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21.お茶会




 王城の美しく配置された木々と計算されつくした彩り、配置の素晴らしい庭園が見える大きな窓ガラスの前にしつらえたテーブルに優雅に微笑みを浮かべる王太子の姿があった。

 そのみつめる先にはエミリーが美しく咲き誇る花々に目を奪われながらも優雅にカップに唇をつけ、のんびりと気品のあるティータイムに勤しんでいる。まるで目の前に王子がいないかのような落ち着いた所作に控える侍女も騎士も見とれていた。


 二つ年下の王子は、はじめましての挨拶のあと、優雅な動きでカップに口をつけるとゆっくりと喉を潤し鷹揚に話しはじめた。雰囲気は年下と思えない、大人の落ち着いた男性のような貫禄だった。



「他の御令嬢には遠慮してもらった。年齢も少し幼く、我々と話が合わないかと。それに二人きりの方が話しやすいかと思ったしね」


 その言葉にエミリーは一瞬顔を顰めそうになるが、表面上は穏やかな笑みを浮かべたままでだれも心の機微に気づかない。



「すまない。長年国を離れていたせいかこのような率直な物言いになってしまう」


「それは、そちらの方が好まれる、と言う意味に受け取ってもよろしいのでしょうか?」


「あー、そうだな。そう思ってくれて構わない」



 王太子のその言葉にエミリーはさらに笑みを深めた。



「……でしたら。年齢的には、殿下にとりまして本日お断りなされた方々の方が年齢もお近くお話も釣り合うかと存じます。私の様な瑕疵のものと話されることは、殿下にとって良くない事を招くかと」



「……自分で望んだこととはいえ、そうはっきり申されると返答に困るな。だが……、意見を述べることのできる人間は嫌いじゃない。……それから、年齢は気にすることはない、私の心持は中年のおっさんだと思っているからな」


「まあ、聡明な殿下でもそのような冗談をおっしゃるのですね」


「ははっ、早熟でないと留学は出来なかったし、それぐらいでなければ今後の国政を担えるとは思ってないさ。それに、恋愛においては男女の年齢なんて、関係ないだろう」


「……そうですわね、関係ないでしょうね。恋愛にしても、政略結婚においても、ね」


「エミリー嬢は、なかなかに辛辣だな。さすが、秀才との誉れは伊達ではないと見える」


「有難く誉め言葉として受け取っておきます」


「ああ、勿論褒めているさ。貴方のような女性が、貴族の御令嬢としてこの国にいるということが、素晴らしいよ。しばらく国を離れていた間に何やら自国は面白いことになっているようだ」


「どうでしょう?いくつかの国を廻られ学んでおられる殿下のお耳にまで届き、興味を惹いたものがございましたか?」



 王太子殿下は東の国々を中心にいくつかの国で学んできた。

きっかけはエノシガルの王子がこの国に滞在したことだった。その王子はミルファ国や竜の国にで学んだ後、単身でいろいろな国をめぐり文化や風習、果ては武芸と造詣を深めた一風変った王子であった。この国にも数ヶ月の間滞在し、文化や慣習を学び自国へと戻って行った。その当時、まだ幼かった王太子は自由奔放なエノシガルの王子の行動に感銘を受け、自分自身も外の国を見て回りたいと主張するようになった。


「その時はいつでもいいから声をかけてくれ。協力するよ」


 王子のその言葉を頼りにエノシガルへと渡った王太子だったが、エノシガルよりミミルファやへファイスに留学したほうが面白いと言うエノシガル王子の勧めと紹介で、そちらの二国を中心に滞在することとなったのだ。




「この国の情報は留学先の私の耳にも届いている。テイラー商会が色々と面白い商品を開発していることもだ。それらは私が留学していた先の国々にもないものだし、わが国の文化を踏襲したこの国の品であることは間違いがない。エミリー嬢も何かお持ちだろうか」


「ええ、テイラー商会のものはいくつか、持っております。いまや国民の憧れのお店ですから。生活を便利にする商品から書物まで、幅広く取り扱っているのは流石としか言いようがございませんわ」


「それは……、書物とはあれだろうか。えーっと、確か、ミッドナイト…いや違ったムーンライトシリーズとか言ったものかな。君はそのムーンライトシリーズとか言うものを読んだことがあるのかい?」


「殿下。その本は、仮に私が、使いを走らせ買い求めたりなどしたらはしたないと叱られる類のものであるとはご存じでしょうか」


 エミリーは笑顔でにっこりと冷ややかな笑顔で答える。そう私は嘘は言っていない。読んだとも読んでいないとも言っていない。貴族の令嬢が読むにははしたないものであると殿下にお教えして差し上げたいるだけ。

実際には隠れて読んでいる貴族が多いらしいのは勿論知ってはいるけれど。



「そうなのか、知らなかったこととはいえ申し訳ない。噂では、エミリー嬢がモデルだと聞いていたので、そういったものとは思わず」

「殿下、迂闊な物言いはお避けくださいませ。それは侯爵家の娘の私が清らかな少女ではないと仰っているも同然です。二人きりであっても聞き逃せませんわ」


「ああ、これはすまない。軽率だった。謝罪させてくれ」


「殿下、軽々しく謝罪の弁を申すのも二人きりであってもよろしくないですね」


「言っただろう。回りくどいやり取りは好まぬのだ」


「そうですか、本心でしたのね、でしたらわたくしも考えを改めます」


「ああ、そうしてくれ。上辺の社交辞令では話ができない。エミリー嬢とは仲良くしたいと思っているからな」


「……仲良く?」


「ああ、君に頼みたいことがある。それに次年度から私は学園に入学するからな。よろしく頼むよ」



 美しく微笑む王太子の笑みにいろいろな意味で釘付けになるエミリーは、王太子に更に振り回されることになるとはこのときはまだ知る由もなかった。












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