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二人の自己紹介

※著者の体験談をもとに書きました。

必ずしもこうではありません。考え方は人それぞれです。

 年代ものに見えるウッドテーブルを挟んで置かれたウッドチェアに二人は対面するように座った。しばらくは泣いていたが煕子(ひろこ)は顔を上げると恥ずかしそうに笑った。その膝の上には心配そうに煕子の顔を見る聖書が座っていた。煕子の目は赤く腫れていた。



「すみませんでした。あんなに泣くなんて自分でも思ってもみなくて……」



「泣きたい気持ちは分かる。気にしなくていい」



「わかりました! ありがとうございます」



「ああ。というか、丁寧語じゃなくていい。疲れるだろ」



「うん、わかった。改めて自己紹介するね、桜田煕子。

煕子のひろって字は難しくて、ひへんの、うーん。紙とペンがあれば簡単に伝えられるのに……。あ、二十二歳。OLしてます」



「俺は八百原(やおはら)光秀。歴史上の人物の明智光秀のみつひで。

二十六歳、スタントマン」



「すたんとまん?」



「映画とかドラマで崖から落ちたり、階段から落ちるのをする職業」



 「スタントマン」とは有り体に言えば様々なスタント、多彩なアクションを映画やテレビ、舞台で披露する職業である。しかし、「スタントマン」という職業を知らない人は多くいる。最初の頃は、分かりやすいと思い子供向けのヒーローの中身や敵と言っていた。ヒーローの中身はスタントマンよりスーツアクターという呼び名の方が有名である。基本的にはヒーローと敵で通じる。


 しかし、そもそもヒーローものを観ないという人が意外と多くいた。そういう人に説明をするのが難しく、悩んでいた。ある日、刑事ドラマの階段から転げ落ちたり、崖から落ちたりすることをやっていますと説明してみたら「ああ! あのシーンをやってる人か」と納得された。だから、最近では落ちる人と説明している。



「えっ!? あれって人形とかCGじゃないんですかっ!?」



「人形やCGの時もあるけど、リアルに見えないから基本的にはやる」



「えぇっ!? 怪我しちゃいますよ!! 死んじゃいます!!」



「怪我はまぁ……するけど、死なない」



「でも、テレビのニュースで事故とかありましたよね」



「不慮の事故は起きる。本当に運が悪くて、というのは悲しいが……仕方がないと思う。

だが、注意の怠慢は自分がプロのスタントマンという自覚がない、危険なシーンを撮影しているという自覚がない組で起こるんだ。

普通なら監督と現場の人全員で危険がないか、安全であるかを何度も確認してから実演するんだ。そもそも練習の時に成功しないならやらない」



「あ…………そうなんだ。ごめんなさい。失礼なことを言って」



「いや、俺も熱くなった。すまん。スタントマン、イコール怪我、死ぬと思ってほしくないんだ。そういうイメージを面白おかしく伝えている人たちが悪いんだけどな。

俺たちはシビれる、面白いと思ってもらえるアクションを撮りたいだけなんだ」



「……すごいね。自分の仕事に真剣なんだね」



「誰だってそうだ。ひろこもOLの仕事頑張ってるだろ?」



「うん。でも、光秀くんみたいには胸張って言えないかな……」



〈ワシの存在を忘れておらんか!? ワシもお話したい~~!! ず~~る~~い~~っ!!〉



 光秀と煕子が日本での職業の話をしていると聖書は叫んだ。その声は二人の脳を揺さぶるほど大きかった。意味のない行動だと理解していたが耳を手で塞いだ。



「っ……! わかった、わかった!!」



「ごめんなさい! セイくんも一緒にお話ししましょう」



〈せいくん?〉



「聖書だからセイくん。あ、もしかして名前があったりしますか?」



〈ワシは聖書、呼び名も聖書じゃ。ちょっと前は『名無しの本』じゃったが……。セイくんか、嬉しいのう! これからはセイと名乗るぞ〉



 セイは嬉しそうに両手を高く上げて喜びを表現していた。煕子はそんなセイを見て頬を緩めた。そして、優しく手触りのよさそうな金髪を撫でた。



「セイくん、『名無しの本』っていうのは……?」



〈聖書の進化前じゃ。名無しは沢山あって、聖女が召喚されるとその聖女に合った本が聖書になるのじゃ。ヒロコじゃなかったらワシは書庫から出られんかったろう。ありがとう、ヒロコ〉



「セイくん……。でも、私、聖女じゃないです。私は、そんな優れた人間じゃありませんから」



 煕子は困ったように眉を八の字にすると力なく笑った。セイは口を開けてあわあわとしたかと思えば助けを求めるように光秀を見た。



(俺に助けを求められても困るんだが。……また泣くとこは見たくない)



 断るように首を振ろうと思ったが、それをやめた。



「ひろこが聖女かどうかは俺には分からない。けど、自分を卑下するのは良くない」



「……ありがとう」



「いや、まぁ、うん。……セイ、聖女もそうだがこの世界ってなんだ?」



 真っすぐに光秀を見て、微笑んだ煕子は綺麗であった。光秀はその微笑みを見て胸の内があたたかく、なんだかむず痒いような感じがした。それを誤魔化すように視線と話を逸らした。



〈そうじゃ、そうじゃ。説明しようと思ってたんじゃ!〉



 セイは右手を縦向きの拳にすると開いた状態の左手の手のひらに下ろした。煕子の膝から上にふわりと浮かんだ。二人の間にあるテーブルの上に浮かぶと腰に手を当てた。



〈この世界……イァテールについて教えるぞ!〉



 セイは楽しそうに目を細めてにっと笑った。

お読みいただきありがとうございます。

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