなく可愛い孫のメイド服姿が見たかっただけでは、という気がする。



 アリシエラさんには防衛の仕事に集中してもらいたいので、邸内の実務を取り仕切る能力のある女性、つまりメイドさんの増員が急務である。



 リノアさんとアイネちゃんがメイド服姿で邸内をパタパタ駆け回っている姿が脳裏に浮かんでしまった。


 テンパってるアリシエラさんを見た優しいリノアさんがお手伝いさせてくださいと言ってメイド服に袖を通す可能性は非常に高いし、 アリシエラお姉さんのお手伝いすると言ってアイネちゃんがメイド服に袖を通す可能性もまた非常に高い。



 もちろんメイド服姿が嫌いなわけでは断じてない。


 知り合いから同居女性全員にメイド服を強要するアレなご主人さま扱いされるのは勘弁なだけだ。



 俺の精神の安定と、真っ当に暮らしてきた母娘の正常で清浄な生活のためにも、専業メイドの増員が急務であろう。


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