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11.婚約破棄そのいちー脚本家エミリーー




「セイラ、お前との婚約を破棄させてくれ」


「そんな、どうしてですの?私に何か問題でもございましたか」


「いや、お前は非の打ち所もない素晴らしい令嬢だ。悪いのはこの私だ。だから何も言わずうなずいてはくれないか」


「トマス様…」




 そこへたまたま、たまたまだ、ハンナを伴ったエミリーがたまたま、本当にたまたまね、学園の誰も通らない裏庭の隅を通りかかった。


「あらあらまあまあ、セイラ様と婚約破棄なさるの?セイラ様はそれでよろしいの?」


「トマス様がそうおっしゃるならどうしようもありませんわ」



いきなりのエミリーの差し出口にトマスは眉を潜めたが、セイラが婚約破棄をすぐに承諾した為か何も言わなかった



「ありがとう。セイラ。悪く思わないでくれ」

「どうぞお幸せに」


「まあ、セイラ様ったら本当に聖女のようですわ。私、ここにこうして出会わせたのも何かの縁でございましょう。お二人の婚約破棄の証人になりますわね!あら、セイラ様、顔色が悪いですわ。ハンナさん、セイラ様を医務室にお連れしてくださる?」


「はい。セイラ様、どうぞこちらへ」



 ハンナはセイラの手を取り肩を支え寄り添うように裏庭を後にした。二人が消えたのを確認すると、トマスは隣に巻きついている彼女の手に手を優しく重ね、嬉しそうに言った。



「邪魔なセイラはいなくなった。ジュリア、これで私と結婚してくれるね」

「トマス様。セイラ様を邪魔だなんて。それに結婚だなんて、気が早いです」


「そうだな。とりあえずは婚約を結ぼう」


「そんな、トマス様はせっかちなんですね」


「あたり前だ。愛しいジュリアと結ばれるのになんの障害もなくなったのだから」


「結ばれるには、互いに愛を育むのが先ですよ?」


「ああ、もう十分に育んできただろう。ジュリア、愛してる」


「???私はまだ愛しておりません」


「なんだって!お前にはたくさん尽くしてきたし貢いでもきた。そうだ、この間買ってやった髪飾り。あの時お前はなんて言った?私の色に染まっていくと言ったではないか」



 その言葉にエミリーはすかさず突っ込んだ。



「あら嫌ですわ、侯爵家の嫡男であるトマス様ともあろう方が、ご自分でおっしゃってることが理解できないのですか。貴女、ジュリア様とおっしゃったかしら。彼女は染まっていくとおっしゃられたのですね。と言う事はまだあなたに、トマス様に染まっていないと言うことではございませんか。そうですよね、ジュリア様」


「はい、エミリー様の仰る通りです。これからトマス様と過ごして、トマス様を知って、トマス様を愛するのだと……あの、トマス様に誤解させてしまったのなら申し訳ございません。髪飾りはお返しいたします」


「いや、良い。それは私の気持ちだ、返すだなんてそんな寂しい事は言わないでくれ。まだ私への愛がないと言うのならこれから育んでいけばいい、そうだろう?」


「ええ。ですが、トマス様、私の心は今、セイラ様への罪悪感でいっぱいです。私のせいでお二人が婚約破棄されたかと思うと。トマス様を見ているとそのことが思い出されて、今でも胸が苦しくて張り裂けそうです。わた、わたし、どうしたら、」


「ジュリア様、気をしっかりお持ちになって。トマス様、今日はジュリア様を落ち着かせた方がよろしいかと。私がこのまま付き添いいたします」


「あ、ああ。すまない、よろしく頼む」



 震えるジュリアの肩にそっと手を添えるとエミリーはトマスに礼をして裏庭を後にする。トマスが見えなくなる場所まで移動すると二人は顔を見合わせ、くすりと笑った。


「エミリー様の脚本通りです、うまくいきましたね」

「ええ、そうね。でもまだまだやることがあるわ」

「なんだかますますワクワクしてきました〜!」

「あらあら、令嬢がはしたないわ、でもそうね、ワクワクしちゃいますわね、ふふふ」






 そしてしばらくの後、エミリー主催のガーデンパーティーの席にてジュリアはトマスより告げられるのだった、「真実の愛に出会った」と。





******





「ジュリア、お前との付き合いは無かったことにしてくれ」


「そんな、どうしてですの?私に何か問題でもございましたか」


「いや、お前は非の打ち所もない素晴らしい令嬢だ。悪いのはこの私だ。だから何も言わずうなずいてはくれないか」


「そんなっ、トマス様は悪くありません。私が悪いんですよね。しばらく落ち着ついて考える時間が欲しいと思ったばかりに。トマス様を責められる立場にはございませんわ。どうかその女性と末永くお幸せに」


「ああ、ジュリアも真実の愛に出会えるように祈っている」



 パーティーの喧騒より少し離れたところにジュリアとトマス、そしてエミリーはいた。

そもそもこのガーデンパーティーはジュリアとトマスの逢瀬のためにエミリーが開いたものだった。二人は今まで会わずにいたのだが、ようやくジュリアも落ち着いたからとトマスに連絡した。だが、トマスの反応があまり良くない。できればジュリアと会いたくないようだった、ならばと侯爵家の庭でパーティーを開くからトーマスに出席を求めた。大勢の中で会うのならとトマスも了承したのだったが。


 ここでまさかの真実の愛、いや計画通りだ。


 愛しいジュリアと会えないトマスに真実の愛を出会わせるーーーしかもいくつか(予定)。ジュリアとの愛は幻想だと思わせるため、新しい出会いをハンナが計画した。この国でハンナやエミリー達の様に自活したいと考える女性はほとんどいない。よい条件のお結婚相手に恵まれることが最上の生き方と考える女性がほとんどだ。

だから、トマスと婚姻を結びたい女性は沢山いるはず。リサーチにリサーチを重ね、トマスの気に入りそうな女性を探し選んだ。且つ、婚姻後、侯爵夫人として影ながらハンナ達の計画の一助になれる女性。

リサーチ自体はもともと常日頃から商会で行ってはいる。ハンナが商売に関わるようになってからは情報の精査を求めた。だから現在婚約者のいない女性はわかっているし、条件だけで言えば互いに利のある婚姻を結べそうな相手を選ぶことは難しくはない。

ただトマスの好みの女性像が絞り切れなかったしジュリアのようなお色気の力技はあまり使えないため、数人に”邂逅”してもらわなければならないかもと考えていた。

そして結果わかったことは、トマスはベタな展開が好きな可愛い男性だってこと。「ああ、これならジュリアの小悪魔テクに瞬殺だわ~」とみんなで残念な声を漏らしたのは仕方がないだろう。












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