11 なかなおり
なぜが不動産屋を介さずにギルドでジエルと契約手続きをした。
互助会関連の書類すら用意してあって、あまりの手際の良さに裏を疑わざるを得ない。
俺の顔を見て「まずは住んでみろ、その上で文句があるならいくらでも聞いてやる」
コイツがこれだけ自信まんまんなら物件が俺の希望通りなのは間違いない。
不安を感じつつも礼を述べた。
ジエルと別れて宿に戻り、ふたりに事情を話す。
テーブル越しに向かい合う俺とリノアさん。
アイネちゃんは定位置、リノアさんの膝の上。
屋敷の件を黙って聞いていたリノアさん、購入したと聞いた途端スーッと血の気が引いていく。
相談もせずに俺の蓄えで家を買ってしまったことでリノアさんに大変な負担を掛けてしまったけど、ずるいようだが今まで通りの言い訳で誤魔化すことしか出来ない。
「独断で申し訳ないけど俺が出来ることならなんでもやらせてもらいます。 ふたりが安全に暮らせる一番良い方法だと思って勝手にやったことですから怒られても嫌われても全部受けとめます」
俺の顔を真っ直ぐ見据えていたリノアさんの目から静かに涙がこぼれ落ちた。
言い訳も謝罪もやめて、見つめ返すしかできなかった。
膝の上の心配そうなアイネちゃんに目を向けて、
「お母さん、どうしたら良いのか分からなくなっちゃった」
長い沈黙の中、突然アイネちゃんがリノアさんのお鼻をつまんだ。
驚いているリノアさんにアイネちゃんが諭すように話しかける。
「お母さん、お兄さんのこときらい?」
無言で首を横に振るリノアさんのお鼻から、アイネちゃんの指が離れる。
「きらいじゃないのにどうしてお兄さんを困らせるの」
「お母さんの方が困っているの」
「違うよ、お母さんが泣いたり悲しそうな顔するとお兄さんがすっごく困った顔になるんだよ」
「好きな子を困らせる子は悪い子だからお鼻におしおきだよ」
もう一度お鼻に手を伸ばそうとしたアイネちゃんを抱き上げてリノアさんが立ち上がる。
俺のそばにきたリノアさんがアイネちゃんを俺の膝に乗せる。
「困らせてごめんなさい」深々と頭を下げた。
アイネちゃんが俺の手を取って、頭を下げたままのリノアさんの方へ持っていく。
アイネちゃんの手のなすがまま、リノアさんの頭をなでなでする俺の手。
「なかなおり」
三人とも、ようやく笑えた。