IX:桃色の魔法少女の記憶IV
私達の前に現れたのは最強の魔法少女と言う謳い文句を引っ提げたリュウショー・ブラッドゴーンと言う魔法少女だった。
何でも最強のステッキだって言う自立稼働支援魔法式ステッキ『ドラコーン』の適合者。ありとあらゆるドラゴンの全てを注ぎ込んだと言うそのステッキは私達のステッキとは違い、最強故にか自分の意思で動き回ったりする事が出来ちゃうみたい。
パープラちゃん達は皆ステッキの方ばかりに注目していたけど、私はその持ち主に目を惹かれていた。
血の様に紅い、けれど日の光に照らされて輝く美しい髪。星空の様に小さな光が閉じ込められた紅い瞳。その体に宿る強かな龍の魔力。
何より殺気立ったおっかない顔。
「よろしくねリュウショーちゃん。私ロージア・スカーレットって言うの! ロージアって読んでね!」
「そう」
始めて会った頃のリュウショーちゃんは顔にこそ現さないものの何時も怒っていた。
ぶっきらぼうな態度で人を寄せ付けなさそう彼女に何故か私は惹かれていた。何処までも一人であろうとしているその姿に寂しがりやな私は憧れていたのかもしれない。
独房の中で壁越しに話掛けても何時も同じ返事、いつかは違う言葉が聞けたらいいなぁって思いながら枕に顔を埋める日々。
リュウショーちゃんの生返事以外の言葉を聞けるのは以外と早かった。
私達魔法少女の役目は魔王と戦う事。当然、魔王が現れたら直ぐ様参上してやっつける! 筈だったんだけど……。
国からちょっと離れた所の荒れ果てた紫色の大地。そこで私達魔法少女は魔王退治に勤しんでいた。
「うわぁぁぁぁん! 何あれ!? 何あれ!? あれが魔王! オレが知っている魔王と違ぁぁぁぁう!」
『逃げてばかりでないで戦って下さいマスター! 折角の龍の最強ステッキ、ドラコーンちゃんの晴れ舞台なんですよ! それが逃げ惑うなんて幾ら何でも情けなくて泣いちゃいますよぉ!』
「無茶言わないでぇぇぇぇ! 無理な物は無理なのぉぉぉぉ!」
最強の魔法少女と言われた筈のリュウショーちゃんは大人位の大きさの魔王に逃げ回っていた……!
「リュウショーちゃーん焦らないで魔法を使ってー!」
今のリュウショーちゃんはドラゴンの紅い鱗で覆われた魔法少女のドレス姿。遠くから見ても感じる魔力量的にかなりの量で高密度の物。アレならあの程度の魔王相手になんか傷一つ着けられないと思うんだけど。
もしかしてリュウショーちゃんって魔王退治が始めてなの……!?
だとしたらこのままだと彼女が魔王の餌になりかねないので、桃色のステッキを箒型に変化させ跨が直ぐ様リュウショーちゃんの元へと飛んでいく。
「ぎゃぁぁぁぁ! 勇者様ぁぁぁぁ! 勇者様助けてぇぇぇぇ!」
『何やってるんですかこのヤロー!』
「えいっ!」
ステッキを短縮させ、先から長大な光剣を創り出す。突っ込んだ勢いで人型の魔王を滅多切りにする。存在を保てなくなった魔王は紫色の粒子となって消え去った。
「リュウショーちゃん、大丈夫?」
「あ、ありがとうスカーレットさん」
『全く何やってんですかマスターは……!』
怒ってますよと言わんばかりに飛び回るドラコーンちゃん。リュウショーちゃんはそれを無視する様にその場でぐったりと座り込む。
「オレに魔法とか無理だろ……」
『私をバァッ!と振れば魔法なんてどうとでもなりますよ』
「はぁ……」
ドラコーンちゃんの言う事に溜息をつくリュウショーちゃん。リュウショーちゃんは今日始めて魔王退治に派遣される。
魔法少女は基本独房で過ごすので魔法の練習なんて出来ない。そもそも与えられたステッキが勝手に魔法の使い方を教えてくれる筈なんだけど……。
「ドラコーンちゃんはリュウショーちゃんに魔法の使い方教えてないの?」
『はぁ〜〜〜〜? 最強ドラゴンステッキが触られた瞬間にマスターの脳味噌にはバッチし記憶されてますよぉ!』
「ならリュウショーちゃんも頭に思い浮かべれば魔法を使えると思うよ」
「んな無茶な!? もっと魔力がどうとか詠唱がどうとか、細かい理論だったり化学反応とかじゃないのか!?」
「? 魔法はステッキが教えてくれた事を想像するの。そうすれば」
丁度都合良く人型の魔王が3体現れたのでリュウショーちゃんの手本となる様前に立つ。
人型の魔王は基本的に徒手空拳しか攻撃手段が無いので初心者魔法少女……自分で言っていても変な感じはするけど初心者魔法少女には打ってつけの魔王である。
幾つもの金色の輪が囲っている桃色の宝玉を中心に、数本の絡まった植物の根が杖となっているステッキ『フロスオールトス』を構える。
思い浮かべるのは光。全てを滅ぼす忌まわしき力。
フロスオールトスの先に描かれた大きな桃色に輝く魔法陣。その陣の中心から桃色の光が溢れ、魔力が収束し、一気に放射状に広がっていく。
「光砲」
『ライトニングカノン』
フロスオールトスの掛け声で瞬く間に広がっていく桃色の魔力。桃色の奔流は襲い掛かってくる魔王達を消滅させる。
「す、すっげぇ! 凄いよスカーレットさん!」
「そうかな……?」
リュウショーちゃんは私の魔法を見て私はあんまり自分の力が好きにはなれない。魔法は確かに人を守れる力だけど、私はそうする事が出来なかった。
母も妹も、村の人達も全員この手で殺してしまった。そもそもこんな力が無ければ……。
「リュウショーちゃんは私の魔法や私の事、怖くならない?」
「なんで?」
「だって私が一歩でも間違えちゃったら周りの人を殺しちゃうかもしれないんだよ……?」
「? でも今、スカーレットさんはオレの事助けてくれたし、オレはちゃんと生きてるけど?」
「そ、そうだけど……」
「怖いどころかオレはカッコイイと思うよ」
「カッコ、イイ?」
「オレの故郷じゃ魔法なんか無くてさ、子供の頃は両手からビームが出ないか良く練習してたから。そんな凄い事が出来て、ちゃんと制御出来てるスカーレットさんはカッコイイと思うよ!」
「……そうかなぁ?」
「そうだよ」
リュウショーちゃんの言葉に照れてしまう。私の魔法がカッコイイ……かぁ。そう言われたのは生まれて始めてだ。今までは恐れられたり、敬われたりするだけで、パープラちゃん達は当たり前の様に魔法を使っていたから分からなかった。
何時もはパープラちゃん達を巻き込まない様に離れた所で魔法を打って魔王退治していたけど、私はちゃんと制御出来る様に成長している。その事が実感出来る。
私はもう人を殺さない様に出来るだけ扱えているんだ。自分の魔法を。
私が杖をじっと見つめていると空の方から気配を感じる。それかなり巨大な気配。見上げてみると翼が4つ生えた鳥に良く似た魔王が此方に向かってくる。
それを見たドラコーンちゃんがリュウショーちゃんの手に握りに入った。
『さぁ、次はマスターの番ですよぉ!』
「よぉ〜し、オレもやってやる!」
リュウショーちゃんは私の魔法を見てから意気込み始めてドラコーンちゃんを両手で握り、杖先を空へと向けて構える。
その瞬間、ゾクリと全身が動けなくなる。金縛りにでもあったかの様に私は体が微動だにしなくなる。その原因はドラコーンとリュウショーの奥底から発せられるドラゴンの魔力。
ドラゴンはもう絶滅しちゃったから、実際にどんな生物なのかは本や話からでしか聞いた事が無い。
でもこの目でその姿を見なくともその凄さが分かってしまう。リュウショーちゃんから湧き上がる暗く、それでいて紅い光を纏った魔力。その本質は魔力を喰らう魔力。人間は勿論、魔王、ひいては魔法少女、その何方にも天敵になりうる力だと直感した。
「龍砲」
『ドラゴニックカノン』
ノータイムで現れた紅い魔法陣は一瞬にして絵本で見たドラゴンの頭部へと形を変え、その口から力の奔流が放たれる。
大地を、空を揺らすそのけたたましい魔力の滝が轟かせた音は魔王の咆哮そのものだ。
私以上の火力で放たれたリュウショーちゃんの魔法『龍砲』は突っ込んでくる魔王を、抵抗する隙すら与えずに消滅させる。
魔王が跡形も無く消え去るのに10秒も掛からなかったと思う。
ブラックホール大佐がリュウショーちゃんを最強の魔法少女と言ったのも頷ける。
「やったねリュウショーちゃん!」
「これで良いのかな?」
「うん! 始めての魔法なのに発射速度やコントロールも抜群だよ! これなら並大抵の魔王相手なら楽勝だと思うよ!」
「そっか……」
リュウショーちゃんはドラコーンちゃんを少しだけ見つめると頬を緩ませる。最初に見たイライラした様な怖い顔じゃなくて、とっても可愛らしい顔。
それを見ていると何だか心が温まる。
「あっ、リュウショーちゃんまた魔王が現れたみたい!」
「なら魔王をぶっ潰しに行こうスカーレットさん! スカーレットさんと一緒なら多分大丈夫だ!」
「えへへ、ありがと」
その後、十体程大型の魔王をリュウショーちゃんと一緒に消し飛ばした後、魔王が現れる頻度は減り、今は軽く空を飛び回っていた。ブラックホール大佐が言っていた一定時間魔王が湧き出る『波』と言うのが終わったらしい。
「これで魔王退治は終わったのか?」
『はい! 今日の所はこれでお終いですよぉ! お疲れ様ですマスター!』
「今日の所って、明日もやるのかこんな事……?」
「? そうだよリュウショーちゃん。私達魔法少女は魔王を倒すのがお役目なんだよ?」
「魔王ってそんなに多く居るのか……?」
その言葉に頷くと項垂れるリュウショーちゃん。リュウショーちゃんは本当に今日が始めての魔王退治らしいし、知識もあまりないみたい。
でも大丈夫。私がきっちり教えてあげるから何の問題も無いよ!
「でも……今日は本当にありがとうドラコーン、スカーレットさん」
『良いんですよぉマスター! マスターは私と以心伝心の相思相愛、表裏一体なのですから!』
再び飛び回るドラコーンちゃんに辟易と言った様子で鬱陶しがるリュウショーちゃん。そんなリュウショーちゃんに私は声を掛ける。
「ねぇリュウショーちゃん?」
「どうしたんだスカーレットさん? また魔王が現れたのか!?」
リュウショーの問に首を横に振って呼び掛ける。
「リュウショーちゃん、私の……友達になってくれない、かな?」
「良いけど……。オレなんかで良いのか?」
「うん! リュウショーが良いの!」
私が顔を近付いて声を上げるとリュウショーちゃんは後退ってしまう。
「名前を……呼んでほしいな」
「名前?」
「うん。お互いに名前を呼ぶ事が友達の証だと思うから」
「じゃあこれからよろしくなロージア」
「……うん!」
私はこの日始めて友達が出来て、始めて心の底から笑えた気がした。
これが私とリュウショーちゃんとの始めての思い出。他にも色々あるけど、一番に思い浮かぶのはこのお話かな。
リュウショーちゃん、今何処に居るんだろ?
早く会いたいなぁ。この星の何処に居たって、絶対絶対絶対見つけるんだから!
読んでくれてありがとうございます!
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