Ⅴ:俺、娘持っちゃうの?
「???」
「取り敢えず服を着せよう。絵面的にも環境的にも良くない。ドラコーン頼む」
『分かりましたー!』
繭から破れ出た裸の女の子。水晶の様に綺麗な髪を持つ謎の少女。何の繭なのか良く分からないけど、出て来た少女は中学生位の人間の姿をしている。
少女は私達の事が分からないのか、首を傾ける。橙色の瞳で私達を見る姿は少し愛らしい。もしやすれば俺の女姿よりも可愛いかもしれない。と言うか可愛い。
言語が分からないのか、彼女はあーだのうーだのしか言わない。見た目はそれなりに成長しているがそれに伴う中身はまだまだ幼いらしい。
兎に角俺的にもその格好は少し困るのでドラコーンに頼んで、少女に服を着せる。布では無く魔力で編んだ服だが今はこれで良いだろう。寧ろそうでなくては困る。
「────?」
『出来上がりましたー!』
「おぉ」
ドラコーンが着せたのは彼女の髪色と同じく水色のワンピース。ドラコーンの性格故か、適当な物ではなく中々に手の込んだものとなっている。
所々にはフリルが着いており、とても彼女に似合っている。少女は自分が着ている物が何なのか分からないらしく疑問符を浮かべて、ドラコーン手製の服を弄り始める。
「ドラコーン。あの娘の脳に接続出来る?」
『したとしても思考は働いていないでしょう。何か言語的な物を話している訳では無いみたいですしやるだけ無駄でしょう。ですが彼女の脳に魔法が使えるのであれば半強制的に知識と言語は修得可能ですがいかが致しますかマスター?』
「そっちの方が後々楽かなー」
ドラコーンの言う通り、俺みたいな特殊体質でも無い限り魔法さえ適用出来れば言語の壁など紙ペら同様なのだ。言語修得の魔法は瞬間にしろ、ゆっくりにしろ脳に負荷をかける魔法。下手をすれば脳がショートするかもしれないらしい。念の為に修得しておいた魔法だがドラコーンがヘマさえしなければ問題は無かろう。
これでも私は最強の魔法少女。大抵の魔法であれば何なりと覚える事が出来る。
言語修得の魔法自体、実際に使った事は無いが使われた事はある。そう、日本人である俺が異世界であるここでの言語が話せるのは理由がある。何を言おうと、俺が転移させせられた時にはもう魔法陣に言語修得の魔法が掛けられていたらしい。ドラコーンを手にする前の俺には今の様な魔法抵抗のある肉体ではなく、普通の身体。事実として俺は言語修得に成功している。
俺という成功例があるが彼女でも成功するかは分からない。しかしこのまま放置もまた良くはない。彼女の正体が分からないが魔王に汚染された土地で魔法少女ではない存在を放置しておくそれはそれは悲惨な事になる。
俺がまだ駆け出しの魔法少女でスカーレットに戦い方を教わっている時、魔王に汚染された土地に乗り出してきた馬鹿が居たのだ。当時の俺は魔法少女であり魔王によって汚染された土地でも歩けた。スカーレット達他の魔法少女と一緒に行動していたのも相俟って理解出来ていなかったのだ。その特異性と恐ろしさを。
男は、国の外にある自由に渇望したのか地獄へ一歩踏み入れてしまったのだ。無知というのは幸福なことなのか、愚かなことなのか、一概には断言できないがその男は間違いなく愚かだと言っていい。
俺達がその男を見たのが、彼が外に出て何分後かは分からなかったが、外の世界に感動したのか絶望したのか良く分からない表情をしていた男に異変が起こった。先ず始めに男の首が曲がらない方向に曲がり、胴体が捻じ曲がり、どういう訳か手足の位置が逆転したのだ。痛覚などはそのままに。
喉元も捻じ曲げられたたのか壊れた機械の様に、男は異形の元人間と化したのだった。悲鳴もままならないまま男は人としての生は潰えた。その次に脳が潰れたのは言うまでもない。その後、男は死体すら残さず消え去ってしまった。俺達の目の前で。
それが理を破壊されるという事だ。あるべき筈の物を全く別の物へと変貌させる。彼女達がよく教えてくれたよ。普通の人間が外に出れば、何分後にその理が歪められるかを。国は敢えてそう言う事は知らせていないらしい。普通誰も国の外には出ようとしない。どういう意図でそんな事をしているのかは普段独房で生活している私達には知る由も無かった。
目の前で遊んでいる彼女が何時そうなってしまうかは分からない。だからこそその性質は変えざるを得ない。ドラコーンが魔力の服を編んだのはそう言う理由がある。
「こんな所でどーして少女が入ったあんな繭あるんだか」
『そればかりは色々と無い物強請りで頑張ってくしか在りません』
「ま、兎に角彼女の事について知らなきゃいけない事は多いしね『脳内接続』『記録混入』」
『ブレインコネクト』『メモリーミキシング』
そっと少女の側に立ち、彼女の頭目掛けてステッキを翳す。緑、青、黄色で彩られた三重の魔法陣が少女の頭部を中心に現れる。ドラコーンと私が魔法を行使すると同時に少女の顔は朧気になり瞳から光を失う。一通りの魔法を施し終えると、緊張の糸が切れたのかパタリと倒れてしまう。
こう平気で魔法を彼女にやっているが、中々に酷い行いをしている気がする。脳を弄るとか悪の組織かな?うーん立場的には合っている様で違う気がする。
「うーーー…………。ま、おーう?まほう、しょーじょ?分からない……………………分からない?」
「申し訳無い気がしなくも無いけども、取り敢えず成功でいいのかなー」
『マスターも中々に価値観がイカレテきましたね!』
「君?お前?貴方は誰?貴方は誰って何?貴方は誰って何って何?何って何なの?────」
ありゃりゃ。魔法自体は成功したっぽいけど、まだ完全には言葉の意味を飲み込めていないらしい。知能は高いのかすんなりと該当する言葉は口から出てきているみたい。けど自分でもその意味が分からず無限ループへと陥り、何なのがゲシュタルト崩壊を起こしてしまっている。
「────お前が、我、こうした?よく、変なものが脳にうじゃうじゃしてた、してる。さっきまで存在、無い。したの貴様?」
時間が少し経つに連れて言葉を理解し始めたのか私に話し掛けてくる。まだ安定はしてないながらも使いこなしている。しっかしいきなり与えられた言語や記録を理解しているのを見ると本当にこの少女は知能が高い。繭の中から人の形をして現れたのを考えると元々の知能はあったのかもしれない。まだ何とも言えないが。
「そうだ。お前をそうしたのはおれ…………う゛う゛ん゛、私だよ」
「何故、やった」
「まぁ一番は貴方の事が知りたかったんだけど、生まれたての赤ん坊で話せそうそうにも無かったから」
「君は、私のこと、『何か』知りたいから?」
「そうそう。貴方に流した知識と記録にここの周辺や私の事や知ってる事は大方分かる筈。だから私が貴方にそれを与えた理由も分かる」
「…………貴様、リュウショーは魔法少女。魔法少女は何でも出来る。けど他の存在は魔法少女に出来る事が出来ない。この紫色の大地は魔法少女以外にはとても危険。でも僕はこの場所、あの繭の中から現れた。リュウショーは私の事、分からない。何ともない俺が分からない。だから我に魔法、やった」
「せいか~い」
「成程、把握してきた。理解した。私、は魔王という存在が蔓延る環境の中に居た。僕にも、不可解。自分が何か、知らない。リュウショーに与えられた知識と記録しか、知らない。だから、リュウショーの知りたい我の事、知ること、出来ない。リュウショーの魔法、意味、無かった」
たどたどしくも懇切丁寧に答えてくれる一人称が迷子になっている少女。突然立ち上がって周りを見渡しているのは自分の中にある知識と照らし合わせているのだろう。掌を開いたり閉じたり、瞼を開けたり、閉じたり、身体を何となく動かしてみたり、色々と動いている。大きく息を吸って吐いてみたり、大声で叫んだり、物に触れてみたりと得た知識に戸惑いながらも体感していた。
さっきまでの彼女は、知的生命体と言うよりも、生物、と言った方が正しいのだろう。多少なりとも考えて行動、はしているみたいだがどれもこれも本能で動いているのに近い。そんな状態で自身が『何か』なんて分かる訳もないのだろう。生きて、死ぬ。それが本来の生物の姿なのだ。人間などの知性を持った生物が可笑しいとも言える。
私は彼女を無理矢理『人間』へと変えてしまった。如何せん彼女には謎が多過ぎる。元より期待はしていなかったが案の定本人も良く認識していない。けれど彼女知性を与えた事は後悔していない。彼女は完全に未知の存在だ。
放置するのは問題だし、その特異性が何かを生み出すかもしれない。例えば、地球に帰れる別の方法、とか。まぁそんな都合良く帰れたら女の子になってまで魔法少女なんてしていない。
いやはや慣れと言うのは末恐ろしい。俺のドラゴンが消えて無くなったのを見て発狂していたのが酷く懐かしい。今はこうして女の身体である事に違和感はなくなってきたし、一応男の俺にももどれるちゃあ戻れる。そんな事をしても余り意味ないからしないけど。
宙ぶらりんしている私に、自分の五感で感じ取れる物を全て感じ取ったのか少女は近づいてきた。まだ数分しか経っていないというのに口達者になって。
「ふむ。我は名前が欲しい」
『名前ですかー?別に自分で決めればいいじゃないですかぁ。自分の好きな言葉を好きなだけ名前に出来るんですし』
「うむ、ドラコーンなる名のステッキよ。君はその名を自分で付けたのか?」
『?いいえ、ブラックホールの野郎共がドラゴンから造られたステッキだからって”ドラコーン”って名前を付けられましたが』
「そうだろう。そうだろう。リュウショーの名前だって誰かから貰った意味のある大切な贈り物だ。名前と言うのは生物であれ物であれ他者が居て初めて意味するものなのだろう」
確かにそうだ。俺の『龍勝』と言う名前も、父さんと母さんが意味を持って俺に名付けてくれた物だ。少女の言う言葉に私は感銘を受ける。
「だから私も贈り物を、意味のある名前が欲しい。そしてその名前を、僕を作り出したリュウショーに付けて欲しい」
「私に名前を?」
「そうだ。リュウショーに付けてもらってこそその名前は私にとって価値ある物になる。誇るべき物になるんだ」
「言うようになっちゃって」
おっとりとした声で話しながらも根が通った確かな言葉を紡ぐ少女。とろんとした目で私を見続けるのは、真に私に名を与えて欲しいと言う確固たる意志。私は半ば彼女の親の様になってしまっている。最後まで責任は当然取る。何より俺がそうしたいと思ったのだから。
しかし名前と言っても私には厨二チックな名前しかつけられない。これは私のネーミングセンスの問題なのだがこれ如何に。候補として出来た名前が水晶魔皇とか二つ名的である。しかし彼女は『意味のある名』を欲している。
「うーん、私センス無いから怒らないでよ」
「構わない。俺はリュウショーがつけてくれる名なら受け入れよう」
「安直かもしれないけど『クォーツ』なんてどう?」
『これまたストレートに…………』
「ほうほう、さしてその意味は?」
「貴方の髪の毛がとても綺麗なのもあるけど」
────透き通った水晶の様な心を持っているから。これからも沢山の物をその目で通して、見て、自分の思うままに生きて欲しいから。
「いいじゃないか、クォーツか。成程成程、クォーツ、その名前気にいったぞ」
────今日から私の名前はクォーツだ。
「よろしくね、マーマ」
「…………ママって、まぁ今はそうかもしれないけど」
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