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12 こどもとおとな


 それから部屋の中は終始なごやかで落ち着いた雰囲気であったが、俺は心中穏やかではなかった。


 さっきのアイネちゃんの言葉。


 アイネちゃん的にはお母さんはお兄さんが好き、らしい。


 子どもの言うことを真に受けてはいけないという自戒と、娘さんの了承を得られたぜひゃっほうなうぬぼれ。


 せめぎ合うふたつの思いのせいで暴れ出しそうな表情筋をなだめるのに必死であった。


 ふたりが夕食を選び終えたのをこれ幸いと部屋を出て、メニューを見ながら歩いたせいで階段で転びそうになりながら自分の分を決めて一階受け付けへ。



 夕食の注文の際、受け付けに滞在は明日の昼までと告げる。


 滞在費の不足分は無いかと聞くと、ございませんが宿泊日数のおかわりが不足しているようですと軽口を叩かれた。


 礼を述べるとまたいつでもお越しくださいませと深々とお辞儀された。



 部屋に戻るとリノアさんが荷物を整理している。


「明日はお昼頃に宿を出ます、昼食は街で取ろうと思います」


 浴室の方からぱしゃぱしゃと音がする。


「扉を閉めようとして浴室に近づくとお湯をかけられます」


 困り顔のリノアさんだが、やっと困り顔の判別ができるようになった。


 今の困り顔は嬉しい時の困り顔。


「お鼻つまみ、しないんですか」と聞くと、

「もっとすごいおしおきがありますから」と笑った。


 どんなのか、今すぐに知りたい。


 アイネちゃんがお風呂場から裸で飛び出してくる気配がしたので小部屋へと退避した。



 小部屋のベッドにうつ伏せで寝転がって考え事をしていると侵入者の気配がした。


 今朝のリノアさんの柔らかな抱き心地を思い出して、今の自分が仰向けで毛布をかぶっていないことを激しく後悔していたら腰の辺りをぽこぽこ叩くおなじみの感触。


「今日はおつかれさまでした」と言うアイネちゃん、奥さんか。


「明日は新しいおうちが楽しみです」俺は期待半分、心配半分です。


 とりあえず、今日一番嬉しかったことを言ってみた。


「お兄さんと呼んでくれて嬉しかったです」


 ぽこぽこが止まった。


「お母さんと結婚するのは、おじさんとかおじいさんとかよりもお兄さんと呼びたくなる人が良いです」


 お墨付きをもらえたということだろうか。


「あんまりお母さんを待たせると、お兄さんがおじさんになっちゃうので早くしてください」


 催促されてる気がする。


 心強い味方を得たことに気分を良くしてうつ伏せのまま大きく伸びをしながら体を逸らすと顔を上げた目線の先、扉のそばに真っ赤な顔のリノアさんが立っていた。


 固まっているリノアさんにとたとたと近付き、手を引いて小部屋を出て行くアイネちゃんがちらりと見せた満面の笑顔。



 夕食が届いたらどんな顔で食卓に付こうか。


 なんとなく三人の中で一番大人なのはアイネちゃんな気がしてきた。


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