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10 屋敷


 屋敷の場所は街外れ。


 かなり高い塀に囲まれていて中の屋敷は全く見えない。


 というか注目すべきは塀の高さではなくその長さ。


 そこから導き出される敷地の広さですでに購入を諦めている俺。


 まずは建物も見ずに一言。


「こんな豪邸、買えるか」


 ジエルは無視して鍵束をかちゃかちゃさせながら門を開けようとしている。


 急な話なのにえらく準備良く鍵まで用意してやがる。


 鍵束から正解の鍵を選ぶのに苦労しているジエル。


 やがて大きな表門の隣にある小扉が開いて、なぜか得意げなジエルの後を追って中へ。



 確かに広い敷地、というより更地の真ん中辺りにぽつんと見える地味な建物。


 以前、ダンジョンで苦労して開けたどでかい宝箱の中身が地味な指輪ひとつだけだったことを思い出したが、あの指輪のように見た目以上の価値がある屋敷なのだろうか。


 周りに何もないせいで屋敷の正確な大きさが分かりにくいが、門から玄関までかなりの距離があることだけは良くわかる。


 アイネちゃんが大喜びで走りまわる姿が目に浮かぶが、リノアさんには来客のたびにごめんなさいしなければならなくなりそう。



 しっかりと小扉を施錠したジエルが無言で屋敷目指して歩き出す。


 昔と変わらない小さな背中を追いながらコイツが何を企んでいるのか考える。


 無駄なことや面倒ごとは大嫌いだが、自分が楽しめると分かれば全力を出す。


 わざわざここまで連れ回してきたということは、俺に買わせる算段が有るということだ。


 もし俺の財布だけじゃなくリノアさんが持っている相棒の保険金を当てにしているのなら長かった腐れ縁もここまでになるぞと、嫌な考えが頭の中を湿らせているうちに屋敷に着いた。



 遠目には地味に見えた建物だったが、地味ではなく異様だ。


 無駄な装飾の無いそそり立った壁に点々と窓が埋め込まれた箱型の建物はまるで監獄。


 確かに建物の防犯を突き詰めるほど監獄に近付くのかもしれないが、注文主の老貴族の病みっぷりがよく分かる建造物だ。



 玄関先でまた鍵束をかちゃかちゃさせているジエル。


 少々うんざりしてきたので「ここで暮らすのは大変そうだな」と嫌味っぽく言ってみると、むっとした顔で扉の脇に埋め込まれた金属のプレートを指差す。


 それは何だと尋ねたら最新の魔導警備設備だそうだ。


 何でも、屋敷が完全稼働している状態なら住人がプレートに手をかざすだけで扉の施錠開錠ができるらしい。


 屋敷の完全稼働って何だよと突っ込む間もなく玄関の扉が開いた。



 入ってすぐの場所は、そのだだっ広さから勝手に大広間と呼ぶことにした。


 外観からたぶん地上三階だろうと検討をつけた屋敷の二階部分まで使っているようでやたらと天井が高い。


 家具や装飾が少なくて無駄に広いこの空間は、ジエルだったら喜んで室内訓練場として使うだろう。



 とりあえずついて来いと言われて、廊下というより通路と呼びたくなる道を曲がったり降りたりして奥にある部屋へと案内される。


 部屋の中には大型の魔素貯蔵設備。


 すごいなと感嘆すると、なぜか自慢げに語り出した。


 このでかい貯蔵庫が屋敷中の魔導設備に魔力を一括供給している。


 灯りや冷暖房や調理場・浴室の設備、すんげぇ結界や監視設備だけじゃなく、もちろん扉に付いてるアレにもだ。


 登録された住人が手をかざすだけで扉のロックや解除ができるというアレ。


「こんな設備の付いた屋敷は普通の人には維持も管理もできないだろう」と興奮した口調のジエルを制した。


「専属管理人付きなんだよ」なぜかジエルが口ごもる。


「例の老貴族の妄想に最後まで付き合った天才建築士がいたんだよ。 貴族のメチャクチャな無茶振りをそれ以上にデタラメな知識と技術で全部叶えちまった変態建築士が」


「その変態と一緒に暮らせと」


「いや、建築士の爺さんは屋敷が完成してすぐに死んだよ。 口封じって噂もあったが本当かどうかはわかんね」


「?」


「弟子がいるんだよ。 変態建築士の知識と技術とこの屋敷への執着を受け継いだ弟子が」


「話を聞くと一緒に暮らしたくないタイプの男のようだけど」


「女だよ」


「へ?」


「変態建築士爺さんの才能を全部受け継いだ天才で変態な孫娘がな」



 話をまとめてみる。


 経緯はともかく、普通ではあり得ない防犯設備を備えた屋敷が専属管理人付きで手に入る。


「でもお高いんでしょ」上目遣いでジエルを見たら腹をグーで殴られた。


「こっちもクソ忙しいんだから真面目にやれっての」

「この屋敷の敷地込みの値段だけどな、ここだけの話なんだけどどっかのぐうたら冒険者がギルドの互助会にしこたま溜め込んでる金額とちょうどおんなじくらいらしいぜ」


 一部の真面目な冒険者は老後や引退後に備えてギルド互助会に貯蓄している。


 もちろん誰よりも真面目な冒険者である俺は、かなり前からせっせと老後の備えをしてきた。


「互助会の契約書には、秘密厳守で違反者は極刑を含む厳罰って明記されてたけどな」


「わりぃ、違反者の違反アリナシ決めてんの誰だかしってるか」


「分かった、戻ったら速攻で屋敷を手配してくれ」


「毎度ありっと、例の管理人の姉ちゃんも明日の朝からこさせるからな」


「もう好きにしてくれ」



 もともと引退後に買う予定だった我が家を早めに手に入れることができたと思えば良しとするか。


 老後資金はもうすっからかんだけどな。


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