表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/41

14 商店街


 宿の玄関の脇で従業員たちと別れの挨拶をする。


 街に来てからこれ以上ない安全と快適さを提供してくれたことに心からの感謝を述べた。


 アイネちゃんが終始笑顔でいてくれたからか湿っぽくはならなかった。


 機会があればまた是非にと言われ、社交辞令ではない礼を述べて出発した。


 最後まで素晴らしい宿だったが、ひとつだけ難点があった。


 つい先ほど受け付けで伝言を頼んだ時のことである。


 街なかの離れた場所にいる人へ伝言がある場合、受け付けに頼めばメッセンジャーボーイと呼ばれる少年が伝言を伝えてきてくれるのだ。


 ギルドのジエルに屋敷への到着予定時刻を知らせたかったので伝言を頼んでみた。


 担当の少年は利発そうな子だったが、アイネちゃんを見て顔を赤らめたのを見逃す俺ではない。


 今朝から自分の反応が過剰すぎることは理解しているが、うちのアイネちゃんに色目を使うのは百年早いぞ少年。


 ちなみに長命種族に百年早いという煽り文句を使うと鼻で笑われるそうだ。



 商店街経由で屋敷へ、到着予定は夕方。


 隊列は盗賊を葬った時の必殺フォーメーション、つまり三人で手を繋いでのんびりと。


 まだ商店街の本通りではないので屋台や露店がちらほら見える程度だが、アイネちゃんは興味津々で辺りを見まわしている。


 リノアさんは街の様子よりも、楽しそうなアイネちゃんを見ることを楽しんでいる。


 つまり楽しそうなアイネちゃんを楽しそうに見ているリノアさんを楽しそうに俺が見ているのが今の状況である。


 もちろん周囲への警戒は怠らないが、役得というかご褒美というものは大事である。



 手繋ぎで気付いたことがある。


 アイネちゃんが何に興味を持ったのかが大変分かりやすいのだ。


 例を挙げれば、今アクセサリーのお店の前で歩くのがゆっくりになったとか露店のお菓子で足を止めたとか、釣り名人がわずかな竿先の動きを感じ取れるかのごとく繋いだ手の感触で分かるのだ。


 アイネちゃんが手を繋いでくれる年齢のうちは、この繋がっている感覚を楽しもうと思う。


 もちろんリノアさんの年齢にも何の不満も無いですし手を繋いでいただけたら光栄です。



 本通りに入るといよいよ人通りが多くなってきた。


 三人手を繋いで横並びというのが難しくなってきたので、意を決して提案してみた。


「アイネちゃん、おんぶして良い?」


 嬉しそうにうなずいてくれたので、しゃがんで背中を見せてどんとこいのポーズ。


 勢いよくぶつかってきたアイネちゃんを勢いよく背負い、勢いよく左手を伸ばして、リノアさんの右手をできるだけ自然に、そっと握る。


 作戦成功、新たなフォーメーションは攻撃力はそのままに即応性と瞬発力がややダウン、代わりに左手と背中の幸福感が大幅アップである。


 リノアさんのやや照れた表情で幸福感さらにアップ、アイネちゃんが首にまわした手がときどき締まりすぎなのは別な意味での幸福感アップと言えよう。



 先ほどアイネちゃんで感じた手繋ぎ理論を今度はリノアさんに応用してみる。


 お菓子屋やアクセサリー店では反応無し、洋服店や雑貨屋にはやや反応有り、レストランには強い反応有り、ってそういえばお昼がまだでした。


 遅くなったけどそろそろお昼にしましょうとリノアさんに声をかけてアイネちゃん無事着地後、リノアさんが反応したレストランへ。



 お昼時から外れた時間で店内の客はまばら、奥の窓際の席へと案内される。


 子どもさんでも残さず楽しめますよ、とのことで三人とも店員さんおすすめランチセットを注文。


 すぐ外の人混みの喧騒が嘘みたいな落ち着いた雰囲気を楽しんでいると料理到着。


 なるほどみんなで同じ料理を頼むと感想を比べ合う楽しさが追加されるんだ。


 独り者にはとても新鮮な体験である。


 おすましリノアさんは食事の所作まできれいだし、アイネちゃんがお母さんの真似っこをしている姿は微笑ましい。


 たぶんこのテーブルに注目している男たちは異物のおっさんが風景から消えれば百点満点だろうけど、お前らにふたりは渡さんという強い意志を見せつけながらの食事もまた楽しい。



 結構な時間を過ごして店を出るが、まだ日は高い。


「もっとお店を見てまわるのとすぐ新しいお家に行くのとどっちが良い」


アイネちゃんに委ねてみると、

「おうち」との、力強いお言葉。


 おんぶフォーメーションを再度遂行、今度はリノアさんの方から手を握ってくれたことに感激しながら屋敷へと向かう。



 手汗は気にしないことにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ