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Ⅰ:俺、魔法少女?



 魔法少女、読んで文字の如く魔法を使う少女。唯の幼い少女が魔法のステッキを使ってその身を人間とは一線を画した者へと変貌を遂げ、同じ魔を持つ者でありながらも世界の理を乱す魔王と戦う。   


 魔法少女となった人間は驚異的な身体能力を手にし、ヒトの原理では説明出来ない様な事象を起こす。一重にそれは魔法と喚ばれ、この世界において絶対的な力を持つのだ。


 生物なんて魔法という奇跡と呪いの手に掛かれば簡単に殺せてしまう。地球なんかよりもずっと危険だ。




 俺が居る世界は地球では無い、異世界。魔法少女と魔王が殺し合いを続ける最悪の世界。そんな世界に俺は魔法少女として呼ばれてしまった。




 今でも思い出してしまう。遠い昔の話を。





 時期はそう、地球で言う夏だった気がする。緑色の葉が木に生い茂り、蝉は生命としての命を終えるまでなきつづけ、太陽は燦々と光を放ち続ける。




 高校生である俺、緋本 龍勝はこれから始まる夏休みに期待で胸を膨らませていた。疲れる学校は休みに入り、家で好きな事が何時もよりも多く出来る幸福な時間。




 学校終わり、帰り道に店に寄ろうとした時だったのだ。俺が異世界へと連れられてしまったのは。




「ふむ彼がステッキの選んだ適合者なのかね?男にしか見えんのだが」


「え、えぇ、確かにステッキが呼んだのはこの世界には存在しない究極の魔法少女の筈だったのですが…………。男とは……」


「…………?……!?」




 光に包まれたかと思えば俺が居た先は何処かの城の中。黒い壁に包まれ、赤と金の旗が飾られている。窓ガラスの無効には湖と森の様な物が見えた。


 そして俺の目の前には黒い仮面を着けた人間と秘書っぽい格好をした眼鏡を掛けている女の人。




『もー!あんたらはこのドラコーンが選んだ魔法少女に対して何か文句があるんですかー!?』


「うわぁっ!!!!」




 状況を理解出来ない俺に対していきなり声が響き、ステッキの様な物体が縦横無尽に宙を飛び回る。




 魔法少女?ステッキ?目の前の奴等の言っている事がまるで訳が分からない。俺はさっきまで本屋の直ぐ前に居た筈だ。なのに何でこんな所に居るんだよ!?誘拐?幻覚?でも尻餅を着いて、触ったカーペットの感触も聞こえる声も全てが本物の様に思える。




 見える景色も何もかもが可笑しい。




『男だろうが何だろうが私を握りさえすりゃどんな野郎も完璧美人魔法少女になるんだよっ!文句言うな節穴ポンコツ共!』




 そして何より歪なのは元気良く声を発するおぞましい姿をしたステッキ。言葉を聞く限りでは暴言の様な物を吐いている。龍の鱗の様で柄を覆われ、角の様な形で王冠型のアレクサンドライトの様な輝きを放つ杖先。その横には龍の翼に似た物あしらえられている。




『おーっと!そう言えば適合者である貴方への説明をすっかり忘れてましたー!』


「ひぃっ!な、何なんだよお前等は!俺はさっきまで本屋に居た筈なんだ!」


『ほらほら落ち着いて落ち着いてー!はい深呼吸!吸ってー、吐いてー!』


「よ、寄るな気持ち悪い!」




 グイッと猛スピードで顔に近寄ってくるステッキ。あまりの気色悪さに思わず握って投げ飛ばしてしまう。しかしステッキが床に転がる事は無く、宙に浮いて俺の廻りにクルクルと舞い始める。いきなり何の説明も無しに話し掛けてくる謎のステッキ。こんな状況でどうやって落ち着けっていうだ!




『ほらー!あんたらが無理に次元転移魔法使うせいで余計面倒くさくなっちゃったじゃないですかー!』


「ステッキ如きがブラックホール閣下にそんな口を聞いていいと思っているか!」


『はぁ!?ステッキにだって上司に文句位、一つや二つ言ったって言いでしょう!ステッキにだって人権有るんですぅ!態々ドラゴンの思念と素材を作っておいて良く言いますよー!大体あんたらは私達ステッキと魔法少女が居なければ何にも出来ない癖にー!』


「この減らず口が………!」


「まぁまてプラネットよ。彼女の言っている事は紛れも無い事実。私達人間は魔法少女の手によって魔王からこの命を生かしているんだ。まさか、その事をお忘れなのかねプラネット君?」


「い、いえ、御無礼をブラックホール閣下」




 活きが良いステッキの反発と文句に対してプラネットと呼ばれた黒髪の女は怒りを顕にする。しかしブラックホールと呼ばれた仮面と黒マントを着けた男がプラネットを鎮める。それに対してステッキは良い様です!とプラネットを嘲笑っていた。




「ではドラコーン君、彼にこの世界、いや全てを説明して上げなさい」


『アイアイサー!』




 ブラックホール閣下とやらに命令されたドラコーンと呼ばれたステッキは再び俺の顔の前にやってくる。




『元気ですかー?元気な訳無いですよねぇ?いきなりこんな訳の分からない場所に誘拐されて』


「誘拐って……!お前等やっぱり誘拐犯なのかよ!巫山戯んな!俺は唯の高校生だぞ!こんな下らないセットや茶番まで用意していてどう言うつもりだ!」


『正しくは誘拐じゃなくて次元転移なんですけどねー。貴方の目からすれば誘拐と何一つ変わらないでしょうが』




 次元転移?意味がわからないが兎に角コイツ等が誘拐犯であると言う事実に何一つとして変わりは無い。なら通報して今すぐこの場所から抜け出さなくちゃ!


 …………!嘘だろっ!スマホが繋がらない!?どうなってるんだ!此処は電波が遮断されてるって言うのか!




『高校生?うーん?それが貴方の元の世界での役職なのですか?魔法少女じゃなくて?』




 何を言ってるんだこのステッキは!?魔法少女、役職?一体全体どう言う事何だ!




「これこれドラコーン君。君が質問してどうするだい?益々彼が混乱してしまうだろう?」


『おっとこれはこれはドラコーンちゃん失敗失敗!』




 一度クルリと眼の前で回転するとすみませんと俺に対して謝罪してくる。謝罪をするならとっと家に返して欲しい所だがこの緊迫した精神だと思った様に言葉が出ない。




『それでは先ず貴方の名前は?』


「龍勝、緋本………龍勝…………」




 ここは大人しく名前を答える。これで何も答えなかったら何されるか分かったもんじゃない。




『龍勝……龍が勝つで龍勝ですか!私のマスターにピッタリですよ!では改めまして私は世界初で唯一無二の"ドラゴンソウルステッキ"、通称ドラコーンちゃんです。因みに貴方を此処に連れてきたのは私ですよー。貴方は元々自分の居た世界、宇宙とは別の次元、更にその宇宙の中のこの星に飛ばされたんですよ。私の次元転移魔法によって!』




 子供がはしゃぐ様に飛び回るステッキは息を荒くする俺に対して軽快な声で自身の名を名乗る。ドラゴンソウルステッキ、直訳すれば龍の魂の杖だ。しかしそんな事は重要じゃ無い!それに別の次元に飛ばされたってどう言う事だ。大事なのは何で俺が連れ去られたからだ!




『簡単に言うとですねー。私達の世界には魔王って言う世界の理と言うか形と言うか、理念ですをねー。まぁ兎に角世界を滅ぼすヤバイ奴等が一杯居るんですよー!』


「ま、魔王?」


『おや、魔王をご存知なのですか龍勝?』




 ゲームの中とかしか魔王なんて言葉は出てこないぞ。兎に角世界を滅ぼすヤバイ奴等、ってそもそも魔王の定義自体、俺にとっては曖昧だ。第一、世界を簡単に滅ぼせる魔王が居るとするなら何で俺なんかがそんな世界に飛ばされるんだ。




『その魔王と彼等人間は対立しておりましてねー。と、言っても魔王にそんな感覚は無いのでしょうが。まぁ魔王がいると人族はこの世界に住めなくなってしまうんですよー。そんな訳で魔法少女が対抗策に上がったわけなんですよね』




 魔法少女……?魔法を使う少女の事何だよな?魔法少女がその魔王を倒してるんだって言うんならそれで良いじゃないか。そんな楽観的に考える俺に対して、ドラコーンは脳を読んだかのように言い始める。




『魔法少女は今でも数多く居るんですけどもねー!でもそれ以上魔王の数が多くなり過ぎて手に余ってるんですよー!今や既にこの星の大半の土地は魔王に乗っ取られましてね。彼等も人手不足や諸々で困っていたんですよ。其処でこの最強ステッキであるこのドラコーンちゃんが誕生したって訳なんですよ!ですがこの世界にはドラコーンちゃんに相応しい適合者は居なかったみたいでですねー、それなら次元転移魔法を使って何処かから完璧な適合者を呼び出してしまおう、って言う事になりまして。その結果が今、正に貴方が遭遇してる出来事なんですよー!』




 要するに、この星は魔王によって半分は既にヒトが住めない状態になっている。人類の敵である魔王に対してヒトが生み出したのが魔法少女、だがそれを以てしても魔王達の進行は止められず魔王の次に強いとされるドラゴンの素材を使ってステッキが生み出された。しかしそれを使える魔法少女が居らず、適合者である俺は地球から引っ張り出された、と。




 は?




「龍勝君、唐突で済まないが君には魔王と戦う魔法少女として、人類の希望として戦って欲しい」




「テメェの脳味噌はどうにかなってんの?戦えって、巫山戯てんのかよ……。いいからさっさと俺を元の世界に返しやがれ!」


「残念ながらそれは出来ない。今は魔王が居るせい世界の理は徐々に変わりつつある。次元転移魔法、最高位の次元超越魔法が使えるのは一度切りなんだ。本当に申し訳無いが魔王を全て倒さない限り君が元の世界に帰る事は出来ない」


「おい、冗談だろ?」


『いいえ今のままだと龍勝は元の世界には帰れません。だから頑張って魔王を倒しましょうねぇマ・ス・タ・ー♡』




 その言葉に俺は膝から崩れ落ちてしまう。





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