01 出会い
『リヴァイスR 収納魔法使いと祝福の呪い』の通常版で、
チームロイ結成のお話しとなっております。
お楽しみいただければ幸いです。
相棒のクリストがダンジョンで死んだ。
ソロでぶらぶらしていた俺となぜか気が合いつるんでいた男。
一緒に依頼をこなしたり酒を飲んだり女冒険者のパーティーにちょっかい出してぶん殴られたり、そんな感じの相棒。
そいつは俺に遺言を残していた。
『あの村にいる親子に俺の保険金を届けてくれ。 半分くらいならピンハネしてもかまわん』
冒険者には死んだ時に知り合いに何かしら残せるように保険を掛ける者もいる。
あいつがそんなことをするような男とは知らなかったが、最後の願いを叶えてやるのも悪くないと街から徒歩で数日の場所にある村へ向かった。
初めて訪れたが、どこにでもあるような普通の小さな村だ。
村人の口は重いが余所者が警戒されるのには慣れてる。
居場所を聞き出して親子が住んでる村はずれの小さな一軒家に向かった。
玄関の扉を小さく開けて顔を覗かせている娘さんにお母さんを呼んでくれと言うと勢いよく扉を閉められた。
家の中からトタトタという小さな足音と母親を呼ぶ大きな声が聞こえる。
しばらく待つと警戒した様子の母親が姿を見せた。
あいつが死んだことと保険金を届けに来たことを告げると家の中へと案内された。
狭い居間にあるテーブル越しに向かい合う、憔然としている母親と怯えた顔でこちらをうかがう娘。
苦手な空気から早く逃れたくて説明を急ぐ。
「おじちゃん、死んじゃったの」と、震える声で母親に問いかける娘。
聞いたか相棒、娼館のお姉さまたちがお兄さんと呼んでくれていたのはリップサービスらしいぞ。
純真な女の子の穢れなきまなこと海千山千のお姉さんの潤んだまなざしのどちらが真実を見抜いているかこれで分かったろ。
問いかけに答えるのを優しく拒絶するように、抱き上げた娘の顔を豊かな胸で包み込む母親。
くぐもったすすり泣きが聴こえてくるこの空間から一刻も早く逃げ出したい。
ギルドから預かってきた保険証書と保険金が入った小さなバッグをテーブルに置いて、読めるなら金額を確認願いますとできるだけ事務的に聞こえるよう告げた。
母親が証書の巻き物を広げると巻き込まれていた手紙がテーブルに落ちた。
先に手紙を読んだ母親の目から涙がこぼれる。
俺がこういう雰囲気を何より苦手にしているのを知っててこの仕打ちかよ相棒。
おそらく地獄堕ちしたであろうあいつにどうやって呪いを掛けてやろうかを考えていた俺の背中をぽこぽこという衝撃が襲った。
「お母さんをいじめるな」
孫がおじいちゃんの肩を叩くかのごとくぽこぽこと俺の背中を叩いている娘の姿を見て、街を出てからわずか数日のうちにお兄さんからおじいちゃんになってしまった自分がみじめになった。
母親を泣かせた悪漢に全力パンチをおみまいしていた娘は、慌てて駆け寄ってきた母親に抱きかかえられた。
向かいの椅子に座った母親が膝の上に寝そべらせた娘を押さえながら恐縮した様子ですみませんと頭を下げた時、母親の胸元の首飾りが放つ魔力に気付いた。
気づかれないように『鑑定』してみると尋常じゃない隠蔽魔法が付与された魔導具のようだ。
俺は戦闘系の能力こそ平凡だが『鑑定』や『収納』などの日常系スキルには結構自信がある。
断じて豊かな胸に目を奪われたから気付いたわけではない。
手紙と証書、バッグに入っている保険金の確認を終えた母親が俺に手紙を手渡した。
相棒の手紙には『これを持ってきた男はそれなりの人生を送ってきた自分が唯一信用できる友人だからこれからはこいつを頼って暮らすように』と書いてあった。
手紙の隅っこには小さな字で『証書の額と実際の金額はちゃんと確認するように』とも書かれている。
信用しているのかいないのかどっちだよと困った顔をしている俺に、真剣な表情で母親が告白してきた。
私は魔族です
娘と二人で路頭に迷っていたところをあの人が救ってくれました
私にできることなら何でもしますので娘の人生を見守ってください
母親は深々と頭を下げてから首飾りを外した。
紅の瞳と側頭部のツノ。
隠蔽を解いた女は純粋な魔族しか持ち得ない特有の雰囲気を纏っていた。
首飾りをつけてくれと促してから、これからのことを話し合った。
できればこの村を出て俺のいる街で暮らしたいと、遠慮がちにお願いしてくる母親。
声も態度も遠慮がちだけど、その上目遣いは多用しちゃいけない。
さっき魔族姿を見てしまったせいか部屋の中の湿っぽい空気が艶っぽいものに変わってしまったみたいだと動揺していると、こちらを警戒する視線に気付いた。
いつに間にか母親の後ろに回り込んでこちらをじっと見ている娘の視線が痛い。
「娘さんの気持ちは確かめましたか」と、精一杯誠実な男を装ってみる。
「この村嫌い」
簡単簡潔ながら俺の余生を縛り付ける娘さんの言葉。
あいつが掛けた祝福の呪いが、俺の平凡な人生に終止符を打ちこんだ瞬間であった。