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13 覚悟


 朝、朝食を終えて出発の準備をする。


 アイネちゃんの本は全部俺の『収納』にお片付け。


 お気に入りの押し花のしおりは、手で触りすぎてしわしわになっている。


 本の間に挟むとしわしわじゃなくなるよとリノアさんが説得したが、はさむとお花がかわいそうという信念を頑なに曲げず、しおりのしわしわ感は増すばかりだ。


 手で持ってばかりいると街を散策中に落としてしまいそうなので、今日の買い物で小さなポーチでもプレゼントしようかと思う。



 リノアさんは掃除をしている。


 一度宿の人に掃除姿を見られてからは遠慮していたようだが、最終日の今日はここぞとばかりに楽しそうに掃除している。



 俺はただぼんやりとふたりを眺めているわけではなく、頭の中で今日の予定を練るのに大忙しだ。


 ふたりを街の商店街に連れて行くのは初めてだが、楽しんでもらいたい気持ち以上に騒動に巻き込まれて欲しくない思いが強い。


 この街は比較的治安が良いが、大通りの商店街の人混みは子連れの家族を悩ませるものがある。


 アイネちゃんの心配だけではなくもちろんリノアさんのもだ。


 もともとおしとやか美人のリノアさんは、街に来てからの薄化粧装備などで格段に美人度が上昇していて気品すら纏っている状態となっている。


 出自を考えれば当然ではあるが、衛兵隊副長のような不埒な輩に目を付けられないよう細心の注意を払って行動しなければならない。


 大事な女性だったら全力で守るべきだ。


 デートが楽しすぎて警戒を怠ったせいで大事な女性が被害に遭いましたなどと言う男がいたら加害者と同罪だと思う。


 決して今日の街歩きがデートだなどと自惚れているわけではないが。



 考えすぎて恐い顔になっていたらしく、ふたりが心配そうにこちらを見ていた。


 思っていたことを素直に伝える。


「街中では俺のそばから離れないで欲しい」

「人通りが多いところでは恥ずかしがらずに手を繋いで欲しい」

「もしはぐれたら慌てずにこの宿屋への道順を聞いてここに戻ってきて欲しい」


 リノアさんは真剣な表情で聞いてくれている。


 たぶん相棒と出会った頃の逃避行のことを思い返しているのだろう。


 慎重な彼女なら俺が言った問題への対処も大丈夫。


 真剣な表情のリノアさんがきれいすぎることこそが大問題なのだが。



 アイネちゃんも神妙な表情で聞いてくれている。


 これまで過ごしてきてこの娘が年齢以上のしっかり者であることは良く理解しているが、いかんせんまだ子どもだ。


 毛布で包まれてあっという間にお持ち帰りされるくらい子どもなのだ。


 実行した俺が言うのだから間違いない。



 突然、ふたりから抱きしめられた。


「お顔、恐い」小さくて温かなアイネちゃんはぎゅっとしがみついてくる。


「大丈夫ですよ」大きくて柔らかなリノアさんは優しく抱きしめてくる。


 たぶん今の俺は人さまにお見せできないような顔になっている。


 にやけ顔ではなく泣きそうな顔に、だ。


 できるだけ穏やかな表情になるまで待ってから、

「心配かけてごめん」とつぶやく。


 離れたふたりのほっとした表情を見ながら覚悟を決める。



 ふたりに危害を加えようとするヤツには容赦しない。


 毒針野郎のように躊躇なく処理する。


 残虐な場面を見せることになってふたりから怖がられ嫌われることになってもかまわない。


 ふたりがひどい目に遭うのを防げるのなら自分が穢れるのなんか何でもない。


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