Ⅲ:私、追放?
「やぁ、ドラコーンの適合者。一年ぶりだね?元気にしてたかい」
「お陰様でね」
「そうかそうかそれは良かった。なら君にはこの国から出ていってもらおうか」
「何?」
国から出ていってもらう、その言葉を受けて表情には起こさないものの驚きを覚える。私は魔王を倒し続けた。それは紛れも無い事実だ。国の利益にだってなっている筈。にも関わらず私を追い出す理由が分からない。
「……それは君が『無能』だからだよ。国民からは文句が山程出ている。君のせいで魔王が増えているってね」
「仮にそうだとしても私はそれ以上の数の魔王を倒したと自負しておりますが。それにしてもここの国の民は些か……いや全てと言っても過言では無い程に無知が過ぎるのでは?」
「ハハハ、確かにそうかもしれないな」
「それにアンタのやりたい事が分からねぇよ俺は。それに突然魔法少女に対しての風当たりが強くなったのも大方アンタのせいか?」
「それもイエスと答えよう」
「…………お前可笑しいよ。民衆も大概だが魔法少女を貶めたいにしても適当で杜撰過ぎる。魔法少女と魔王を使って何がしたい?」
「さぁ?」
ブラックホールは仮面越しに感情の籠もっていない笑いを零す。敢えて私とドラコーンはブラックホールに対して何も言わない。何となくこうなる事は想像に容易い。
龍の魔女は人間の手には余りにも重い。目の前に居るコイツ自身、私の扱いに手を焼いていたのだろう。一年此処に引きこもって何をしていたか知らないが。
「だがね、君が最強の魔法少女、龍の魔女である事は『我々』にとって邪魔であり、危険なのだよ」
「ほう?」
「君の単騎能力は常軌を逸していてね。過去六百年今まで使い倒してきた魔法少女よりも強過ぎた。だからね君は十分働いたのだよ」
ブラックホールは右手を翳し、幾重もの黒い魔法陣を私の囲む。何も動くなと警告しているかの様にその魔法陣は一秒経つごとにその数を増やし天体の様に俺を中心に回り始める。
「さぁドラコーンを渡し給え。であれば君は独房よりも過酷な空間に取り込まれる。引力に引き寄せられ、重力によって不老不死故に永遠の苦しみを味わう。それだけで済むのだ。これ以上の地獄は味わいたく無いだろう?」
「同感だ。私とて多重ブラックホールの中に閉じ込められたくは無い」
「ならばステッキを渡せ」
「なぁこの言葉を知っているか?」
「は?」
「ドラゴンは、『力の象徴』、『絶対の証明』、そして」
─────不条理を打ち崩す者、と。
「誕生龍装『黒天龍覇導ドラグニーグルム』!」
いくつもの重ねられた魔法陣は私がステッキを振ると同時に反転し、私自身の魔法陣に転換される。最強の魔女少女、龍の魔女と呼ばれた私の能力は『ありとあらゆる能力を持ったドラゴンを作り出し憑依させる』能力。名付けるなら『龍創龍世』といった所だろうか。
詰まる所今の私はドラグニーグルムの能力、ブラックホールを自在に操れると言う訳だ。
つまりたった今私がブラックホールの魔法陣を反転出来たのは彼と同じ魔法陣、正しくは龍魔法陣が上書きしたのだ。これが第二の能力『龍廻天成』。
「チッ!」
ブラックホールは突如として黒いエネルギーの球体と化してこの場所から消えてしまう。
「忘れるな!貴様は既にこの国での立場は無い!もう貴様に人として生きる場所は無いのだよ!ハハ、ハハハハハハハハハハ!」
『テメェなんてこっちから願い下げですよ!』
ドラコーンが去っていったブラックホールに対して怒りの声を顕にする。そう言えば、俺が此処に来た時、ブラックホールはドラコーンを一個人として見ていた気がするのに。
いや気の所為……
『マスター!転移魔法陣です!』
「なっ!」
気がついた時には遅かった。転移魔法陣は発動し、私の身体は何処か遠い所に飛ばされる。ブラックホールの保険だ。私を始末出来なかった時用に用意していた魔法陣っ!
こうして私は国から追放されたのだ。
◆◆◆◆◆
「うーん何時まで経ってもリュウちゃん帰ってこないや折角夕御飯私が作ったのに」
「ま、色々と積もる話もあるんでしょ?リュウは別世界の魔法少女、って言うし」
「でもリュウは…………いいえなんでもないわ」
「こうして私達が一緒に居られる時間は少ないと言うのに。閣下の話なんて聞き流してしまえば良いのだ」
「良くないよ!閣下はその……」
「人々の為に忙しいからね。ま、その国民はリュウの文句しか言わないけど」
「私達が必死でやってるのを知らない癖に」
「仕方無いじゃないか。私も君も死んでしまう人達を助けたくて魔法少女になったのだろう?なら一つ二つ文句が有っても仕方が無いと言う訳だよ」
「うん。確かに私達が魔法少女に成ったのはそうだけどさ。リュウちゃんの扱い見てると……」
「本人も別に良い、気にしないでって言っているのなら良いのよ。リュウはそう言う人間だもの」
魔法少女は基本的に地下の独房に収容されて生活している。魔王が現れた時と食事の時にのみ彼女らはこの独房から出る事を許される。無論龍勝とて魔法少女、彼女もまた独房に収容される。
先に帰ってきた四人は龍勝が収容されている独房の中に押し入って各々が彼の私物を抱き締めていた。彼女達にとって龍勝は希望であり掛け替えの無いヒーローだ。
どれだけ自分達に汚名が掛かろうと龍勝は自ら泥に掛かったのだから。そして何度だって戦場では助けられた。
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