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01.美容系配信者




 町の中心部には白い大きな教会が建っていた。

休日になるとミサが行われ、信心深い国民は神官の有難いお言葉を聞く。

子ども達はと言えば、教会が学校の役割を果たしていたので毎日のように通った。

年齢ごとに分かれていると思っていたクラス分けに違和感を覚えたのは、いつだったか。たまたま隣に立っていた男の子が「寺子屋みてえだな」といった瞬間、周りの神官たちに緊張が走ったのがわかった。そしてその男の子は年齢が上の子たちが集まる集団と一緒に勉強するようになり、いつしか教会からはいなくなっていた。


「危なかったわ…。あの男の子がいなければ、私も同じように寺子屋みたいだって言ってたわ。今考えると恐ろしい…」


 そう、私には前世の記憶がある。はっきりわかったのは教会に通い出してから。教会での様々な既視感になんだかモヤモヤしていたある日、熱心に学ぶ年長者の姿に「ここはショーカソンジュクか?」と思った。が、そもそもショーカソンジュクって何?と自分の脳内に浮かんだ言葉に疑問が湧いた。寺子屋だってそう。言葉が思い浮かんでもそれの意味がわからない。だけど教会はそういう子達を見つけ集め、記憶をさらに掘り起こそうとしているようだった。そしてわかったことは、私のような前世の記憶持ちはそれなりにいるということ。もちろん教会は普通の学校としての役割もこなしてはいた。記憶持ちと言ってもいろんなケースがあることもわかった。「かるた?」と呟いた子も上のクラスに入れられたけれど、その子は飛び級して最終的には普通に町の商店に就職したようだ。そして「寺子屋」くんの様にすぐにいなくなることもある。だから私は慎重に行動したのだ。



「ねえ、神官さま。あそこの頭がいい大きな人たちは、どうなっちゃうの?」

「そうだね。教会に勤めるかもしれないし、王城に勤めることだってある。女性は聖女様になるかもしれないね」

「聖女さま?」

「ああ、君も興味あるかい?」

「もちろん!」


 勿論ないです!といいたいが、それを言ったらこの国で異端と思われ、つまはじきに合ってしまう。それだけは避けたい。「どうしたらなれますか?」と可愛らしく聞いてみた。


「神の教えを真面目に聞くことだよ」

「わかりました!がんばります!」


 選ばれないように頑張りますよ。神の教えったって、ねえ。記憶を呼び覚ましてみればなんてことはない。この国の建国者の教えから生まれた「リンネ教」。教会の塔には綺麗な大小の鈴がぶら下がっていて、時計というものが庶民にいきわたっていないこの国に時刻というものを知らせてくれる。

朝シャララララーンとなれば目覚めだし、次は仕事開始、次は…といった感じで一刻ごとに鈴がなる。鈴の音教ね、と思っていたけれど教えを聞いているうちに輪廻教だと腑に落ちた。それもある可愛い女の子が「私、前は海の中にいたような気がする」と神官様に話しているのが聞こえちゃったから。彼女もすぐに教会からいなくなってしまったけどね。



******



 この世界の私は、王都で三番目といわれる大店の娘だった。今の私の年は十歳。教会に通い出すのは六歳になる年で、五つ下には店の跡継ぎである弟がいる。そう、跡継ぎ。女性は後を継げない。それだけで、女を馬鹿にしてんの?と言いたくなる。女性は結婚をし、旦那様を支えて、良い子を産む。この国、どうなってんの?と声を大にして言いたい。転生者はなにしてんの?男女雇用機会均等法知らないの?女性参政権は?みんないつの時代からの転生者なの?なら卑弥呼様ならどうだ!


 この国のシステムが悪いんだ。初代国王にしてリンネ教の始祖が今のシステムを作り上げた。絶対王政と強力なタッグを組んだ教会。現神官長は王弟陛下が天下っていると聞く。たしかにこの国は平和で国民が食うに困らない、国民総幸福度世界一といわれる素晴らしい国だ。だが転生者を国が取り込むこのシステムは、真の幸福ではない、少なくとも私は幸せではない。ならば、私は私のやり方で幸せを掴むのだ。教会に、国に搾取されるのはまっぴらだ。



******



 転生前の私の名は真綾と言った。子どもの頃から、綺麗なものが好きだった。

転がるビー玉、太陽にかざした棒付きキャンディー、ラメ入りのシール、母の耳に揺れる宝石、近所のお姉さんのジェルネイル。そんな私は女子高生になりついに、美容系の配信者として高校生活をスタートさせた。


 母は都内に小さいけれど質の良い商品を扱うセレクトショップを開いていた。洋服や雑貨、化粧品から健康グッズまで。美にかける情熱は傍で見ていてもすさまじかった。そして、その熱は私にも向けられた。食事に気を使い、肌に優しい服を着せられ、美しい姿勢を保つ椅子、眼を疲れさせない照明、そして何より自分で判断できる思考力を持つようにと日々教育された、何気ない生活の中で。子どもの私はもちろん無自覚だったけれど。


 高校生になったと同時に、母のお店で取り扱う商品の宣伝も兼ねてスタートした配信だった。顧客に商品をわかりやすく説明しているのがウケて、次第に一般の視聴者も獲得していった。すっぴんからの変身メイク術に、洋服のコーディネート、不用品を活かした手作り小物まで、押しの強くない話し方も心地いいと好感度アップで再生回数を伸ばした。

その一方で、私はリケジョとして突き進む。何故か?自分に合った化粧品を自分の手で作りたいと思ってしまったのだ。


 そうだ、国立大学へ行こう!


 配信の頻度は落としたけれど、アップすれば見に来てくれる登録者もそれなりにいて、大学院から化粧品会社の研究室に、そしてようやく自分のオリジナルブランドを立ち上げようとした矢先だった、わたしが事故にあったのは。






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